17.INSECTIVORE
「ななしさんってかっこいいとこもあるんだけど、どこか抜けてるよねえ」
「…返す言葉もないよ」

右隣を歩くハンナはのんびりとそういった。
左隣を歩くスーザンは呆れているようで言葉もない。

颯爽と席をたった私だったが、そのあと動く階段を見て立ち止まった。
先ほどディゴリー先輩に言われた、振り落とさそうという言葉が脳裏に浮かんだのである。
その後、怖くて階段の前で立ち往生しているのをディゴリー先輩たちに発見されて、保護された。
もちろん、階段はみんなで一緒に乗った。

これから初めての授業に向かう最中だ。
動く階段はやっぱりみんなで乗った。

「高所恐怖症なの?」
「そうだったみたい。私も初めて知ったよ」
「みたいって…本当に抜けてるわね」

今までマンションの6階に住んでいたが、自分が高所恐怖症だとは知らなかった。
知らなかったことを知れてよかったので、意外とのんきな言葉が口から出た。
その言葉にさらに呆れたように、スーザンが零す。
私は返す言葉も見つけられなかった。

魔法学校始まって最初の授業は、薬草学だった。
寮監であるスプラウト先生の授業だ。
ぬらぬらと動く食虫植物のツルとかを採集させられた。
この辺りはマグルの世界にもいそうな植物だなあと思っていると、噛まれたのでああ、魔法界だと思った。

「ななしさん!大丈夫?!」
「え、うん。別にそこまで痛くはないし…これ毒があるわけでもないから平気だよ」
「おや、毒がないとよく知っていましたね、ななし。5点差し上げましょう。でも、消毒をしてもらっていらっしゃい。化膿してしまうかもしれませんからね」
「え、あ、はい」

ハンナが隣でやったね!とか騒いでいるが、そうか寮の点数制を忘れてた。
どうやらこの食虫ヅルへの無駄な知識が役に立ったらしい。
スプラウト先生に促されるまま、私は医務室へと向うこととなった。
付き添いとしてハンナが一緒に来てくれた。

「ごめんね、付き合わせて」
「ううん。いいのいいの。ななしさんって頭いいんだね」
「そう?興味がある分野だからだと思うよ」

興味がある分野というのは、魔法全般を指したつもりだけどハンナは薬草学が好きなのね!と若干ななめ左上みたいな微妙な勘違いをしてくれた。
あながち間違いではないから否定はしないが。
決して面倒なわけではない、と無意味に誰かに弁解しておいた。

医務室に行くにはやはりあの動く階段を利用しなければならない。
ハンナと2人で乗るというのは少々不安だったが、大丈夫よ!と自信満々なハンナに手を握られて、階段の踊り場に出た。

「こっちだったよね、確か」
「私、医務室の場所知らないんだけど…」

私は医務室の場所なんて知りやしない。
ハンナは自信満々だったから知っているのかと思ったが、確かという不確定要素が出てきた。

「え、ななしさんちゃんわからないの?」

嫌な予感しかしない、っていうか、ハンナは知らないで来たのか。
私が知らないといえば、ちょっと泣きそうな顔でえーと言い出した。
いやいや、なんで私が知ってると思ったよ。
2人でエントランスホールらしき場所にでて、ぐるりとあたりを見回したが、それっぽいものは見つからない。

「次の講義、スネイプ先生だって…」

ハンナが目の前の教室の扉を見て、戦々恐々とした様子でそうつぶやいた。
この扉の向こうでは魔法薬学が行われている。

私たちの次の講義は魔法薬学である。
私の興味のある科目ナンバー2の講義、これは遅れたくない。
中には終わった講義もあるのか、人の声がまばらにする。
誰かに聞こう、そう思って人捜した。

探そうとハンナを連れて適当に歩き出したその瞬間。
本当に一歩を踏み出すその瞬間だった。

「ななしさん」
「あ、アルタイル君」
「なにしてるの」

どうやら一時間目が魔法薬学であったのだろうスリザリンの1年生がぞろぞろと前の教室から出てきた。
声をかけてきたのはアルタイル君だった。
スピカ先輩には夏にも会ったし、ホグワーツでも会ったが彼に会うのは、夏以来だ。
しかしそんなことを全く思わせない気さくさで、アルタイル君は話しかけてきた。

私が軽くそれに返すと、隣のハンナが驚いたようにこちらを見た。
それを無視してアルタイル君にダメもとで医務室の場所を聞いた。

「医務室…少し待ってて。教授に聞いてくる」
「ごめんね」

どうやら彼は教授に聞きに行ってくれるようだ。
教室に踵を返していったアルタイル君の後ろから、セオドールとザビニが出てくる。

「お、ヒキガエル女」
「…ザビニ」
「冗談だって、よお、ななしさん。手、どうしたんだよ」
「食虫植物のツルにぱくっとね」

怪我をしていない方の手で、ぱくっとの図を作って見せた。
ザビニは眉根を寄せて、それ結構やばくね?と言ってきた。
ちなみにその食虫植物のツルの噛みつき部分は私の手の親指の先くらいの大きさである。
すなわち、何もやばくない。

セオドールはその植物に覚えがあるのか、飄々としている。
たぶんそんな重症じゃないとわかっているのだろう。

「ななしさん、その廊下をまっすぐ行った突き当りを左に曲がると右手に見えるって」
「ありがとう、アルタイル君」
「アルでいい。また」
「うん、またね、アル。ありがとう」

私はアルタイル君改めアルにお礼を言って、言われた通り廊下をまっすぐ進んだ。
そして突き当りを左に曲がったところで、ハンナが堰を切ったように話す。

「ななしさん、ブラックくんたちと知り合いなの!?」
「え、うん。知り合いっていうか、友達っていうか」

何をそんなに驚くことがあるのだろう。
私は突き当りを左に曲がって、少し歩いた先の右手にドアを見つけた。
たぶんそこが医務室なんだろう。
ここまで長かったが、次の授業の教科書は持っているし、幸い教室も近いから間に合いそうだ。
これくらいの怪我なら、絆創膏くらいで済むだろう。
…魔法界に絆創膏なんてあるのかな、イギリスでそれに似たものは見たけど。

隣でブラック君ってすごい名家だよ!?それと知り合いって!と騒ぐハンナに苦笑しつつ、扉を開けた。
開けて、マダムに煩いですよ!と怒られて、ようやくハンナは話すのをやめた。

「食虫植物のツルに噛まれたんです。毒もないし、たいしたことはないと思うんですけど」
「あらまあ!最初の授業から大変ね。大丈夫、これくらいならすぐ治りますよ」
「次の授業行けます?」
「いけますとも!ちょっと遅れてしまうかもしれませんがね」

遅れるのも嫌だったが、万が一指が化膿なんてしたらもっと嫌なので治療を受けることにした。
私の座った隣に、ハンナも座る。
何事もないように自然に座ったからばれないと思ったのだろうか。
いや、マダムは何も言わないけど。

ちらとハンナを見ると、シーッと指を口に当てて言っていた。
次の授業によっぽど出たくないようだ。
とはいえ、私も一人で遅れるのは目立つし嫌なので放っておいた。
たぶん怒られるのはハンナで、私は怒られないだろうからいいことだろう。

「はい、いいですよ」

噛まれたところには包帯が巻かれている。
痛みも全くないので、やりすぎ感が半端ないが文句を言える立場でもないのでお礼だけ言っておいた。
時計を見ると、授業開始から5分程が経過していた。

「うー…いやだなあ」

ハンナは行きたくないみたいだ。
私は結構行きたいからさっさと歩く。
先ほど曲がってきた角を曲がって、左手に見えるドア。
私はそのドアを何の迷いもなく、ただし控えめに開けた。
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