久しぶりのキングズクロス駅は変わらず人が多かった。
幸い、短期休暇であるため荷物は少ない。
私はセドリック先輩たちと別れてあたりを見まわした。
パパの姿はない。
「あ、」
「こんにちは、ななしさん。お久しぶり」
「レギュラスさん。お久しぶりです」
どうしようかとウロウロしていると、レギュラスさんとばったり出くわした。
その後ろにはスピカ先輩とアルくんがいた。
2人にはコンパートメントに誘われたが、セドリック先輩たちと一緒だったので遠慮させてもらっていた。
なるほど、2人が誘った理由はこれか。
レギュラスさんを見上げると、彼は困ったように笑った。
「すまないね、そんなに警戒しないでほしい」
「…すいません。父から何か連絡が?」
「ああ。君の家の近くまで送る予定でね。君の父上に頼まれているんだ…ああ、そんな顔をしないで。君を迎えにいけないこと、とても気にしていたんだ」
私は、そんなにひどい顔をしていただろうか。
確かに駅でパパに会えると期待はしていたが、迎えに来れないくらいで、そんなに落ち込んだのだろうか。
でも、迎えに来てもらえなかったのは、ちょっと不安だった。
いっぱい心配を掛けてしまったから、なおさら。
何か事情があるのだろうことは察知できた。
これ以上、レギュラスさんを困らせるのもよくないし情けない姿なんて見せられない。
「わかりました。大丈夫です、お願いします」
「君は強い子だ…でもそう無理しなくてもいいんだよ。…なんて話をしている暇があったら行くべきか」
レギュラスさんは苦笑を浮かべながら、私の手を引いた。
大きな手がとても暖かくて、安心できた。
レギュラスさんはきっと悪い人じゃない、そう思えた。
レギュラスさんは慣れた様子でタクシーを拾って、夏に住んでいたアパートの近くの番地を伝えた。
ついてくるのかなと思っていたが、そうではないらしい。
彼らはタクシーに乗り込むことなく、私の手を離した。
「では、僕らとはここでお別れだ。気を付けるんだよ、ななしさん」
「はい、ありがとうございました」
「いいや。よいクリスマスを」
「ななしさん、また学校でね」
レギュラスさんとスピカ先輩、アルと別れて、タクシーは進む。
タクシーのおじさんは、私に話しかけることなく静かだった。
私は、外のクリスマスのイルミネーションを眺めながら帰路についた。
イギリスのイルミネーションは派手だ。
日本はイルミネーションで形や絵を描いたりするけど、イギリスではそういうことはない。
しかし、その代わりに飾り方がかなり派手。
イルミネーションの電燈だけではなくて、サンタの置物が煙突で光っていたり、たくさんのモールで彩られていたり。
とにかく多彩だった。
見ていても、あまり楽しいとは思えなかった。
終始ぼんやりと流れていく雪に埋もれた街の景色を見続けていた。
その景色が、ようやく私の知るものとなったので、荷物を慌ててまとめる。
「パパ!」
「お帰り、ななしさん」
家の近くにつくと、パパがすでに待ち構えていた。
車から飛び降りて猛ダッシュ、からのタックル。
それでもパパは微動だにしないから、この人只物じゃないなって感じする。
そんな微笑ましい光景を前に、タクシーは何も言わずに去っていく。
あれ、お金は?
「タクシー行っちゃったけど?」
「ただいまの前にそれか、ななしさん」
「あ、ただいま。で、よかったの?」
「先に支払ってある」
あ、なるほど。
パパは私の肩に引っかかっていたバックを持って、私の手を握った。
アパートは角を曲がった先だ。
パパは慣れた様子でアパートの扉を開けた。
私は靴をそろえるのも忘れて、アパートの中にもぐりこむ。
温かい。
「おかえり、ななしさん」
「ただいま!パパ!」
パパは呆れたような顔をして、もう一度お帰りを言ってくれた。
今度はすぐにただいまを言えた。
それだけで幸せだ。