16.SECRET
ハッフルパフのテーブルに向かうと、人がまばらにしかいなかった。
スピカ先輩が向かったスリザリンの席には結構人がいたのに。
こういうところにも寮性がでるのかなあと思いながらも、私はどこに座るか決めかねていた。
あまりに空席が多いと、人の隣に座るべきか否かで迷う。

「あれ、早いね」
「あ、ディゴリー先輩。おはようございます」
「おはよう、ななしさん」

きょろきょろしていると、不意に声をかけられた。
そこにいたのはディゴリー先輩だ。
柔和な笑みを浮かべるディゴリー先輩に促されるがまま、私はベンチに座った。
自然な流れで何とか腰を落ち着かせることができた。

「迷わずにここまで来られたんだ、すごいね」
「いえ、知り合いの先輩に偶然会って送ってもらったんです」
「ああ、そうだったのか。でも迷子にならなくてよかった。新入生はあの動く階段のせいで迷子になる人が多いから」

私はその動く階段を1度しか利用していない。
学校の中央部にあるその階段群は、勝手に動いてはさまざまな場所につながる。
今回、散歩をしていた私はその階段を使わずに、外に出てしまったため関係がなかったが。
確かにあの階段、結構なスピードで動くし、慣れるまでは一人で使うのはやめようと思った。

ディゴリー先輩は朝からたっぷりと食事をとるタイプらしく、話している最中も大皿の食べ物を取り分けていた。
私の分も取り分けてくれているが、昨日のルイス先輩とは大違いで、お皿の上できちんと彩りや分量を考えてくれてある。
それに感動しながらも、私は話をつづけた。

「あの階段、結構怖いですよね」
「そうそう。最初のうちは怖いと思うから、一人では乗らないことをお勧めするよ。ななしさんなんて振り落とされそうだ」

確かに振り落とされる人がいてもおかしくない。
そう思わせるにたやすい階段なのである。
便利なようでそうでもない、そんな階段。

ディゴリー先輩は私の分の取り分けに気が済んだのか、お皿をこちらに渡してくれた。
スクランブルエッグとウインナーにサラダが乗っている。
そのあと小皿を手渡された、そこには果物が盛られていた。
無難でとてもいい選択だと思った。
私はそばにあったイングリッシュマフィンを取って、それにたっぷりジャムを塗った。

「ななしさん、足りなかったら言うんだよ」
「はい」

間違いなくこれだけあれば十分だ。
私の倍以上の量をとっているディゴリー先輩にとっては非常に少ないように見えるのだろうけれど。

私がウインナーを口にし始めたあたりで、スーザンとハンナがやってきた。
もくもくと食事をしている私とディゴリー先輩をみて2人は驚いた顔をしている。

「私たちが起きたらもういないからどうしたのかと思ったわよ」
「え、ごめん」
「ディゴリー先輩に連れてきてもらったの?ずるい」

見当はずれのことでずるいといわれてもどうにも言いようがない。
どこからツッコめばいいかなと考えつつ、櫛切りにされたトマトを口に運ぶ私の隣で、ディゴリー先輩が僕は連れてきてないよ、と弁解した。

ハンナとスーザンは私の隣と前にそれぞれ座り、じゃあ誰ときたのよと質問してきた。
いいから朝食を食べればいいのに、と思いつつ、トマトを嚥下したので口を開く。

「知り合いの先輩に会ったの」
「ハッフルパフの?」
「ううん。スリザリン」

スリザリン、というワードを聞いて驚いたのはスーザンとハンナだけではなかった。
ディゴリー先輩までもが怪訝そうに、スリザリン?と聞き返したほどだ。
その不穏な空気に、私はびっくりした。

「ダメだった?」
「いいや、別にいいんだけど…すごいね、スリザリンに知り合いが?」
「すごいんですか?」
「だってスリザリンにいるのって純血の貴族ばっかじゃない!ななしさん、そんなとこに知り合いがいるなんて」

ハッフルパフ生はハッフルパフ生の先輩に送ってもらわないといけないのかな、と少し不安になったがそうではないらしい。

ディゴリー先輩もスーザンも、口ではそう言っているが、なんとなく悪意のある言葉だ。
なんだか近寄りがたいみたいな、近寄りたくないみたいな。
スリザリンはそういう印象なのだろうか、とこちらまで怪訝に思いながらも小皿に盛られたオレンジの皮をむいた。
…これはたぶん、スピカ先輩の名前は出さない方がいいだろうなと思いながら。

「おー、セド。っはよー」
「遅かったな、ジャック」

初日にジャッキーと呼べと言ってのけたルイス先輩はどうやらそんな呼び方をされたことはないようだ。
寝癖が付いたままの姿で登場したルイス先輩はスーザンの隣に座った。
可哀想に、スーザンは今朝の食事を肉ばかりにされることだろう。

「お?ななしさん早いな。セドと来たのか」
「その話、さっき終わりましたので」

これ以上その話を掘り返さないでほしいものだ。
私は食べ終わったオレンジの皮を小皿に戻して、すっぱりと切り捨てた。
その切り替えしにスーザンとハンナは少々顔を蒼くし、セドは苦笑している。
当人はむっとした顔で、「俺先輩な」といった。
だから何だといいたいが、やめた。

険悪な私とルイス先輩を見たディゴリー先輩は苦笑したまま、さっきした話をさっくりとまとめて話した。
私は嫌な予感がしたので席を立とうとしたが、それをルイス先輩が引き止める。

「で?その親切なスリザリン生は誰だよ」
「誰だっていいじゃないですか」
「気になるじゃんか、なあ、セド」
「うーん、まあ気になるけど。ななしさんが言いたくないなら言わなくていいと思うよ」

ルイス先輩もディゴリー先輩もなんだかんだ言って自分に素直だ。
さりげなくスーザンとハンナも気になると言い出すし。
ある意味では素直でいい人が集まっている寮だといえるだろう、それがいいか悪いかはさておき。

私はゴブレットのオレンジジュースを飲み干し、今日の朝食はオレンジが多かったなあと思いつつ、皆さまの期待に沿って口を開いた。

「秘密です」

秘密の多い人はなぜだか人気が出るって本が言っていたし。
ここは秘密の多い人になっておこうと思う。
ゴブレットをテーブルに戻して、私は颯爽と席を立った。
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