22.HEAT UP
私がミーニャを助けた、という話は夕食の時にはハッフルパフ内に広まっていた。
原因はあの男子らしい。

「誰よ、あれ」
「アーニー・マクミランね。彼、お喋りだから」
「勘弁してよ…ディゴリー先輩たちに知られたら突撃される」
「もう知られてると思うわよ」

あの時一緒に騒いでいたスーザンは冷静さを取り戻したようだ。
しかし、マクミランは違ったらしい。
いまだ冷めやらぬ熱を、いたるところで放出しているようだ。

私はディゴリー先輩のあのキラキラ光る瞳を思い出して、頭を抱えたくなった。
なんて言い訳をすれば彼のクィディッチ熱を収められるのだろう。

「ななしさん!」
「ほら来た…」
「あきらめた方がいいわよ」

夕食の席は目立たないように端っこに、しかもスーザンとハンナの間に挟んで隠れていたのに、ディゴリー先輩は私を見つけたみたいだ。
彼が予想通り、キラキラした目でこちらに来るのを私は見てしまった。

スーザンは苦笑してそう言い切った。
くそ、他人事だと思って。

「ななしさん!話は聞いたよ」
「…どんな話ですか」
「箒から落ちたミーニャを助けたって!2,3メートルも距離があったのに急降下してキャッチしたって!すごいよ!」
「ありがとうございます」

いつもの穏やかさはどこに行ったのか、興奮した面持ちで話すディゴリー先輩を私は苦笑で受け応えした。
いつもはニヤニヤ顔でその様子を見ているルイス先輩まで、頬を高揚させている。
これじゃあルイス先輩も止まらなそうだ。
リガリオス先輩を誰か呼んできてほしい。

「スーザン、リガリオス先輩呼んできてよ」
「え?なんで」
「…これ誰がとめるの?」

スーザンはあからさまに嫌そうな顔をした。
リガリオス先輩はレイブンクローなので、呼ぶにしても行きにくいのだろう。
私の心情を知っているくせに、いやよ、と返してきた。

ディゴリー先輩とルイス先輩が目の前でクィディッチの素晴らしさについて語っている。
テーブルには私が食べようとしていた夕食が熱を失い、もの悲し気に白いプレートに鎮座していた。
可哀想なスープとチキンを私は見て、スーザンに小声で話しかける。

「誰がとめるの」
「食事になれば止まるでしょ」
「ななしさん、聞いてる?やっぱり、クィディッチに向いてるって」
「あの、ディゴリー先輩?食べそびれますよ」

スーザンはもう投げやりである。
その顔には巻き込むな、と書いているようだ。

私はスーザンのアドバイスに従って、ディゴリー先輩たちに食事を勧めた。
彼らは一旦話すのをやめて、思い立ったように食事を始めた。
さすがに食べ盛の男子にとって夕食は大切らしい。

私は冷めたスープを流し込んで、その場から逃げようとした。
それを、ハンナがカーディガンの裾をもって離さない。

「…ハンナ」
「ダメよ、ななしさん。私、ななしさんがチェイサーになるのを楽しみにしているの」
「ウソでしょ…」

どうやら私の味方はいないらしい。
私は席を立つのをあきらめて、席に座りなおした。
レイブンクローのテーブルを見てリガリオス先輩を探したが、見つからなかった。
これでリガリス先輩もクィディッチ好きだったらどうなるのだろうという考えが脳裏をかすめたが、考えないことにした。



アーニー・マクミランに対しての印象は頗る悪い。
彼のお喋りのおかげで私はディゴリー先輩たちにクィディッチがいかに素晴らしいものなのかについての熱弁を1時間以上聞かなければならなかった。
それに加えて、ハンナやスーザンは調子に乗って、事あるごとに私にクィディッチの雑誌を見せてきた。
唯一の救いは、目を覚ましたミーニャがこの現状を見て、申し訳なさそうにしてくれたことだ。

「ごめんね、私のせいで…」
「いいよ、ミーニャ。…あのさ、お願いがあるんだけど」
「え?」

ミーニャにクィディッチの話は、箒を思い出して怖いから、と控えめに言ってもらうことをお願いしたところ、彼女は苦笑しながら了承してくれた。
そのおかげで、私を取り巻くクィディッチ熱はようやく終息を見せたのだ。

しかし、彼はそうはいかなかった。

「ななしさん、考えてくれよ。ハッフルパフのためなんだ」
「そういわれても、火事場の馬鹿力ってやつだよ。そううまくはいかないって」

この前、ハーマイオニーに遭遇してしまい、なかなか行けなかった図書館に来たというのに、これだ。
私はため息しか出てこない。
借りた本を返すためにカウンターに行ったところを、アーニー・マクミランに捕まったのだ。
そこから彼はストーカーのごとく、私の後をついて回って、クィディッチについて語っている。

それに聞いた話によれば、一年生はクィディッチに参加できないらしい。
だから、今どんなに説得して私が頷いたとしても、参加するのは来年から。
だというのに、気の早い彼は一人、私の説得に精を出していた。

「だから、考えてはおくよ。でも、一年は出られないんでしょ」
「グリフィンドールのポッターは出るらしいけどね」
「そりゃ例外でしょ」
「なんでポッターはよくてななしさんはダメなんだ」

知るか。
まるで自分のことのように悔しがるマクミランを一瞥して、私は本棚に目を移した。
この前、スピカ先輩のオススメで借りた本はどれもわかりやすく、面白かった。
ということで、また一年向けの本を探しているのだ。
今度は妖精学の本を借りたいなあと思いながら本棚を移動する。
当たり前のごとく、マクミランはそのあとをついてくる。

かれこれ一時間くらいそうされているので、なんとなく慣れてしまった。
慣れてしまったことに、なんとなくもの悲しさを感じてため息をつく。

「…何しているんだ、ななしさん」
「何って…借りる本を探しているだけだけど…ドラコ」

本棚の陰からひょっこり顔を出したのは、ドラコだった。
彼を図書館で見るのは初めてだったから少し驚いた。
セオドールやアルはときどき見かけたが、彼は初めてだ。

ドラコは手に歴史書を抱えている。
どうやら彼もまた勉強熱心らしい、スリザリン生はそういう人が多い。

「なんで後ろに男をひっつけて回っているんだと聞いてるんだ」
「好きで引っ付けてるわけじゃないよ」
「ストーカーか」
「そんな感じ」

どうやら私がマクミランを引っ付けて回っていると勘違いしていたらしい。
ドラコが勘違いしているということは、他にも勘違いしている人がいるということだ。
うわあ嫌だな、というのを顔に思い切り出すと、苦笑された。
笑うとなんとなく子供っぽくてかわいい。

ストーカーと呼ばれたマクミランは、ドラコの顔を見て怪訝そうにしていた。
人の顔を見て顔をしかめるって結構失礼だと思う、私の周りの人はよくするけど。

「何の用だよ、マルフォイ」
「少なくとも君に用事はない、マクミラン」

こういう切り返しはやはりスリザリン生のほうがうまい。
マクミランの会話をすっぱりと切り捨てて、ドラコはこちらを見た。

「どうしてこうなったんだ」
「…その前に聞くけど、ドラコってクィディッチ好き?」
「嫌いなやつのほうが少ないだろうな」

好きなんだ、と内心苦虫を噛み潰した。
素直じゃないが、クィディッチという単語を出した時の目の輝きはディゴリー先輩たちによく似たものだった。
これは味方には成りえないかもしれない。

そう思いながらも、一応簡単に説明をした。

「この前の飛行術の授業で箒から落ちた友達を助けたのよ。そこからクィディッチ好きの先輩とか友達に、選手にならないかってずっと言われてるの。マクミランのせいよ」
「それは本当か?箒から落ちた人を助けるなんてポッターなんかよりもずっとすごいことだ!」
「ドラコ、声を落として。司書さんに怒られるよ」

やっぱりか。
もう諦めの域に達しそうである。
誰に言っても、みんなクィディッチ好きで、私の味方をしてくれる人はそうそういないことがよく分かった。
しかも、引き合いに出されるポッターは選手になるとのこと。

ドラコはなぜもっと早くそれを言わないといわん限りだ。

「運が悪いな、先生にみられていたかそうでないかの差だろう」
「そうなんだよ!ポッターばかりずるいよな」
「珍しくお前の意見に賛成だ、マクミラン」

悪いことにドラコはマクミランと手を組み始めている。
これは味方になるどころか、敵になってしまう。

「そのポッターは何をしたの?」
「僕が投げたものを取りに行っただけど」

なぜ授業中に物を投げたのか、なぜドラコが投げたものをポッターが取りに行ったのかが謎だ。
実習とはいえ、授業中に物を投げる事態に陥るというのが想像できない。
意外とドラコは不真面目なんだろうか。

どうも聞く話によると、ポッターは投げられたものを箒でとって、偶然にもその様子をマグコナガルというグリフィンドールの寮監に見られたらしい。
その際、本当は箒に乗ってはいけないという先生のいいつけを破ってそうしたらしい。
だからスリザリンからの反感は大きかったようだ。

確かに、それはあまり平等とは言いにくい。
グリフィンドールの寮監が贔屓にしたようにも見えるだろう。
というか、実際そうなのだろう。
本来なら1年生はなることができない選手になることを、寮監が許したのだから。
規則を破った生徒にそういう期待をかけるというのは、なんとなく嫌な感じがした。

というか、その寮監とポッターのせいで私はこんな目にあっているのだ。
もし彼が選手にならなければ、私が選手になるなんて話は上がらなかったはずだ。
行き場のない怒りが、行き場を見つけた。

「ポッターってどこにいるの」
「僕が知るわけないだろう。マクミランのようにストーカーしているわけでもないしな」
「おい。僕はストーカーじゃない」
「やっていることは同じだろう」

話の内容から、彼がグリフィンドールであることはわかった。
喧嘩を始めそうなマクミランをドラコに押し付けて、私は図書館を出た。
また本が借りれなかったという点も含め、ポッターとその寮監に文句を言いに行こう。
私の平穏を奪った罪は重い。
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