6.戦火を知らない子ども達
イタチはその日、きちんと帰っていった。
理由を話して納得してくれれば、素直なものである。
私は数日振りに一人の夜を過ごし、眼を覚ますと結局イタチがいた。

「おはよう」
「…おはよう…こんな早くから…」
「きちんと家には帰りました」

時間は早朝6時、早すぎる。
寝ぼけているのと、呆気にとられるのとで文句は言えなかった。
大体、低血圧で朝は辛いのに怒る気力などあるわけもない。
イタチもそれを分かってきたのだろうなと、抱き起こしに来た彼の腕の中でため息をついた。

いつも通り朝食を食べて(今日はイタチもここで朝食をとった)お互い仕事に向かった。

集合場所に指定時間ギリギリにつくと、その場にはカカシを除いた全員が集まっていた。
どうせカカシはまた遅刻だろうと思っていたので、持参していた本を片手にぼんやりしていた。
時々サクラが声をかけてきて、おしゃべりをして待った。

サクラは見てわかるくらいにサスケのことが好きなようで、一人で盛り上がっていた。
イタチと同い年だったら、私もサクラのようになれたのかなと言うところまで考えて、吐き気がしたのでやめた。
それに、きっとイタチは私が同年代だったら決して相手になんてしなかったと思う。

「おー遅れてすまんな。じゃあ始めるか」

軽い謝罪に3人は各々文句を言ったが、暖簾に袖押し状態。
あっさりとテストの説明をしてくれた、完結に言えば先生が持っている鈴を時間内にとれというもの。
しかし鈴は3つのみ、1人は確実に落とされる。
かなり意地の悪いテストだ、と私は思ったが、恐らく3人は気づいていないだろう。

私は一応教師をしたことがあるので、このテストの真意は分かっている。
が、見た感じ、だれもその真意に気づいている様子はない。

「サクラ、どうする?」
「うーん…とりあえず隙を突こうかな。名無しは?」
「同じような感じ…一緒に組む?」
「えっ…うーん、ごめんね」

最初はサクラと一緒に隠れてみた。
サスケは少し離れた木の中、ナルトは正々堂々カカシに挑みかかっている。
サクラに断られたため、サスケにも言ってみたが、答えはもっと淡白で、きっぱり断られた。
仕方ないので、森の奥に入り、下忍でも使える術でカカシをうまく襲えるように作戦を練って、カカシがくるのを待った。

「おお、名無し。こんなとこにいたのか。鈴、取る気ある?」
「1人じゃ無理かなって思って、サクラとサスケに声をかけたんですけど、断られたので…取る気はちょっと…」
「ありゃ、声かけたの。そう」

どうやらカカシは一応全員のところに出向いているらしく、私を見つけ出してくれた。
うまいこと作戦に嵌ってくれているので安心だ。
一応、一生懸命頑張りましたというアピールだけはしておいた。
あと諦めた振りをして、少しでも相手の警戒を削いでおく。

「1人じゃ無理だって思ったわけだ」
「先生は上忍でしょう?1人じゃ無理ですよ」
「どうだろう?やってみる気はないの?」
「うーん」

ここで少し時間を稼ぐ。
カカシは警戒を緩めて、こちらに歩み寄ってきた。
これも計算どおり、ちょっと展開が速いが。

「ありますよ」

私は歩み寄ってきたカカシに向かって特攻、無論カカシはよける。
その下から隠れていた私の分身が追撃。
驚いた隙に本物の私が後ろから、カカシの腰についた鈴を掠め取った。

「それでは」

分身2人を消し、脱兎のごとく逃げおおせた。
この訓練は3人力を合わせればきちんと対処できるようになっている。
1人が教師と話し囮に、もう1人は追撃、最後の1人が鈴をとる。
これが正規ルートだ。

あとは3人で警戒しつつ、教師から逃げればいい。
しかし私は1人、一応最後に狙われたということから逃げる時間は少なくて済むが、上忍の脚力と追尾力は舐めてはならない。

「サスケくん、ちょっと口裏合わせてね」
「は?」

少し離れた場所でサスケとカカシがバトルしていたことは少し離れたところから見ていたので知っている。
そしてそこにサクラが来て失神したことも、叫び声から分かった。
サクラの身体を茂みに隠し、サクラに変化して失神した振りをした。
一応サスケには口裏を合わせてもらわないと困るのだが、まあ、正直鈴はどうでもいいので口裏を合わせてくれなかったらそれまでだ。

「お、サスケ。まだ埋まってたの。…ところで、名無しを見なかった?」
「…向こうに走っていったけど?」
「そうか、ありがとな。あとで抜いてやるから」

案の定、カカシはサスケのところに現れた。
サスケはばっちり嘘をつき、カカシを別の場所に誘導してくれた。
まさかそこまでしてくれるとは思っても見なかったが、助かった。

「名無し、もしかしてお前鈴取ったのか?」
「まあ…なんとかね」
「どうやった?あいつから取るのなんて不可能に近いだろ」

カカシが遠くまで走り去ったのを確認してから、サスケはこちらに声をかけてきた。
念のため、私はまだ倒れたままだが、話をした。

時間までもう数分もないだろうというくらいの時間になったところで、私は起き上がり、サスケを助け出した。
そのあと、サクラを起こしたところで(危うくサクラの格好のまま起こすところだったがサスケに止められた)終了のベルが鳴った。

3人で元の集合場所に戻ると、そこにはナルトが石碑に縛り付けられていた。
私はその様子を少し怪訝そうな眼で見た。
他の3人はその石碑の意味を知らないだろう、ナルトに限ってはその石碑に名を刻むなどと言い出した。
私はこの里の生まれではないから、その石碑に名を刻むことはないだろう。
しかし、その石碑に名を刻ませたことは、ある。

「この石碑は、戦争で殉死したやつらの名前が彫ってある」

彼らは知らない、この世界に大きな戦争があったこと。
彼らが幼少の時には既に、この世界は戦争の爪あとをすべて隠していた。
傷ついた土地も、死んだ人々も、生きている人のトラウマも。
だから、彼らは戦争の惨事をしらない、恐怖を知らない、死をしらない。
だから、明るいし、暢気だし、残酷だ。

雰囲気が若干悪くなったところで昼食の時間にさせられた。
3人の前で、鈴を取れたのは私だけなどとカカシがいうものだから、3人から質問攻めにされた。
一応練った作戦を3人にも教えて、実行するなら誰がどの役が的確か話し合った。

「あ、そうだ。ナルトくんお腹減ってるよね?私の上げるよ」
「え?でも…」
「私、朝食食べてきたの。薬飲まないといけないから」
「いや、そうじゃなくて。あげるなってカカシ先生が…」
「…この作戦は誰か1人でも欠けたら失敗する。名無しの判断が正しいな」

サスケがそういったので、サクラも大人しくそれに従った。
ナルトは私の差し出すおかずを食べている。
その最中にカカシが飛び出してきたが、合格といって、またつらつらと長い話を始めた。

私は戦争の話も、仲間の話も聞きたくはなかった。
とりあえずその場は大人しくしておいて、解散時にさっさと帰った。
サクラに一緒にお茶をしに行こうと誘われたが、病院にいくからと断った。

家に帰って、ベッドに飛び込んだ。
脳裏にはぐるぐると昔の記憶が渦巻いて、気持ちが悪かった。
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