29.TRIO
入院は3日だけだった。
だけ、と思うのはマグル生まれの私だけのようで、魔法界に生まれ育ってきた人たちにとってそれは重大なことだったらしい。
ハッフルパフのみんなとブラック姉弟とノットやドラコ、それからグリフィンドールの三馬鹿が来た。

グリフィンドールの三馬鹿はさすがに自分たちのせいだという自責の念があったらしい。
しかし、毎日のように訪れるスリザリン、ハッフルパフのメンツに怖気づいたらしく、なかなか入れなかったようだ。
勇敢なグリフィンドールが聞いて呆れるなあと面白く思いながらも、私は三馬鹿を向かえた。

「本当にごめんなさい、私たちのせいでななしさんが…」
「いいよ、運がなかっただけだし」

本音を言わせてもらえば、三馬鹿が悪いという点もある。
しかし、そうだとしても助けてもらったということも確かで。
怪我をした私を庇ってくれていたという話を聞いていたこともあり、そこまで責めるつもりはなかった。

三人は、あの後あったことを話してくれた。
私が倒れた後、3人で力を合わせてトロールを倒したらしい。
それを聞いたとき、ちょっと頬が引きつったのは言うまでもない。

まさか助けを呼ぶどころか、応戦していたとは。
そうせざる負えない状況だったのかもしれないが、3人もいるのだから1人くらいは教師を呼びに行ってもいいだろうに。
本当に運がよかったんだなと普段の行いに感謝した。

「でもななしさんって本当に友達が多いんだね」
「そうそう!そのせいで僕らずっと来られなかったんだから」

来られなかったのは私の友人たちのせいではないと思う。
まあ私の友好関係は意外と広い。
ただそれのほとんどはいつの間にかそうなっていただけで、特に気にかけていたわけじゃない。
というか親の七光りが大きい気がした。

その点を彼らに言ったとしても話が収束してしまうだけだから、適当に話を続ける。
さすがにきて5分もしないうちに沈黙が重くなって居たたまれなくなるなんて状況は嫌だ。

「うん、ハーマイオニーとヒキガエルを探したおかげかな」
「え?」
「ヒキガエル探すうちに、友達が増えたって言うのもあるから」

寮の違うリガリオス先輩と最初にあったのはあのヒキガエル事件だ。
その時にディゴリー先輩やルイス先輩にもあった。
まあそれ以外の人はそう仲良くなっていないが、時々ヒキガエルの子だよね?といわれることがある、不本意ながら。

ハーマイオニーは怪訝そうに眉根を潜めた。

「私はちっとも増えなかったけど」
「真面目に探してたからじゃない?私はちょっと話したりとかしちゃってたから」

まあ間違ってはいないだろう。
私は、彼女を目の前にしてその威圧的な雰囲気が人を寄せ付けないんだと思うよというほどお人よしでも無謀でもない。
彼女の左ではハリーが苦笑を漏らし、その隣ではロンが口を開いていた。

「ハーマイオニーの威圧的な感じがダメなんだろ」
「…私、そんなに威圧的かしら?」
「人によってはそう感じることもあるかもしれないけど、それはハーマイオニーのことよく知らないからだよ、きっと」

ロンが私の本音をズバッといい、それにハーマイオニーが落ち込み、ハリーがうまくフォローを入れる。
この三人はチームワークがいいようだ、長続きしそうなトリオである。

その様子を見守っていると、軽くカーテンが揺れた。
それはカーテンで仕切られている医務室でのノック代わりの合図である。

「誰か来たみたい…誰ですか?」
「…リガリオスだ」
「1人ですか?珍しいですね、どうぞ」

訪れてきたのはリガリオス先輩だった。
ハリーたちに目くばせして、いいかどうか聞いてみたが一向に反応を見せなかったので、独断で入れることにした。
まあ、スリザリンではないし問題ないだろう。

リガリオス先輩は中に入り、ハリーたちを視界にいれるや否や眉間の皺を深くした。
どうしてここにこいつらがいるんだ、といわん限りである。

「彼らもお見舞いに来てくれたんですよ」
「…そうか。これ、セドたちからだ。あいつら今日は講義が重なっていてこの時間に来られないからな」
「わざわざすみません」
「構わない」

リガリオス先輩は手に持っていたカゴを私の足の上に置いた。
それはアフタヌーンティー用のお菓子である。

入院して1日目にハッフルパフの皆が来たとき、サイドテーブルにあったお菓子を見て先を越された!と憤慨していたのを思い出す。
スリザリン組が見舞いの品として持ってきたお菓子に対抗心を燃やしたハッフルパフ組は、次の日からスリザリン組よりも早い時間に持ってくるようになった。
それを見たスリザリン組は不機嫌そうな顔をしながらも、お菓子を見舞いの品とするのをやめて、お茶とお花を持ってくるようになった。

その結果私はお花と美味しいお茶とお菓子に恵まれた優雅なアフタヌーンティーを過ごすこととなる。
今日はスリザリン組も授業でこの時間に来ることができず、フクロウ便で朝のうちにお茶とお花を送ってきた。

「せっかくですし、リガリオス先輩もいかがですか。茶葉はスリザリン組御用達のものらしいですよ。名前は知りませんけど」

ハリーたちは言うまでもなく、一緒にいてくれることだろう。
リガリオス先輩が来ても椅子を譲らないことからも見て取れる。
…彼らは警戒した子猫のようにリガリオス先輩を睨んでいるから、あまり穏やかではないのか。

リガリオス先輩は私の言葉に、ハリーたちを見た。
そりゃあ、そうだ。

「ハリー、いい?」
「え?あ、ああ…うん、いいよ」

ハリーはリガリオス先輩に向けていた視線をこちらに移した。
そして曖昧な返事をした。
その隣でロンは顔をひきつらせていた。

リガリオス先輩はその言葉を聞いて、杖を振って椅子を呼び寄せ、ハリーたちと反対側に座った。
そして慣れた手つきでお湯やカップを呼び寄せ、お茶を淹れ始めた。
その手際の良さをハーマイオニーはキラキラした目で見ていたし、ハリーは驚いていた。
ロンだけは見慣れているのだろう、なんともない顔をしていた。

全員にカップが行きわたり、部屋の中はお茶のいい香りでいっぱいになった。

「わ、今日はエクレアだ!生もの!」
「この前、生クリームが食べたいといっていたからな」
「クッキーとかスコーンもいいんですけど、やっぱり生クリームが欲しくなるものですから。でもまさか本当に用意してくれると思わなかった」

ふわふわの生クリームを中央にたっぷりとのせたエクレアが今日のお菓子だった。
小さなそれが10個ほど並んでいる。
数が多いような気がするが、基本的に私の部屋には多くの人が訪れる。
そのため、いつも大目に用意してくれているのだ。
余ったときにはマダム・ポンフリーに差し入れしたりしている。

お手拭きを手渡してくれるリガリオス先輩にお礼を言って、念入りに手を拭く。
そして、チョコレートと生クリームたっぷりのシューにかぶりつく。
何とも幸せな時間である。

「なんかこれなら僕も入院したいくらいだよ」
「ロン!」

咎めるようにハーマイオニーが声を上げたが私は大して気にしていない。
リガリオス先輩が呆れたように彼を見て、「こうはならないだろうな、お前じゃ」と小さくつぶやいた。
それを聞いていたのは幸い私とハリーだけのようだった。
ハリーはその言葉に苦笑するだけで否定はしなかった。
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