13.CANARIA
コンパートメントを巡るうちに、気付いた。
これでは私はヒキガエルを探していた子として、多くの人の脳裏に焼き付いてしまうのではないかと。
私の名前よりもなによりも、ヒキガエルの子という風に覚えられてしまうのではないか。
それは一種の恐怖だ。
入学前から、そんな不本意なイメージをつけられてしまうなんて。

そう思って、次のコンパートメントで探すのをやめようと思った。
何より、魔法界には連絡手段がほとんどない。
普通なら携帯でちゃちゃっと現状を相手に伝えることができるが、ここでは不可能。
ハーマイオニーと別れてもう1時間近く経っている。
彼女が見つけたかもしれないし、見つけていないかもしれない。
どちらにしても、それを知る手段は私にはないのだ。
そして、彼女にもそれはない。
そうしてみると、真面目に蛙探ししているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

そんな簡単な理由だ。
私はこの事実に気付いてなお蛙探しをするほど真面目ではないし、お人よしでもない。
これで最後、とノックしたコンパートメントからは低い返事が返ってきた。
どうやら男の先輩のようだ。

「突然すみません、ちょっといいですか?」
「うん、いいよ。どうしたの?」

そのコンパートメントには3人の男子生徒がいた。
返事をしたのと今私と対話している人は同一人物のようだった。
彼は優しげに茶色い瞳を細め、微笑んでいる。
ハンサムな部類に入るだろう。
私的には趣味じゃないけれど、こういう爽やかハンサムが好きな人も多いと思う。

「ヒキガエルを探していまして。みませんでしたか?」

そういって、ぐるりとコンパートメントの中を見渡した。
爽やかハンサムの隣に座るこげ茶の髪の男の先輩、これは先ほどのザビニと同じ顔をしている。
なるほど、彼もまた人をおちょくったりするのが好きなタイプの模様。
その前に座る金髪の先輩は無表情、これはセオドールと同じタイプか。

この後口を開くとしたら、話に乱入したいザビニタイプ先輩だ。
そう思って身構えた。

「見てないなあ。そんなことよりさ、君名前は?」
「ななしさん・ななしです。すみません、遅くなりまして」

ザビニタイプに対しての返答はこれでいい。
彼らは人の困っている姿や戸惑っている姿を見て楽しむタイプだ。
そのタイプには冷静を保った返答が効果的だ。

小学校にもよくいるこのタイプを私は、知能派ガキ大将と呼んでいた。
ちなみに同じガキ大将でもジャイアンタイプを肉体派ガキ大将、ドラコのような臆病な親の七光りタイプ、スネ夫タイプをコバンザメ大将と名付けた。
使っているのは私だけで、その言葉を知っているのはパパと小学校の友人くらいだろう。

「あーいいよ。俺はジャック・ルイス。ジャッキーって呼んでくれ」

非常に呼びたくない、ジャッキーと言えばかの有名且つ敬愛なるチェンだろう。
今目の前にいる先輩をジャッキーと呼ぶのは憚られるし、なんか小癪だ。
よろしくお願いします、ルイス先輩と返すと、素直じゃねーと拗ねたような返事が返ってきた。

それを終始苦笑しながら見ていた爽やかハンサムはセドリック・ディゴリー、よろしくね、と自己紹介した。
名前の指定はなかった、彼は一般的な頭をしているらしい。

「あ、彼はアストロイズ・リガリオス。名前も苗字も長いから俺たちはアスって呼んでるし、後輩たちはリガリオス先輩って呼んでる」

ずいぶんと格式高い名前である。
それにしても、なぜディゴリーが紹介したのか。
彼には何かあるのだろうかと、不思議に思った。

「なぜお前が紹介する?」
「え?アス、自己紹介する気あったの?ごめん」
「いや、なかったが」
「ないのかよ」

私の疑問は解消したし、この3人の関係性もなんとなくつかめた。
面白い人たちだ、ボケ2人とツッコミ1人。
意外とルイス先輩が苦労性そうなトリオである。

そういえば、と思い、ネクタイを見た。
ネクタイはその人が所属している寮を表しているとパパから聞いていたから、コンパートメントめぐりの際もよく見ていたのだ。
リガリス以外の2人は同じ色のネクタイをしている。
リガリスのネクタイは見たことがある、青のネクタイ、レイブンクローだ。
コンパートメントめぐりをしている中で、3種は発見できたが、ルイスとディゴリーのしているネクタイは見つからなかった。

オレンジというか黄色っぽいネクタイ、これがハッフルパフの寮ネクタイか。
今まで見た中では一番可愛らしい色合いをしていると思う。
赤は濃すぎるし、緑はあんまり好きじゃないし、青もそこまで好きじゃない。
黄色と暖色を使ったこのネクタイが一番好みだ。

「あー俺ら、ハッフルパフなんだよ」
「ネクタイで寮が違うのは知ってる?」
「はい。ハッフルパフのネクタイ、初めて見ましたけど可愛いですね」

ネクタイで寮を決めるつもりはない。
それこそ、中学高校を制服で選ぶ女子と同系列に至ってしまう。
彼女たちが悪いとは言わないが、それだけのために学校選びをするのは賢明じゃない気がする。
いや、制服のために勉強を頑張るというなら、それもありなのかもしれないけど。

私が可愛いと素直な感想を漏らすと、ルイス先輩はポカンとした顔をし、ディゴリー先輩は可笑しそうに肩を震わせていた。
リガリオス先輩だけは興味なさげに手元の本を読んでいる。

「ハッフルパフは勇気もなけりゃ頭もよくない劣等寮って野次られるんだ」
「柔和な子が多いから、あまり気にしていないみたいけどね」

確かに4つの寮の話を聞いたときに、ハッフルパフだけぱっとしなくて可哀想だと思った覚えがある。
なるほど、寮生までそんなに気にしているのか。
私は結構ハッフルパフは好きだ、つまるところ、優しくていい人が多いってことだし。

「私は好きですよ、ハッフルパフ」
「本当?嬉しいなあ」
「本気かよ。お前スリザリンとかレイブンクローって感じだぞ」
「なんです?私がハッフルパフだとルイス先輩は嫌なんですか。そうですか。じゃあいいです」
「やっぱスリザリンだろお前」

ちなみに、ルイス先輩の言っていることは半分くらいアタリだ。
パパはスリザリンだったといっていたから。
ただ、ママはどこの寮の出身なのか知らないから、何とも言えないけれど。
私の意志としては、ハッフルパフに入りたいと思う。

私が気を損なったように言えば、ルイス先輩はますますスリザリンらしいといったが、ディゴリー先輩はそんなこと言わないで、と本気で悲しみだしたので冗談だといっておいた。
何だろう、ディゴリー先輩は犬っぽい。

そんな会話をしていると、今までほとんど口を利かなかったリガリス先輩が口を開いた。

「そろそろだろう。お前、自分のコンパートメントに戻れ」
「ああ…そろそろ学校につくからななしさんちゃん、戻って荷物とか取った方がいいよって」

どうやらディゴリー先輩はリガリス先輩の通訳だったようだ。
車窓に視線を移すと、そこには大きな湖と森が広がっていた。
その先に小さくお城のようなものが見える。
パパに聞いた通り、学校はお城。
素敵だなあとのんきに思った。

「おーい、ななしさん、お前さっさと戻らねえと間に合わないぞ」
「はあい」

そして、意外とツッコミ役のルイス先輩は面倒見がいい。
たぶんディゴリー先輩も面倒見はいい方だろうけど、ルイス先輩もそういう性質なんだと思う。
そういう人が集まっているのが、ハッフルパフなんだ。
そう思うと、やっぱりハッフルパフに入りたい。

私はちゃん付けやめてください、ななしさんでいいです、とだけ言って、その場を去った。
組み分けの時まで、あともう少し。
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