36.筆記試験
ナルトの悲痛な叫びと、私の内心の叫びがシンクロした。

「ペッペーパーテストォ!?」

森野上忍たちの命令で、下忍たちは各自決められた場所に着席させられた。
そのあとに説明された一次試験の内容はペーパーテスト。
これはまずいことになった。

筆記試験のルールを聞く限りでは、ここで見られるのは、情報収集力。
もちろん、自分で解けるのであれば問題ない。
だが、おそらくは解けないように難易度を異常に上げているのだろう。
そのため、多くの生徒がカンニングに走らざるを得ない。
このテストの真理はそこにあり、いかにうまく、試験官にばれないようにカンニングをするかが問われる。

だがしかし、目の見えていない私はそもそも回答欄がどこなのかすらわからない。
これはまずいのではなかろうか。
一応救済措置なのか、テスト開始から45分後に最後の10問目が発表されるそうだ。
それに関しては何とも言えないが、それ以外の部分で足を引っ張ることは確かだ。

私のことを知っている誰かが気付いて、私のテストだけ頭数に入れないでくれるだろうか。
これさすがに、0点になる可能性が高すぎる。
視力がほぼないから、報告書は仲間任せだし、物なんて書くことはない。
そもそも、鉛筆握るの何年ぶりだろう。

「はじめ!」

私の哀愁を知る由もなく、中忍試験は始まった。
周りからは一斉に裏返しにしていた紙をひっくり返す音が響いた。
私もそれに倣って用紙をひっくり返したが、問題は無論わからず。
とりあえず鉛筆を持ってポーズだけは取っておくが、何も書けない。

やることもないので、最後の問題が開示されるときまで机と睨めっこをしておくことにした。
それにしても、よく考えられた試験だ。
3人1組で誰か一人でも0点を取れば、即失格。
カンニングの仕組みに気づく冷静さとプレッシャーに勝つだけの精神力を問う試験。
中忍になるための基礎能力である、中隊長を担うプレッシャーや周囲の観察能力があるかを選別するためのものだ。
しかし、まあ、よく考えられすぎてて、今年の受験者はある意味運が悪いんだかいいんだか。

ぼんやりとそんなことを考えつつ、カンニングがばれて退場になる受験生の悲痛な叫びや悔し泣きの声を聞きながら45分を待った。

「よし、これから第10問目を出題する!」

ようやくか、と私は顔を上げた。
無意味に握りしめていた鉛筆を適当において、真っ白な用紙はもう一度裏返しておいた。
何も回答していないのは怪しまれるかもしれない、特に試験官に。
さて、最後の問いとは何なのか。
これまでのルールを聞く限り、また精神的な追い詰めが入るのだろうことは想像に矢田推。

森野上忍がサディストと名高いのは、彼が拷問尋問部隊の隊長を長年務めているからだ。
どのような揺さぶりをかければ自分にとって有利な情報を引き出せるかを常に考え、行動している。
その彼がわざわざ45分もおいてから出すという最終問題が気になった。

「まずお前らには10問目を受けるか受けないかを選んでもらう。受けなかった場合は、3人とも失格。そして、もう一つのルール。受けるを選び、正解できなかった場合、そのものについては今後永遠に中忍試験の権利を剥奪する」

こりゃあ、また。
とんでもないルールを仕掛けてきたものだ。
しかし、とんでもなく面白い10問目だ。
これだけでも、この中忍試験を受けた甲斐があったような気がする。

見事な第一次試験だ。
周りの生徒たちは不満と困惑でざわめいているが、中忍の責務を考えれば、これほど優れた試験はそうない。

私はこの第一次試験に盛大な拍手を送りたくなった。
優れているという点においてもそうだし、何より、私のように盲目でもナルトの様にバカでも素質のあるものはきちんと残れるようになっている。
これで、本当のバカで能無しだったときは実技試験で落とせばいいだけの話だ。
ここでは本当に基礎的な精神面での能力を問われるだけだった。

「舐めんじゃねえ、俺は受けてやる!」

ナルトの雄叫びが響く。
こういう馬鹿さがあった方が、生きやすそうだ。
枠に拘らずに、自由に目標に向かっていく。
子供たちは幾重もの選択肢を持ち合わせている、大人に照らされた道に目が行きがちではあるが、そのほかの獣道だっていくらでもあるのだ。

この試験の本位ではなかっただろうが、それでもナルトの答えは真理をついている。
イタチはたぶんこの試験の意図すべてに気づいてしまう聡明さを持っていたがゆえに、こういった柔軟な考えを持つことがそうそうなかった。
賢かったため、答えを見つけるまでの道が最短ルートしか存在しなかった。
ナルトは逆で、答えを見つけるまでにたくさんの道を試した。
それが、この違いか。

無論、すべての忍びがナルトのようでは困る。
しかし、ナルトのような忍びがいないと困るのだ。
イタチはこの試験を見ていただろうか、ぜひとも見ていて欲しい。
今のイタチなら、この柔軟さの重要性をしっかりと理解してくれるだろうから。

10問目はないだろう、あったとしても蛇足に過ぎない。
私は周囲のざわめきを聞きながら、ありもしない10問目が開示されるのを待った。

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