32.陰り
どうせカカシさんは遅刻してくるだろう。
任務じゃない限り、遅刻しない道理はない。
まあそういうところで、上下関係をいい感じに崩しているといえば聞こえはいい。

ただ、待たされるこっちの身にもなれという話だ。
待たされること10分ほどで騒ぎ始めたサクラとナルトに苦笑を浮かべながら、内心穏やかでない。

欄干に寄りかかっているサスケは2人にイラついているようだ。
どうやら兄弟そろって朝は苦手らしい。
イタチも起きるのに苦労はしないが、寝起きの1時間程度は不機嫌だし。
彼曰く、寝ていたいのに目が覚めてしまうからイライラするらしい。
なんというか健康的なのに、どこか不健康だ。

私はといえば、シャワーも浴び、朝ご飯も食べ、気分的には上々。
どうせカカシさんは遅刻だからと本を持ってきて正解だ。

「…頭いいな、お前」
「もう慣れたからね、カカシ先生の遅刻。遅刻しないほうが珍しいくらいじゃない?」
「確かにな」

別に頭いいとかそういう話じゃないと思う。
問題は学習するか否かである。

思ったことは口に出さず、私は早々に話を切り上げた。
さっきから、サクラの視線が痛い。
サスケとの話は早々に切り上げて、その視線から逃れるように本に目を落とした。
人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られるというし、関わらないに越したことはない。

カカシさんは待ち合わせ時刻から30分も遅れてやってきた。
口は謝っているが、本当に口先だけである。

「突然だが、お前らのこと中忍選抜試験に推薦しちゃったから」

本当に突然だ。
本来ならば、下忍を数年積ませてから受けるような試験だというのに。
とはいえ、まあこのメンツだからこそというのはありそうな気もする。

九尾の人柱力にうちは本家の次男坊、確かにさっさと力を付けて自制できるようにしてもらいたい。
かなり強引な手ではあると思うが。

さて、私にはこれを断る道理はない。
というか、ナルトとサスケが受けるだろう(見た感じ絶対受けたいというだろう)から受けないという手はない。
問題があるとすればサクラだが、たぶん我慢してでも参加するだろう。
この班に巻き込まれてしまったのが不憫でならないが、私にはどうすることもできない。

手に取った中忍試験の用紙を眺めながら、そう考えた。

「じゃ、今日はこれで解散!」

集まっていた時間よりも待ち時間のほうが長いってどうなんだろう。
そう思っている間にも、ナルトとサスケ、サクラの3人には帰路につき始めた。
私は用紙を畳んでポケットにしまいこんで、3人を追いかけた。

ナルトとサスケは間違いなくこの試験を受けるだろう。
問題はサクラだ、今前を歩いている背中は曲がっていて何とも自信なさげ。
でも、きっと2人が受けるなら私もというような考えであると思う。
…私に言えることは特にない。
何か聞かれたら適当な助言はするが、その程度だ。

「じゃあ、私はここで」
「おー、また明日な!」
「またな」
「うん、またね」

さあ、家に帰って本でも読もう。
3人と別れて帰路についた…サクラに引き止められるかなと思っていたけど、そうでもなかった。
そういえば、女子同士といってもそう仲良くはないなと思う。
いまいち今どきの女の子の話題や感性が分からないから、これでいいと思う。
あまり仲良くなりすぎるとボロが出るし。

家に帰る最中、行きつけの和菓子屋さんに寄った。
そう言えば、そろそろ新商品が出るころだったはず。
中忍試験はその年によって内容は様々だが、たいていの場合サバイバル的なものがある。
サバイバル中は家に帰ることなどできないので、今のうちに贅沢をしたい。

「あ、名無しちゃん」
「…サクラちゃん、さっきぶりだね」

そう思って和菓子を買ったらこれだ。
ベタな展開にため息が出そうになるのを堪えた。
サクラちゃんはもじもじしながらも、時間があるか聞いてきた。

ないといってしまえばここでサヨナラができる。
しかし残念ながらこの空気でそれを言えるほど私は肝が据わっていない。

「私、自信なくて。サスケくんどころか、私ナルト以下だし…」

そりゃそうだ。
サスケは家系的に幼いころから英才教育を受けているし、ナルトは生来のチャクラ量が尋常ではない。
それと比べてはいけない。
ただ、このような小さな班で動いているから、比べる相手は彼らしかいないのだ。

「名無しちゃんは受けるの?」
「そのつもりだよ。私も自信はないし、足手まといになっちゃうかもしれないけど…でも、私にできることも、たぶんあると思うの」

班員の決定は、アカデミーの教師がしているらしい。
よくできた班員構成だと思う。
ナルトは体力面、サスケは技術面に優れている。
逆に2人が苦手とする緻密さやバランス力を補っているのがサクラ。
サクラがいないと困る場面は、多々あったはずだ。

「サクラちゃんにもあるよ、それにあなたが気付かないだけで」

私に言えるのはこれくらいだ。
ちょっとエラそうなことを言ってしまった気がする…同い年同士ってこんなものなんだろうか。
いまいちわからないが、サクラはちょっと驚いたような顔をした後に照れたように笑ったから、上々だろう。

「ありがとう、名無しちゃん。私も頑張ってみる!」
「うん、お互い頑張ろうね」

晴れやかな笑みで去っていくサクラに手を振った。
なんだか釈然としない感じだけが、私の中に残った。
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