23.LION
グリフィンドール寮の絵画の前。
そこで、ハッフルパフのネクタイをした女の子が仁王立ちしていた。

「あなたがポッター?」
「…そうだけど…」

何事だろうとロンに目くばせすると、彼もまた困惑した顔でこちらを見た。
ロンも彼女を知らないらしい。

長い黒髪に、眉の上で綺麗に切りそろえられた前髪。
ぱっちりとした丸いクルミのような瞳は長い睫に縁どられている。
こちらではあまり見ない、象牙色の肌をしたエキゾチックな子だ。
見た目はとても可愛いのだが、その表情は険しい。

「初めまして、私、ななしさん・ななしというの。よろしく」
「は、初めまして…ハリー・ポッターです」

ハーマイオニーのようにはきはきとした口調だ。
気の強そうな感じでちょっと怖い。
というか、なぜか怒っているように見えた。

僕は彼女を怒らせるようなことをした覚えもない。
それどころか会ったこともない。
本当に初対面なのだ。

「えっと、どうかしたの?」
「ポッターはクィディッチの選手になるんでしょ」
「え?うん」
「クィディッチは好き?」
「うーん…まだやったことがないからわからないけど」

どうやら、僕がクィディッチの選手になることが気に食わないらしい。
今までもそういう人は結構いた。
僕としてもルールを破ったのに、なぜかそういうことになってしまって戸惑っているというのが本音だ。
本当なら罰則があってもいいのに、こんなことになるなんて。

クィディッチについてはロンから多くのことを聞いた。
雑誌も読んだし、いろんな人から面白いスポーツだと聞いた。
だが、やってみないと好き嫌いなんてわからない。

僕が思ったことをそのままいうと、ななしさんは少し驚いた顔をした。
先ほどまでの怒りはどこへやら、ちょっと戸惑っているようだった。
大きな目をぱちくりとさせて、そうなの?と聞き返す。

「うん。僕、ずっとマグルの世界で育ったんだ。だから、クィディッチについてはあまり知らなくて」
「なんだ…そうなの。じゃあ、ポッターは悪くないね…ごめんなさい、八つ当たりして」
「え?八つ当たり?」

彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。
手をもじもじとさせて、ちょっと恥ずかしそうにしている。

なぜ、僕に八つ当たりしていたのか、というかなぜ怒っていたのか。
そのあたりが全く分からない。
ロンも同じようで、相変わらず訳が分からない、という顔をしている。

「んと、どこから説明すればいいんだろ」
「…あのさ、とりあえず立ち話も難だし、中に入らない?」
「いいの?」

いい加減立ち話も疲れたので、そう提案すると、ななしさんは顔を挙げた。
どうやら疲れていたのは僕だけじゃないらしい。

ななしさんは、ありがとう、と笑って僕らの後をついてきた。
笑うとものすごく可愛い、怒っている顔よりもずっと可愛かった。

談話室に入って、暖炉の前のソファーに腰かけた。
ななしさんは僕の前に座って、ロンは僕の隣。
ななしさんは談話室をきょろきょろと見回していた。
僕がその様子を小動物みたいだと思いながら見ていると、眼があった。
ななしさんは恥ずかしそうに、初めてグリフィンドールの談話室に来たから、といった。

「グリフィンドールの寮は、赤いのね。レンガ造りだし、ハッフルパフとは結構違う感じ」
「そうなの?」
「うん。寮によってみんな造りが違うのね」

僕もロンもグリフィンドールの談話室以外に行ったことがないので、よくわからないが、ななしさん曰く、寮によって全然違うものらしい。

ハッフルパフの寮内は木製で、オレンジのランプなんだそうだ。
ちなみにスリザリンとレイブンクローは石造りなんだといっていた。
寮の色合いはイメージカラーを模していることが多いとか。
よく知っているなあと感心した。

「あ、ごめんね。本題から逸れちゃって」
「ううん。よく知ってるんだね。僕らそんなことちっとも知らなかったよ」
「まあ、そうだよね」
「行ったことがあるの?」
「うん。知り合いがいるから呼ばれたりすることがあるの。グリフィンドールには知り合いがいないから、今日がはじめて」

ななしさんは結構いろんなところに知り合いがいるようだ。
グリフィンドール以外の寮には知り合いがいるみたいな口ぶりだったし。
ロンが興味深そうに話を聞いていた。
彼の兄弟は多いが、みんなグリフィンドールだから他の寮になんて行く機会はなかっただろう。
僕だってそうだ、招かれない限り、他の寮に行くことはほぼない。

「あら、ななしさんじゃない。どうしたの?」
「あ、そっか。ハーマイオニーはグリフィンドールだった」
「え、なんの話?」

先ほどグリフィンドールに知り合いがいない、といったななしさんだったが、いたようだ。
談話室に入ってきたハーマイオニーが、僕らとななしさんを見比べて不思議そうな顔をした。
どうらやこの組み合わせが気になるらしい。

「ううん、何でもない。思いっきり話逸れてたね」

ななしさんは苦笑しながらそういった。
ハーマイオニーは首を傾げて、隣に座ってもいいしら、とななしさんに訪ねていた。
ななしさんは少し迷ったようだけれど、いいよ、といった。
本題は、別にハーマイオニーがいても問題のない話らしい。

「あー、えっと。私がポッターに八つ当たりしちゃったって話なんだけど」
「八つ当たり?ななしさんが?珍しいわね」
「ちょっとね…原因はポッターがクィディッチの選手になったことなんだ…いや、ポッターは悪くないし、私もイライラしていて判断力鈍ってみたいで。本当にごめんね」
「え、いや、別にいいよ。たいしたことなかったし」

八つ当たりと言っても、ななしさんはグリフィンドール寮の前で仁王立ちしてこちらをにらんでいた程度だ。
別に殴られたとか暴言を吐かれたというわけではない。
八つ当たりというには可愛らしいものだ。

ななしさんの話は、確かにやりきれない感じがした。
僕が選手になったばっかりに、ななしさんも選手になるべきだといわれ続けたらしい。
ななしさんも僕と同じようにマグルの世界で育ったからクィディッチに興味はない。
興味がないのに、多くの人に選手になれと言われて気が参ってしまったようだ。
だから僕にちょっと文句を言おうと思ったらしいが、僕自身がクィディッチをあまり知らなくて、推薦されただけと言われて毒気を抜かれたと。

「ななしさんも大変だね」
「うん…ありがとう。ハッフルパフとかスリザリンの人には本当にいろいろ言われて。結局私を利用して、グリフィンドールに対抗したいってだけじゃない?それってなんだかムカつくの。…もちろん、本当にチームに入ってほしいって思っている人もいたけどね」

ハッフルパフとスリザリンの組み合わせが全く想像できなかったが、ななしさんは幅広い対人関係を持っているのだろう。
だからこそ、こういった事態に陥ったときに様々な人から、いろいろ言われるというわけだ。
本当に疲れているらしく、はあとため息をつくななしさんに同情した。
さすがのロンも、彼女の様子を見てクィディッチを進めることはなさそうだ。

「ほんと、ごめんね。ポッターは悪くないのに、愚痴まで聞いてもらっちゃって」
「ううん、いいんだ。間接的にだけど僕も関わってるし」
「ありがとう」

ななしさんはかなりいい子だ。
素直に謝ったりお礼を言っているところに好感を持てた。
同い年だといっていたけれど、どこか大人びていて。
彼女に会えたことはクィディッチの選手になるにあたって、一番の収穫かもしれない。

「ななしさん、せっかくだし、一緒に大広間まで行きましょ」
「もうそんな時間?ごめんね、何か用事はなかった?」
「大丈夫だよ、ね、ロン」
「ああ、暇だったし」

ななしさんはハーマイオニーに言われて、時間に気付いたらしい。
かれこれ1時間半ほど話をしていたが、用事はなかったし、ななしさんの話は愚痴だけではなかったし楽しかった。

気難しいハーマイオニーもななしさんを気に入ってるようだし(いつの間に知り合ったんだろう)、彼女が多くの人と関係を持っているというのも頷ける。
それだけの魅力が、ななしさんにはあると思う。
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