15.SISTER
ふと目を覚ますと、カナリアイエローの天蓋が目に入った。
外はまだほの暗く、時計の針は4を指している。
早すぎたなあと思いながらも、ベッドでごろごろした。
してみて、やっぱりなれない新品のシーツに嫌気がさして、ベッドをでた。

着替え、やることもなくなったので、本を開いた。
こちらに来てからというものの、暇さえあれば本を読んでる。
もともと読書好きというのも高じて、そして友達いないのも高じて、とにかくそれに裂く時間は増え続けている。

そういえば、この学校にも図書室があるとパパから聞いた。
ぜひとも言ってみたいところだが、今のところ案内されていないのでまだいけない。
ディゴリー先輩やルイス先輩に聞いてもいいが、そのうち案内されることがあるなら彼らの手を煩わせる必要もないか。

読書をして時間をつぶして、まもなく6時。
いい加減ベッドにも、同室の子たちの寝息のBGMにも飽きた。
本を閉じて、小さなポシェットの中にしまう。
このポシェットはパパが魔法をかけた逸品で、かの有名な青い猫型ロボットのポケットのような感じになっている。
感じといってもわからないかもしれない、簡単に言えば何でも入って、これがほしいなあと思いながら手を突っ込めばそれが取れる。
かなり便利だ、しかも軽い。

私は制服に着替えて、そっと部屋を出た。
向かう先は談話室である、もしかしたら誰かいるかもしれない。



と思った私が馬鹿でした。
誰もいない、静かな談話室。
暖炉に火が入っているわけでもないので、暗い。
どうしようか迷った末に、私は談話室から出て学校内を散歩することにした。

言ってみたいところは、昨日校長が言っていた立入禁止区域。
なんだかわくわくする、きっとなにかものすごいものがあるに違いない。

ただ、その前に、私には全うしなければならない使命がある。
パパに手紙を出さなければならない。
あのパパが手紙がほしいとご所望なさったのだから。
学校には生徒ならば誰でも使っていいフクロウがいると聞いた。
場所は知らないが、フクロウのいそうな場所を考えればいるんじゃないかと思う。
私の通っていた幼稚園で飼っていたインコたちは園庭にいたことを思い出し、外に出ることにした。

城の周りは鬱蒼と木が生い茂った森だ。
この森は禁じられた森と呼ばれているらしく、立入禁止区域だ。
確かに何か出そうな雰囲気ではある。
私は森と城の間を歩いた。
しかし、フクロウはいない。
中庭まで歩いたところで時計を見ると、もう7時を回っていた。
フクロウ探しは諦めて、朝食をとりに大広間へと向かわなければ。

私は止めていた足を動かして、今度は城の中を歩いた。
城の中はちらほらと人が出ている。
といっても、それらのほとんどは年上の先輩のようだ。
見た感じでなんとなくなので本当にすべて先輩なのかはわからない。
しかし、制服に着慣れている感じがするので、きっと先輩なのだろう。
ネクタイカラーは様々だが、寒色系が多いように見える。
ここでも寮の特徴が見て取れるのかもしれない。

廊下の端をそんなことを観察しながらみていると、肩に軽く手を置かれた。
誰だろうと振り返ると、そこにはスピカがいた。

「おはよう、ななしさん。久しぶりね」
「おはようございます、スピカ…先輩?」
「あら、スピカでもいいのよ?…と言いたいところだけど、公私は分けるべきかしら」

さすがに学校では先輩をつけた方がいいということだろう。
白い指を私の唇になぜか添えてそういうスピカ先輩はいわゆる妖艶な女の人って感じだ。
お子ちゃまの私には何とも言い難い。
人気の増してきた廊下でそんなことをすれば、まあ他の人からの視線もぐさぐさと刺さる。

私は突き刺さる視線から意識をそらすべく、話題を振った。

「スピカ先輩、私フクロウを借りたいんですけど、学校のどこにいけばいいんでしょう?」
「あら、フクロウ小屋を探していたの?」
「そうなんです。パパに手紙を出そうと思って」

スピカ先輩はそれなら言ってくれればいいのに、といったが思い立ったのは昨晩。
言う暇なんてありやしない。
人の流れに乗って歩き出したスピカ先輩についていきつつ、私はツッコミを飲み込んだ。

「フクロウ小屋は東塔の上だけど…そうね、案内するわ。まだ学内はわからないものね」
「いいんですか?」
「いいわよ。この時期、上級生は暇を持て余しているの。授業が少ないから」
「そうなんですか」

スピカ先輩は昼食の後の時間に、学内を案内するといってくれた。
暇を持て余した上級生様に任せれば、学内の道を覚えるのに苦労しないかもしれない。
その点において、先輩の知り合いがいるというのは助かる。
今だって大広間に向かうのに先輩は役に立ってくれている。
小さな私が押しつぶされないようにうまく人を避けてくれているし。
スピカ先輩は人の前に立つのになれている様子だった。

「それにしても残念だわ」
「何がですか?」
「何って、あなたがスリザリンじゃないなんて」

前を歩くスピカ先輩の顔は見えないが、声だけ聞けばさぞがっかりといった様子。
私としてはスリザリンに入った自分を想像できないのでなぜ?って感じだ。
パパは…たぶんあれはスリザリンだ、間違いない。
だけど、私はそんなにスリザリンらしくないと思う。

自分で言うのは憚られるけど、あまり頭がいいわけでもないし。
頭がいいっていうのは知識とかじゃなくて要領の問題。
知識だけならレイブンクローなんだろうけど、それに要領とか知恵とかが入るとスリザリンなんだろうなと思う。
ちなみに私はどちらもない。

その点、スピカ先輩はスリザリンだなあと思う。
今だって私と話しながらもすれ違う男子生徒ににこやかに挨拶している。
挨拶っていうのはすごく大切だ、いろんな意味で。

「スピカ先輩は私がスリザリンに入ると思っていました?」
「そういうところはスリザリンらしいと思うのだけれど…日常生活を見ているだけだと、あまり」

ほれみたことか。
やっぱり私は日常生活面において要領も頭も悪い。
なんとなく他人にそう遠回しに言われるとどんよりとする。

「そうじゃなくて、私はななしさんと同じ寮がよかったのよ。スリザリンとか関係なくね」

おお、一気に気分回復。
やっぱりスピカ先輩はいい人だ。
スリザリンは狡猾だなんて言われるけど、そうであったとしても仲間には優しい。
敵には回したくないけれど。

「むふ」
「ななしさん?」
「え、いや、嬉しいなと思って。ハッフルパフでもいいんですか?」
「だってハッフルパフに入る前から私たちは友達だもの。あたりまえでしょう」

嬉しくて変な声が出た。
こらえようとした笑みが自然とこぼれる。

前を歩いていたスピカ先輩は歩を緩め、私の隣を歩いた。
自然と私と手をつなぐ。
その自然さったらなかった。
お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなあと思いながら、大広間のドアをくぐった。
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