24.SWOOP
怒りで突撃したはいいものの、ポッターはそこまで悪い人ではなかった。
悪い人だと思っていたわけではないが、彼は常識的だった。
自分が悪いことをした上で選手になるということに負い目を感じていたし、なにより推薦されたから受けただけで、彼自身はクィディッチに興味がないときた。

これは私が悪いと思って、すぐに謝った。
ポッターは気にしないでいいといってくれたし、その上愚痴まで聞いてもらってしまった。
これは本当に申し訳ないなあと思う。
今度お礼をしなければならないだろう、お菓子でも持っていこうか。
大広間まで一緒に行く間、私は他の寮についての話をした。

どうやら私のように様々な寮の人と知り合いである人は珍しいらしい。
とくにスリザリンはどこの寮ともあまり仲が良くないようで、場所も知られていないとか。

「スリザリン寮は地下よ。湖の下にあって、静かでいいとところ。夏は涼しくていいって言ってたよ」
「へー、あの根暗たちにはちょうどよさそうだな」
「ロン、失礼よ」

どうもスリザリンは様々な寮から嫌われているようだ。
そう言えば、グリフィンドールとスリザリンは犬猿の仲なんだとディゴリー先輩が言っていたっけ。
なぜこうも嫌われているのか、私にはいまいちわからなかった。

ハッフルパフがスリザリンに嫌われるのは、たぶんスリザリンから見てハッフルパフ生はのろまでどんくさいからだ。
実力主義のスリザリンとハッフルパフの気が合わないのは仕方がない。

「ななしさんはどうしてスリザリンに知り合いがいるの?」
「パパがスリザリン生だったから」
「そうなの?ななしさんはちっともスリザリンらしくないわね」

たぶんそれは私のことをあまり知らないからそう思うのだろう。
少なくともハッフルパフの子たちは私をスリザリンらしいと称することがあるし、自分でもそう思うことはある。
それでもハッフルパフで認められているのは、ハッフルパフ生の優しさゆえだろう。
だから、私はハッフルパフが好きだ。

そんな話をしているうちに大広間についた。
ハーマイオニーはまだ話足りないらしく、またお話しましょ、といっていた。
ポッターとウィーズリーも同じようなことを言っていた。

「今日はありがとう、じゃあまたね」
「うん、またね」

グリフィンドール生もいい人が多いんだろうなあと思いながら、ハッフルパフのテーブルに戻った。
戻ると、待ちかねたようにハンナとスーザンが私の両隣につく。

「ちょっと!なんでハリーと一緒にいたの?」
「なんでって、ちょっとね。恥ずかしいことしちゃったよ、まったくさ」
「なにそれ!っていうかハリー、結構ななしさんのこといい感じに見てたよね?スーザン」
「確かにね…!」

なんでこうもハッフルパフ生は噂好きなんだろう。
というか、女の子はみんなこんなもんなんだろうか。
私がポッターのところに突撃してしまった理由の一端を担っている二人を私はあきれ顔だ。

「でもハリーじゃあななしさんに釣り合わないわね」
「なにそれ。スーザン、失礼じゃない?」
「ななしさんは年上の人のほうが似合うわ」

確かに、とハンナまで頷いている。
何やら色恋沙汰の話に持っていかれそうだ。
クィディッチの話もこりごりだが、こういう話も厄介だ。
そう思い、口を閉ざした私を無視して2人はきゃっきゃと話している。

ななしさんの隣に似合う人は、という話はいつの間にか、ななしさんに恋人ができたらどんな人かという話にまで発展した。
あほらしくて、言葉もない。

「でもスリザリン生の先輩とかも似合いそうじゃない?」
「知的カップルみたいな?いいわね、それ」

よくない。
どうしてそんな話になるのか。
それに男の人でスリザリンの先輩の知り合いはいない。
話についていけない私は、ジュースを飲みながら聞き手に徹している。

「何の話?」
「あ…ディゴリー先輩」
「あ、いえ、えっと…」
「私の彼氏は誰がいいかっていうのを話してたみたいですよ。で、結局誰なの?」

ミーニャと一緒にきたディゴリー先輩が若干不機嫌そうに話に加わった。
どうやら彼も色恋話はあまり好きではないらしい。
私はちょっと意地悪にスーザンとハンナに問いかけた。
2人はばつの悪い顔をして、ええと、と口ごもっている。

私はそれを尻目に、ゴブレットの中のグレープフルーツジュースを飲み干した。

「ディゴリー先輩とかいいんじゃない?」
「さっき知的カップルがいいとかいってたの、誰よ」
「もう、ななしさん怒らないでよ。冗談だって」
「失礼でしょ、ディゴリー先輩にも。適当なこと言わないで」

全く、私なんかと恋人なんて悪い冗談だ。
こんなちんちくりんを隣に置いたところで、恋人というか妹みたいなものだろうに。
それで勘違いなんてされたら可哀想だ。

「ななしさん、怒ってる?」
「別に?女の子ってそういう色恋話好きでしょ?」
「まあ、そうだけど。ななしさんは嫌いなの?」
「聞く分には好き」

嫌いではないし、そういう話に興味がないわけでもない。
でも自分の意図しないところで勝手にうわさを流されたりしたらたまったものではない。
このクィディッチの件もそうだ、勝手にうわさを流されて迷惑をしているし。

何だか空気が悪くなってしまったので、別の話題に切り替えよう。

「でも、ポッターって思っていたよりもいい人ね」
「あら、ななしさんがそういうのって珍しくない?」
「んー、そう?今日、ちょっと彼に八つ当たりしちゃったんだけど、笑って許してくれて、その上愚痴まで聞いてもらっちゃった。いい人だよ」

普段の私はそんなに人に対して辛口評価だっただろうか。
ちょっと気を付けようと思いながらも、ポッターの話をしてみた。
本当に彼はいい人だった、ちっとも嫌な顔をしないで八つ当たりしに来た人の話を聞いてくれるなんて。

スーザンはちょっと驚いた顔でこちらを見ている。
そんなに物珍しいのだろうか。

「そんなに珍しい?」
「うーん…珍しいと思うわよ。ななしさんって手放しで人を褒めること滅多にないじゃない」
「あんまり意識したことないけど…そうかもね。なんだろう、今回は自分に負い目があったから評価が高いのかな」
「負い目?」

私はクィディッチの選手に推された原因の一端をポッターがになっていると思って文句を言いに行ってしまったことを話した。
何度話しても恥ずかしいことだ。

スーザンはそうなの、と少々思案顔だった。
なんだろう。

「ごめんなさい、私たちななしさんの気持ちも考えずに無理やり選手にしようとしていたのね」

今気づいたのか。

まさかそんな返事が来るとは思っていなかったので、びっくりした。
え、いいよ、とうっかり返事をしてしまうくらいには驚いた。
隣のハンナやディゴリー先輩も申し訳なさそうにしている。

「え、いいよいいよ。もう済んだ話だから」
「そう?」
「うん。それにクィディッチに興味がないわけじゃないし、ね?」

どうして私がこんなにフォローをいれなくてはならないのか謎だが、今はそうすべきだと思った。
ディゴリー先輩なんてまるで飼い主に叱られた犬みたいな落ち込みぶりだ。
この席だけお通夜みたいな状態。
ミーニャが居たたまれなさそうに座っているのが可哀想である。

どうにもこうにも収束のつかなくなってしまった状況を打破したのは、ルイス先輩だった。
彼は夕食ギリギリの時間に滑り込むように大広間に入ってきて、私たちを見つけたらしい。

「は?なんだよ、なんでこんなに暗いんだ?気持ち悪いな」
「ルイス先輩、何とかしてください」
「なんとかって、お前、何したんだよ」

少なくとも私は何もしていない。
彼らが勝手に落ち込んでいるだけだ。

ルイス先輩が困惑している間に、テーブルの上に夕食が出てきた。
いいタイミングだ。

「ま、とりあえず飯にしようぜ」
「そうですよ。ディゴリー先輩、私の分とりわけでください」

落ち込んでいるディゴリー先輩にそう言ってプレートを渡すと、彼はいいよと弱弱しく微笑んで取り分けてくれた。
ありがとうございます、と言えば、少し元気が出たのかうん、と返してくれた。
何だか本当に犬のようだなあと思いながら、私は夕食のミートパイにフォークを突き刺した。
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