34.若葉
冷静に考えれば、昨晩イタチに何かしらの幻術を掛けられたのは間違いがない。
いくら疲れていて眠かったとはいえ、あの落ち方はおかしい。

「イタチめ…」
「イタチさんがどうかしましたかにゃ?」
「…どうもしてないけど」
「そうですかにゃあ?…ああ、そうそう、名無しさんにこれ渡してくれってイタチさんから渡されましてにゃー」

朝日が部屋の中に零れるのとほぼ同時に目を覚まして、数分。
ごろごろと寝返りを打ちながら昨晩のことを悶々と考えていたが、体を起こした。
身体を起こすと、窓際にいたのであろうカオルがすとん、と掛け布団の上に降りてきた。

カオルの首には銀色の笛が掛けられている。
犬笛にも似た笛で、でも犬笛よりも小さい。

「これ、猫笛ですにゃ」
「…そんなのあるの」
「ありますにゃ。犬には聞こえなくても猫には聞こえる笛ですにゃ」

忍犬は意外と数が多い。
カカシも使うそうだし、犬塚家なんてその代表である。
犬は主に忠実で体力もあり、嗅覚聴覚ともに優秀な能力を持つ相棒になる。

一方猫は気ままで忠誠心といえるほどのものはない。
体力がそうあるわけでもなく、嗅覚聴覚は犬と同じくらいだという。
うちはは忍猫を好んでおり、よく使う。
猫のいいところは、切り替えがうまく、空気が読めるところだとイタチは言っていた。
いわく、犬は重い、とのことだ。

閑話休題、つまりこの笛は猫を呼ぶための笛。
何らかの意図をもってして、イタチはこれを私に託したのだろう。
…おそらくは、中忍試験中に何かあった時にイタチを呼べるように、だ。

「私も付いていきたいところではあるんですがにゃ。サスケ君にばれちゃいますからにゃ」
「気持ちだけもらっておくよ」

喉元を掻いてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
やはり可愛いが、こうして通いで来てくれる方が気楽でいい。
育てるのは無理だ、私には。

カオルと別れを惜しみつつ、外に出た。
今日も今日とて快晴で、目を細めないと外は歩けそうになかった。



会場についたのは、私が最後だった。
そのことについて少し謝りを入れつつ、会場であるアカデミーに入る。
前を一人歩くナルトは上機嫌だ。
自分に自信があるらしい、これは悪いことではない。

次にサスケ、昨日はきちんと兄と話ができたのだろうか。
普段よりも機嫌がよさそうだった。

問題は隣を歩くサクラだ。
昨日より少しはマシな雰囲気になったが、それでもまだ不安が残るのだろう。
前を歩くナルトとサスケの後を追いながら、ため息をつくというのを繰り返している。
自分に自信もなく、意思もなく、ただ周りに流されるだけでここまで来たサクラ。
引き返すなら今ここだがおそらくその勇気もないのだろう。

さてどうなることやら、と思いながらも会場へと向かった。
会場は3階の角部屋…そこにたどり着く前に、なぜかたむろしている場所があった。
301が会場なのだが、なぜか201にたむろしている。
幻術だろう、301と書いてあるらしい。

「どっちみち受からないものをここで篩にかけて何が悪い」
「正論だな」

偉そうにものを言っている先輩下忍役はイズモとコテツだ。
本当にここで篩にかけるつもりなのだろう。
ナルト、サスケ、サクラはみな気づいている。
また、前にいる少し年上そうな子供たちも気づいているらしい。
ある程度の粒はここで揃えられるだろうと思われた。

サスケがはっきりと、ここを通してもらう、と言い切った。

「サクラ、どうだ、お前なら一番に気づいているはずだ。お前の幻術能力と現状把握能力は俺らの中で一番できてるからな」

私はおお、と感心してしまった。
なんというか、みんな成長している。
サスケが人のことを気にかけたり、認めたりなんて珍しいものだ。
イタチもそうだが、この兄弟、嘘はつけてもお世辞が言えない。

そのサスケが褒めることの意味を、サクラもわかっている。
サクラの少ない自信を後押ししたのだ。

それにしても、私は随分とノーマークらしい。
そうなるようにしているのだから、当たり前といえば当たり前だが、イズモとコテツもほかの生徒たちからも何の反応もない。
サクラのように告白されるのは御免だが、ある意味、空しくなってきた。

「…大丈夫か、名無し」
「うん」

本当に、サスケは成長した。
先ほどサクラに、現状把握能力は一番だといったが、意外とサスケもいい線まで来ている。
きちんと周りが見えるようになっている。

うちは一族の悪いところは、視野の狭いところにある。
昇進して、組織の上層部に行くことが優秀さの証と思っている。
それを盲目的に子供たちも信じている。
それが、こういったチームに組することで少しずつ視野を広げていく。
どれだけ広げられるかが問題だが、しっかりと広げれば、イタチのようにうちはに縛られることなく羽搏いていけることだろう。

若い子たちの成長に、目を細めながら、サスケたちの後を追った。
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