7.ちいさなぎねんをいだいて
周りはほとんど敵だった。
とくにわかい男の敵にはとてもつよかった。
すこし泣いて、たすけて、というと、みんな行動がのろくなった。
ばかみたいだ、って思ったけれど、わたしもなみだが止まらなかった。

でもそれも、すこしのあいだだけ。
いつのまにかわたしのなみだは流れなくなった。
いままで痛かったところが、いつからか痛まなくなった。
ケガをしたときみたいに、きっとかさぶたができて、よわかった部分がつよくなったんだとおもった。

さいきんは、敵をみない。
おそってくるひとはいるけれど、敵らしい敵にはあわなくなった。
おそってくるひとはみな、うえていて、くるっていた。
わたしもおなかはすいていたけれど、それでも意外とだいじょうぶだった。

「じっとしてろ!このクソガキ!!」
「っう」
「おい、傷をつけるなよ」
「…?」

わたしは敵がいなければとくに何もすることはない。
きょうもただいみもなく歩いていた。
森を通りすぎて湖にいこうと思ったら、その途中の洞くつでさわぐ人の声がした。
おそらく、30〜40代ほどの男が2人、もう1人は子どもでおそらく男の子。

まあめずらしい話じゃない。
ここでの子どもは弱ければ大人につかまって、女ならすきかってされて、男ならこきつかわれる。
それが常だ。

洞くつを通りすぎようとしたところで、ふと気がついた。
傷をつけるなということは、そこにいるのは女なの子の可能性が高い。
だけど、きこえた声はおそらく男の子。
いつもと、なにかがちがう。

「…」

めずらしいことに、こうきしんがわいた。
洞くつのなかに気配を消してこっそりと近づく。
相手はそんなにつよいかんじのひとじゃない、それはかんでわかる。

うしろからこっそりよって行って、首元を打つだけでかれらはうごかなくなった。
どうやら忍ですらなかったようだ、たぶん侍かできそこないの傭兵。

「…きみ、だれ?」
「たすけてあげる。どこからきたの」
「木の葉…ねえ、きみ、」
「そう」

おとこたちの陰にかくれるようにしていたのは、予想どおりおとこのこだった。
身なりはきれいだし、いいところでそだってきた子だろう。
ゆうかいされて、お金をせびられてるんじゃないかとおもう。

わたしは、この子をちゃんと家までおくりとどけないと。

「こっち」

自分よりもひとまわり小さな手をにぎって、みずうみのあるほうへ向かう。
木の葉は火の国のなかの里だ、場所はわかる。
戦争のときもなんにんかその里の人をみたことがある。
…みんな、甘くてたおしやすかった。
きっとへいわな国なんだろう。

「ねえ、きみ、なまえないの?」
「…とくにない」
「なんてよべばいい?」

名まえっていうものは、こたいをしきべつするためのもの。
しきべつする必要のないものにはあたえられない。
わたしはちいさな傭兵の1人にすぎないし、わたしがしんでも誰もさがしたりしないから必要ない。

「よばなくていい」
「でも…」

わたしのうしろを歩くおとこのこをすこしにらむと、彼はだまった。
でもだまっているのはすこしだけだった。

「俺は、イタチ」
「そう」

とくにきょうみもなかったのでそれだけいうと、すこしふてくされたようにしていた。
ちょっとめんどうくさいなとおもった。

彼をひろって数時間、日が暮れそうだから、森のなかでひと晩明かすことにした。
わたしは野宿にはなれているけれど、彼はきっとなれていない。
とはいえ、どうすることもできない。

「とりあえず、ここで野宿だけど」
「たぶん、平気」
「そう」

さきほどの傭兵のかばんからとってきた食料をてきとうに手渡した。
彼はそれを受け取り、しずかに食べ始める。
わたしは、あたりを警戒しつつも、彼のちかくにすわった。

「たべないの?」
「おなかすいてないから」

半分はうそ、半分はほんとう。
基本的にわたしはお腹がすいてうごけない、という状況まではなにもたべない。
今はそこまでくうふくではないのでいらない。
彼はもくもくとしずかに食事を終えた。

空はまっくろな色をていしていて、その中にぽつりと月が浮かんでいる。
今日は満月、とても明るい夜。
…ただ、これでもわたしの隣の彼はこわかったらしい。

「…」

数刻前にねたらどうだと聞いたら、怖いというのでいっしょにいることにした。
本当は木の上であたりをけいかいしていようと思ったけれど、しかたなく彼の隣に座った。
彼はわたしが隣に来るとあっという間に眠ってしまって、今はやすらかなねいきが聞こえるだけだ。

夜の森は静かでときどき風が草木をゆらすていどの音が聞こえた。
たたかいはいつからか数をへらしていった。
わたしはやることもなく、ただいきている。
しょうじき、いつ死んでももんだいは何もないし、こうかいもないだろう。
いっしょにいた人たちはみんな死んだ。
わたしだけが生き残っていても、なんのいみがあるだろう。

隣の彼くらいの年齢の子は、なんにんも死んでいった。
わたしの隣でやすらかなねいきをたてていた子は、いつからか息をしなくなった。
たくさんの大人におそわれたし、たくさんの忍に殺されたし、たくさんのたたかいに巻き込まれた。
子ども達はいつだって大人の矛であり盾であり撒きびしだった。

「…」

きっと今となりにいる子は、平和なせかいで育った。
空腹で死体を漁ることもなければ、おとなに襲われることもなく、目の前で友達が死ぬのをみることもなく、自分のとなりで人が息をしなくなることも、寒さをみなで丸まって耐えたこともない。
それがとてもしあわせなことだと、この子は気づいているのだろうか。
そう思うと、とても憎らしい存在に思えた。

「…ずるい」

どうして、わたしはこの子をたすけたのだろう。
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