40.波乱
膝の上でイロハはのんびりと寛いでいる。
カオルは来たがらなかったので、イロハだけが傍にいる。

「おーイタチ。一次試験見てきた?」
「見てきましたよ。ご存知の通り、通過ですね」
「ルーキーは脱落なしか。まあいい感じだねえ」

別室にいたらしい担当上忍3名がのんきに監査室にやってきた。
監査室には森のいたるところに設置されたカメラの映像を映すモニターがある。
本来であれば監査員のみが入れるはずだが、この辺りは結構緩い。
ただ、長居をさせるわけにもいかないので俺が部屋を出た。

ほかの監査員がいるから、たぶん大丈夫。
それに俺の仕事は一般監査ではない。

「イタチはこれから忙しくなる感じ?」
「むしろ、今がピークですね」
「…そんな風には見えないけれど」
「今のところは、何もないですから。俺は暇な方がいいんです」

紅さんが、猫を撫でている俺に向かってそういった。
監査員の中でも、俺はイレギュラー対応専門だ。
自由度の高い二次試験で現れる可能性が高いイレギュラーから、受験生を守るのが俺の仕事。
仕事がないに越したことはない。

暗部の経験が深く、スピードも実力もそれなりにあるというのが俺が採用された要因になる。
つまり、それだけのものが求められる可能性があるということだ。

今年の中忍試験は荒れるだろうというのが、他の暗部や火影様の意見だった。
俺もそれに同意である。
今回の受験生は問題児が多すぎる。

「坊ちゃん!」
「イロハ、坊ちゃんはやめてくれ…」

ゴロゴロと喉を鳴らして甘えていたイロハが唐突に立ち上がった。
イロハは俺が幼少の時からずっと傍にいる猫だからか、いまだに呼び名が幼名である。

俺は挨拶もなしに、その場を立った。
イロハが立つということは、名無しさんの猫笛が吹かれたということだ。
名無しさんで対処ができかねる何かが出てきたということ。
彼女が笛を吹くときのブレスは決まっている、それじゃないということは、吹いているのは名無しさんじゃない。
つまりは、名無しさんが笛を吹くこともできないような状態にあるということだ。
これは急がなくてはならない。

「イロハ、そこに残れ」
「はいにゃ」

まず、すれ違ったのはサクラたちだった。
サクラはナルトを担いで先に逃げているようで、イロハを伝達用にそこに残した。
てっきりそこにサスケがいると思ったのだが、どうやらいないらしい。
サスケの性格を考えると、嫌な予感しかしない。

木々の間を縫うようにして先を急ぐ。
名無しさんがいるから最悪の場面には出くわさないだろうが、

「っう…、」
「…あら、イタチ君、残念ね。用は済んだの、じゃあね」

逃がすのは腹立たしいが、この状況では追えない。
思っていたよりも状況が思わしくなかった。

サスケは大蛇丸から一撃を食らったようで、木に縫い付けられるように凭れ掛かっている。
その木の下の方で、血塗れの状態の名無しさんが倒れていた。
大蛇丸から目を離さないようにしていたが、どうやらやりたいことは終わったようで、大人しくその場を去っていくようだった。
去ってくれるならそれでいい。

サスケよりも先に、名無しさんの方に駆け寄った。
名無しさんが気を失うまで戦うというのは滅多にない。
彼女は基本的に逃げを主とした戦法を取るはずで、ここまで分の悪い応戦を続けるようなことはしないはずだ。

「名無しさん、大丈夫ですか!」
「…一応。ごめん、ちょっと、」
「いいです、意識があるなら…後は俺に任せてください」
「ごめん、」

出血は主に腕と腹からだった。
意識があるということは急を要するような傷はなさそうだが、今の身体ではあまり長くこの状況にあるのは良くない。
医療忍術の使えない俺ではどうすることもできないから、緊急事態を知らせる笛を吹いた。
これ以上出血が酷くならないように応急手当だけして、安定した場所に寝かせて、サスケの方へ向かった。

サスケはサスケで怪我はないが、面倒なものを大蛇丸から貰ってしまったらしい。
首元には見覚えのない刺青のような文様が浮かんでいる。
最悪の状態とまではいかないが、状況は芳しくない。

「サスケ、お前、名無しさんの命令を聞かなかったな?」
「うっせ…」
「…まあいい。叱るのは後だ。お前のそれ、苦労するぞ」

ここまでひどい応戦になったのは、恐らくサスケが名無しさんの言いつけを破って戻ってきたからだろう。
名無しさんならあの状況でサスケに残れとは言わないはずだ。
逃げろという言葉を無視して戻ってきたのだ、この馬鹿は。
気持ちは分からないではないが、気持ちを優先させるべき時と命令を優先させるときの選択を誤った。
その代償はかなり高くついたと言えるだろう。

そして、名無しさんにも甚大な迷惑を掛けることになる。
微かに痛む頭を振って、やってきた暗部に事情を告げた。
prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -