25.PRIVATE TEATIME
夕食はまあ、散々だった。
俺のいない間に何があったのか、ようやく見つけたセドの周りはお通夜みたいな状態。
ななしさんだけがオロオロしてあたりの人間を慰めていた。

夕食の時も皆口数が少ないし、まったく何事なのだろうと思いながらの食事はちっともうまくない。
寮に戻ると、1年の女子組はすぐに部屋に戻ってしまった。
いつもなら談話室でちょっと話をしたりするのに、今日は何なんだ。

談話室に残ったセドに何があったのか聞くと、あほらしい返事をもらった。

「僕、ななしさんにプレッシャーかけちゃってたみたいだ。ななしさんはクィディッチにそこまで興味がないのに、選手にって暴走してさ。本当に申し訳なくて」

どうも、こいつらはいまさらそれに気づいたらしい。
ななしさんが選手になりたがっていないのは、明らかだった。
元々物静かなタイプのななしさんがクィディッチみたいに騒がしいことが好きなわけがない。
俺はそれをわかって、ななしさんを茶化す気分で勧めていたが、セドは結構本気だったみたいだ。

まあセドは見かけによらずクィディッチ狂だし、クィディッチのこととなると周りが見えなくなるやつだとは思っていたが。
ここまで見えていなかったのかとちょっと呆れた。

「ななしさん、ストレス感じてたみたいで。でも発散場所がなくて、考えた末にポッターのところに行ったらしいんだよ。で、ポッターに愚痴を聞いてもらったって」
「へえ。やるなポッター」

なぜ、ななしさんがポッターに八つ当たりしに行ったのかは謎だ。
あいつも頭に来てて、冷静な判断ができなかったんだろうけど。
そこまで考えて、ななしさんが冷静な判断をすることができなるくらいに参っていたのだと気づいた。
ななしさんは意外と気にしていたようだ。

それにしても、唐突に表れて八つ当たりを仕掛けてきた女に対して、寛大な反応をしたポッターには脱帽である。
11歳にしてはかなり大人な対応であったといえよう。
ただ、ななしさんの八つ当たりがどんなものであったのかにもよるが。

どうせ、ななしさんのことだから手が出るとか罵倒するとかそういうのじゃないんだろう。
…いったいどんな八つ当たりだったのか、俺はそこに興味がある。
どうせあの可愛い顔じゃあ八つ当たりしたって、そんなもんご褒美にしかならない。
ある意味でポッターは役得である。

「で、お前らは申し訳なくなってたってわけか」
「そうなんだ。…しかも気を使わせちゃってさ。本当に申し訳ないよ。ななしさんのほうがずっと大人だ」
「本当だな」

ななしさんもまた11歳にしては大人びていて、冷静だ。
よく俺はななしさんをスリザリンらしいというが、それは敬称である。
スリザリンのいいところだけ、冷静で礼儀を忘れないところだけをななしさんは持ち合わせている。

だから俺を茶化す時もきちんと弁えている。
超えてはならない一線を決して超えないし、敬語を忘れることもない。
俺はそれに関してななしさんを評価して、認めているから、皮肉を言われたりしても気にはしない。
それがななしさんなりのコミュニケーションであることを知っているから。

「まあ、お前にできることはあれだ、ひとつしかない」
「いつも通りに、だろ?」
「わかってるじゃんか」
「でもさ、申し訳ないんだよ、本当に」

このお人よしすぎる馬鹿になんといえばいいのだろうか。
セドもわかってはいるのだ、セドが申し訳なさそうにすればそれにななしさんが気を使って、またそれに申し訳なくなっての無限ループにはまるということに。
だが、それをわかっていながら打破することができない。
まったく厄介なやつだ。

「ななしさんは確か甘いものが好きらしいぞ。あ、毒々しい奴はダメらしいけど」
「知ってるけど…」
「おっまえ鈍いな。お詫びを称してお茶会でも開いてみたらどうだ?って言いたかったんだよ。お茶も好きみたいだしな、ななしさんは。そうすりゃお前もななしさんと話ができて、ななしさんはおいしいお菓子が食べられる。両者が喜べる。最高じゃないか」

後ろめたいことがあるとき、もっとも楽にその感覚を無くす方法がある。
それは何か物質を相手に渡して、隙間を埋めるというものだ。
しかし、それがあからさますぎてはいけない。
あくまで自然にできてしまった外堀を埋める必要がある。

そこで必要になるのは相手の情報。
最適なものを用意し、最適な時間で提供する。
そうすることで相手に怪しまれずに埋めることができる。
それが俺の持論である。

ただ、ななしさんは賢い。
それに気づく可能性もある。
が、ななしさんは賢いから気付いても何も言わないことだろう。

「やっぱりジャックは人付き合いがうまいね」
「馬鹿、俺の場合は要領がいいっていうんだよ。お前が不器用なだけだ」

俺の話を聞いてようやく元気を取り戻したセドは、お菓子は何にしようかと今から計画している。
全く、ななしさんとセドだとどっちが11歳かわかったものじゃない。
いつにしよう、と悩むセドに俺はハロウィンを勧めた、お菓子が容易く手に入って違和感がない日だ。




パパからの手紙には、お菓子とお茶が梱包されていた。
私は不思議に思いながらも手紙を開くと、見出しに綺麗な筆記体でHAPPY HLLOWEENと書かれていた。
なるほど、ハロウィンの時期らしい。
この時期になるとお菓子がたくさん食べられるがきちんと食事も摂るように、と茶化すように書かれていた。

私はパパが見ていないのをいいことに、それをまるっと無視してお菓子ばかりを口にしていた。

「イギリスのハロウィンはすごいね!」
「珍しくななしさんが元気だわ…」
「本当。お菓子が大好きなのね」

土曜日、私たちは裏庭でお茶会を開いていた。
主催はディゴリー先輩とルイス先輩。
彼らはおそらくスピカ先輩といったあの厨房からお菓子をもらってきたのだろう。
テーブルの上には、かぼちゃのパイやタルト、クッキー、チャンク、スコーン、ビスコッティ…ことごとく甘いのばかりを用意した。

ハンナとスーザン、ミーニャはそれを見て苦笑したが、私はとてもうれしかった。
変な色をしているわけでもなく、ただ素朴でおいしそうなお菓子たち。
お茶を入れてくれたのは意外なことにルイス先輩だった。
彼の両親はお茶に煩いらしく、ルイス先輩もその教育を受けているため淹れるのが上手なんだとディゴリー先輩が教えてくれた。

「うー、どっちにしよう」
「ななしさん、いい加減にしないと夕食を食べれなくなるわよ」
「夕食いらないもん」
「お前はガキか」
「正真正銘、満11歳のガキですよ」

ハンナがお母さん風を吹かせてそう言ってきたが、関係ない。
パパにも食事をきちんととるようにとそういわれたが、ばれなければOK。
ハロウィンは今だけなんだから、ちょっとくらいいいだろう。

迷った末に、キャラメルのチャンクを食べやすいように砕いて口に入れた。
ふわっと香ばしいキャラメルの風味が口いっぱいに広がった。
幸せすぎる瞬間に、思わず頬がほころぶ。

「もう、ななしさんったら幸せそうな顔して」
「毎日がハロウィンならいいのに!」
「太るわよ、ななしさん」

両隣からいろいろと言われたので、しょうがなくいったん食べる手を止めてお茶を飲んだ。
渋めのダージリンが、甘いお菓子とよく合う。
他の2人はミルクティーにしていたようだが、甘いものをたくさん食べている私はストレートでちょうどよかった。

次は何を食べようと、ティーカップを口につけたままテーブルを見渡す。
可愛らしい一口サイズのタルトを見つけて、それを手に取った。
両隣からは諦めたようなため息をが聞こえた。

「本当にななしさんは甘いものが好きなんだね」
「そうですね。こっちに来てからは甘いものがたくさん食べられていいです」
「そっか。でもきちんと肉も食べるんだよ。育ち盛りなんだから、バランスよく食べないと」
「なら、ディゴリー先輩が毎食私のご飯を取り分けれくれればいいと思います」

ルイス先輩に取り分けられると、それはそれでバランスが悪い。
私一人だと甘くなる。
適任はディゴリー先輩だろう。
半ば冗談でそう提案したが、意外にもディゴリー先輩少し驚いただけで、いいよと言ってくれた。

ちょっとわがまま言いすぎたかなと思ったけれど、ディゴリー先輩がちょっと満足気だったのでいいだろう。
prev next bkm
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -