20.LETTER
と、いうわけで、パパ。何かいい方法はない?
元スリザリン生として、ハッフルパフ生と仲良くするのは無理なの?
いっぱい考えてみたけど、ちょっと難しいね。

また何かあったら手紙書くね。 ななしさんより


無理、というよりかは意識や感覚の相違だ。
馬鹿娘はいい意味でも悪い意味でも馬鹿だから、それに気づくのがいつになることか。
ななしさんは意識や感覚が非常に敏感で、それでいて柔軟だから様々な寮のやつと仲良くなれることあろう。
だが、それはななしさんだからできることであって、誰にでもできることではない。

学校の森フクロウは静かにコートラックに止まっている。
気性の穏やかなやつが来てくれたようだ。

俺は書きなれた万年筆を手に取って、それをまた机に戻した。
そして机の奥から羽ペンと羊皮紙を取り出した。
久しぶりの羊皮紙の感触に目を細め、俺は手紙の返事を書き始める。
手紙を書くのも、久しぶりのことだ。

それにしても、ハッフルパフへと入ったという知らせを聞いて、安心した。
まあななしさんのあの性格でスリザリンというのは、あり得ないだろうとは思っていたが。
あのボロ帽子が耄碌していなくてよかった。
血筋だけで寮を決めるような馬鹿ではなくてよかった。

ただ、夏にレギュラスやルシウスと接触したため、スリザリンとの付き合いも深いようではある。
おそらく、子どもたちの間ではそう深く考えて関係を持っているわけではないだろう。
しかし親が何か口出しをすれば、すぐにその関係は崩れてしまう可能性が高い。
ななしさんの手紙に出てきた名前で知っているのは、ブラック、マルフォイ、ノット、リガリオスか。
その中で前者二家は関係が深かった、後者二家はかなり中立の純血家なのであまり関係はない…というよりは、関係を持つことができなかった。
ノット、リガリアスは純血の家の中では小さいものの、相当古くからある家で敷居が高い。
その子どもたちはそうでもないようだから、今はだいぶ緩和されているようではあるが。

ななしさんの手紙が届く少し前に届いた2通の手紙。
先に述べた前者二家からの手紙だ。
もらったからには返事を書くが、まあ、面倒だ。
長く魔法界から離れ…というよりは、逃げたのほうが正しいが…マグル界で生きてきたのだ。
今回魔法界に帰ってきたのも、俺の意志というよりかは、ななしさんについてきたに過ぎない。
俺としては、あまり魔法界に関わりたいとは思わない。
ななしさんではないが、あの凝り固まった意識の中に戻るのはなんとなく疲れる。
それに戻れば、俺のことを覚えているやつらが口うるさいことだろう。

二家に定型文に近い文章を書いて、各々のフクロウに持たせた。
ななしさんの手紙は学校の森フクロウに持たせた。
ついでにナギニのえさを渡しておく…あいにくフクロウフーズはない。

窓を開け放ち、三羽のフクロウたちを外に出した。
そのあと、フクロウたちが勝手に止まり木にしていたコートラックに向けて杖を振る。
ななしさんにホグワーツからの手紙がくるまで隠し通していた魔法。
あの娘がこれから魔法の中でどのように成長していくのか。
不安要素は多いが、まあなるようにしかなるまい。



パパからの手紙が届いたのは、次の日の朝だった。
意外と早いんだなと思ったけれど、日本で普通に手紙を出しても本州ならこれくらいで届く…のだろうか。
手紙を出す機会なんてあまりないから、よくわからない。
とにかく、早朝の食事の後の時間が配達の時間らしく、その時に手紙を落としていってくれた。

「あら、ななしさん。いつの間に手紙なんて出したの?」
「昨日ね。パパが手紙ほしいって言ってたからさ。返事早いな…」
「ななしさんのパパって想像つかねえな」

私が手紙を受け取っているのを見たスーザンが、リンゴジュースを片手に不思議そうにしていた。
フクロウを持っていないからどうやって送ったのか気になったのだろう。
フクロウ小屋にどうやって行ったのかについてはツッコミがなくて助かった。
また昨日みたいにスピカ先輩について詳しく聞かれるのはごめんだ。

話に参加してきたのはスーザンの隣で、朝からたっぷりの食事をとっているルイス先輩だった。
今度は家族についての言及みたいだ。
スーザンもそれに乗っかって、気になる!と言い始めるし、ハンナはママの話はしないわよね、ななしさんって、と結構ナイーブなところまで突っ込んでくる。

パパに関しては、仕事は普通だけど人としては普通じゃない(いろんな意味で)し、ママに関しては朝から話すような内容ではない。

「僕としてはジャックのお父さんの想像つかない人だと思うけどね」
「あ、馬鹿!お前いうなよ、それ!」
「人の話は聞いておいて自分は秘密なんてずるいじゃないか、ジャック」

うまく話をそらしてくれたのはディゴリー先輩だ。
私が答られずに苦笑を浮かべているのに気づいてくれたようだった。
本当に気の回る、その上機転が利く人だ。

話はうまくルイス先輩の父親のことに変わった。
私はその隙に、パパからの手紙をカバンの中に入れて隠し、席を立った。

ルイス先輩からまた話を振られては面倒だ。
私は大広間を出て、寮へと向かった。
今日は授業が午後からで、午前中は暇だ。
暇なので、昨日教わった図書館へ行って本を読もうと思っている。
昨日借りた本はまだ読み終わっていないが、ぜひとももっと中を詳しく見たい。


「あら?あなた、ななしさんじゃない!久しぶりね」
「…?」

図書館に似つかわない明るい声に呼ばれて、私は振り返った。
そこにはふわふわの栗毛の女の子が立っている。
どこかであったとは思うがどこだったか、と考えていると彼女のほうからヒントをくれた。

「ネビルのヒキガエルはあの後見つかったの。あのときはありがとう」

ああ、列車の中でヒキガエルを一緒に探したハーマイオニーだ。
あの時ネクタイをしていなかった彼女の首には、グリフィンドールカラーのネクタイが巻かれていた。
それにしても元気な子だ、声が大きくてはきはきしていて、話していてちょっと疲れるタイプだ。

彼女は両手に抱えるように大きな本を持っていた。
気になって背表紙を見ると、「家庭でできる魔法薬」というものだった。
一家に一冊シリーズの薬学編である。

「見つかってよかったね」
「ええ、本当に。ネビルが喜んでいたわ。…ところでななしさん、あなた本が好きなの?」

ハーマイオニーの目は爛々と光っている。
私は嫌な予感がした。
これは同級生を思い出す、あのランドセルをブン投げてくる子だ。
マシンガントークで相手を圧倒するあの子によく似ている。

私は少々引きつりそうになる頬を無理やりゆるめて答えた。

「そこまででもないんだけど、先輩が案内してくれたから」
「あら…そうなの」
「うん。じゃあまたね」

聖地だと思っていたのに、思わぬ刺客がいた。
あのまま本が好きだと正直に答えていたら、きっと彼女は延々と話し続けただろう。
それを避けるためにも、私の嘘は必要不可欠だった。

私は図書館を見て回るのをあきらめて、寮に戻ることにした。
パパへの返信でも書けばいいと思ったが、まだ2日目で特に書きたいこともない。
どうしたものかなと思いながらも、多寮の生徒に混ざって動く階段に乗った。

階段はゴゴゴと音を立てて廊下へと橋渡しをする。
その最中、とある階段に止まった。
しかし、そこについても誰も降りない。
そのうち何事もなかったかのように、また動き出す。
あの廊下は、たしかダンブルドア校長が言っていた立入禁止区域であると気づいたのは階段を下りた後だった。

「あら、ななしさん。早かったじゃない」
「ちょっとねー」
「こっちで一緒にお菓子を食べない?ディゴリー先輩がくれたのよ」

寮に戻ると、談話室でスーザンとハンナがお茶をしていた。
珍しくそこにはミーニャもいる。
ミーニャは膝の上に丸い毛玉を乗せいていて、その背中は定期的に上下していた。
子猫のようだ、かわいい。

私はミーニャの隣に座って、紅茶をもらった。
少々薄めの味だが、これも嫌いじゃないなあと思う。
私が淹れた紅茶の味にそっくりだ。

「ディゴリー先輩って素敵よねー、かっこいいし、気もまわるもの」
「ね!お菓子もくれるし」
「…ハンナ、あなたお菓子をくれるんならだれでもいいでしょ?」
「そんなことないわ!」

話はお菓子をくれたディゴリー先輩のことらしい。
2人は1年生だというのに流行や噂に敏感らしく、様々な情報を教えてくれた。
まあそのほとんどは他愛もないこと…ディゴリー先輩の評判とか、ルイス先輩も意外と人気があるとか、そんな話だ。
私はそれに時々相槌を打ち、聞き手に回っていた。
ミーニャも苦笑しながらその様子を見ている。

「で、カッコいいルイス先輩の話はそれだけか?まだあるだろ」
「キャー、ルイス先輩かっこいー」
「ななしさんお前、俺が先輩だってことわかってんのか?」
「理解はしていますが」

ニヤニヤしながらハンナとスーザンの後ろからこっちに来たのはルイス先輩だ。
彼の話をしていたハンナとスーザンは驚いたようにキャッと小さな声を挙げた。
私はむろん気づいていたので、少々茶化すと向こうも乗ってくれた。
不機嫌そうな口調だが、顔はニヤニヤしたままだ。
だからこちらもニヤニヤしたまま、丁寧な敬語を使って見せた。

ルイス先輩はその様子に苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが、すぐに「可愛くねー」と言って不貞腐れた。
その後ろからリガリオス先輩とディゴリー先輩が苦笑しながら近づいてくる。

「ななしさんは本当に口がうまいね。ジャックを言い負かす人は珍しいんだけど」
「ハッフルパフの中では、だろう。セド」
「井の中の蛙ですね」

私もそこまで年長者に嫌味を言ったり冗談を言ったりすることはないから、珍しい。
だが、それを言っても大丈夫であるとそう思える人だから言えるのだ。
そのことは隠しておくが。

私はもう一言余分に付け加えてみた。
ルイス先輩は「もーなんなんだよっ」といって私の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
まあ、これくらいは許してあげよう。
私はチョコチップクッキーをサクサクと頬張りながら、それを受け入れた。

「ななしさんは本当に頭の回転が速いな、くそ」
「どうも」

これもまたパパ譲りだ。
普段パパが話の中に織り込む嫌味や言い回しなどを私は結構覚えている。
人付き合いの非常に上手いパパは、その冷静かつ的確な理論とリズミカルな話術で、様々な人を虜にしてきた…らしい。

私もその真似っこをしてきたのだ。
まだまだパパには及ばないけれど、同年代の子には負けない。

「でも、運動神経はどうだかな!」
「それは並ですかね」
「ジャック、大人げないぞ。…ななしさんはクディッチに興味ある?」

運動神経は悪いわけではないが、特に好きでもないし、特に上手なわけでもない。
並としか言いようがないが、それに関しては本当に興味がない。

ディゴリー先輩が私の頭をかき回しているルイス先輩の手をどかして、ちょっと強めに言ってくれたおかげで、私の頭には平穏が訪れた。
先輩はごめんね、と言いながら軽く髪を整えてくれる。
ハンナやスーザンがその様子を羨ましげに見ているのが面白い。

そうしながらも話題を提供するあたり、やはり器用な人だ。
話題はクディッチ、本や雑誌で読んだ程度の知識はある。
マグルで言うところのサッカーのようなもので、熱狂的なファンが多いという競技である。
箒に乗って行われるそれは、魔法界においてもっともポピュラーで人気のあるスポーツだ。

「実物を見たことがないので、今はなんとも。でもスポーツ観戦はあまりしないですね」
「じゃあ、ぜひ見に来てよ。きっと好きになる!」
「はあ…」

先ほどまでの穏やかさとは違って、だいぶ興奮しているようだ。
私はその様子を見ながら曖昧な返事をした。
なんというか、私は物事を押し付けられるのが嫌いだ。

今度は冷静さを取り戻したルイス先輩がディゴリー先輩を止めた。

「ななしさんってああいう人ごみは嫌いっぽいじゃんか」
「あー…まあ確かに、そうかも」
「だから俺らで特等席を用意して待つことにしよう、なあ、セド?」
「!そうだね、それがいい!」

忘れてはいけない、ルイス先輩もかなり頭が回る人だ。
にやりと嫌な笑みを浮かべたルイス先輩を何事もないように見つめ返しながら、そんなことを思った。
ルイス先輩は私をスリザリンらしいというが、それなら彼もまたスリザリンらしさを持っているといえるだろう。

ルイス先輩の私への印象は的を射ている。
私は人ごみが嫌だし、あの熱気もたぶん苦手だ。
それをわかってなお、私をその場に連れていくための作戦を考えていたのだろう。

「というわけで、来るよな?」
「…行きますよ。ハンナとスーザン、ミーニャもいく?」
「行くわよ!もちろん!」
「というわけで4人分でお願いしまーす」

ちゃっかりしてんなーと言いながらも、彼はそれなりに満足気だ。
ディゴリー先輩だけではなく、ルイス先輩もなんだかんだでクディッチが好きらしい。

それよりももっと意外だったのは、隣に座っていたミーニャが興奮したように頬を赤くしていたことだ。
おとなしそうに見える彼女もまたクディッチに関しては熱狂的なのだろうか。
膝の上の子猫は居心地悪そうにナアーとけだるげな鳴き声を上げていた。
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