28.一陣
ダンゾウの動きは早かった。
一瞬遅れて背後の父が動いたのが分かったが、間に合わない。
俺はダンゾウの攻撃を避け、左に避けた。
上に避けることも考えたが、そうなるとうちはとの抗争の火蓋が落とされることになるだろうと思いやめた。

避けたが、瞬時にダンゾウが追討ちを掛けてきた。
ダンゾウは身を翻し、持っていた刀で俺の右側を狙う。
クナイで一旦攻撃を受け止めたが、弾かれ、その拍子に右腕を切られた。
さすが、根の指導者だ、動きに切れがありすぎる。

ダンゾウの左右に居た暗部も動き出し、左右前からの挟み撃ち。

後ろに避けるほかはなかったが、避けるのをやめた。
今回のことに関して悪いのは俺。
こうならないように情報を漏らさないように、自分を殺して努めてきたのに。

「まだ10歳くらいの子どもにこんなことさせて満足?」

ぴたり、とダンゾウの動きが止まった。
ダンゾウが動きを止めた次の瞬間には暗部も動くのをやめていた。

澄んだ声が闇を裂くように響く。
見慣れた背中が目の前にあった。

「嫌になるわ、反吐が出る。戦争がなくなっても、里内部でこれ」

静かな声だったが、発されている殺気は尋常ではない。
彼女はいつでも飄々としていて、滅多に感情を表に出す人ではない。
しかし、今の彼女から読み取れる感情はただ1つ、怒りだ。

一歩、彼女がダンゾウに近づくと彼は一歩下がった。

「お前か。情報を漏らしたのは」
「私に知られるようなずぼらな管理をしていたのは貴方よ。私の教え子がそんなヘボするわけない」

左右の暗部が一歩こちら側に踏み込んだ。
名無しさんは威嚇するように左右にいる暗部に殺気を向ける。

うちはの者は誰も動かなかった。

「もう三代目様にもご連絡した。話し合いの場を作るとのことよ。これからいらっしゃる」
「名無し、貴様」
「私を優秀に育てたのが運のつきね。私は貴方ほど人でなしじゃないの。あと私はもともと忍ではなかった。感情を殺して生きることの意味なんてどうでもいいわ」

ダンゾウはそれ以上何も言わなかった。
だが、その代わりに名無しさんの殺気をものともせず襲い掛かってきた。
名無しさんは背後の俺を庇うようにそれを避け、クナイを構えた。

「…不毛だな」
「でしょうね」

名無しさんはカウンターを仕掛けたが、それもかわされた。
あまり大きい技はお互い使えない、それが自分たちの後ろにいる者たちに当たれば被害が広がる。
ダンゾウの後ろに下がっていた暗部がちらちらと様子を伺っているのが分かった。
隙を狙っているのだろう。

「お前は優秀だった、感情と言うものの殆どがなかったからな」
「貴方の元で育ったら人じゃなくなっていたでしょうね」
「殆ど人とも思われないような生活をしていたのだから、問題あるまい」

どうやら名無しさんとダンゾウは昔からの付合いがあるらしかった。
しかし、ダンゾウの言い分は名無しさんという個人を全否定して、兵器としてしか見ていない言い草だ。
ダンゾウは確かにそう言う男だ、人を道具としてしか扱わない。

話しの最中も背後のうちはは微動だにしなかった。
振り返るのが怖くて見られないが、写輪眼で確認する限りで動きはない。

「お前ごときにこの計画を邪魔されるわけにはいかん」
「イタチっ!下がって!」

後ろに気を取られたのがいけなかったのか、俺と名無しさんの間にダンゾウがいた。
目の前に居たダンゾウはいつのまにか分身を作っていたらしい。
名無しさんはそれに気づいていたようだが、俺が気づいていなかったことに気づいてはいなかったらしい。

名無しさんが俊敏な動きで俺を蹴って距離をとらせた。
俺は父のほうへと遠慮なく吹っ飛ばされた。
父は俺を庇うように前に出る。

「名無しさん!」

俺を蹴ったことでバランスを崩した名無しさんは、ダンゾウの一線を直に受けていた。
目のあたりを横に一直線入れられたようで、両目を閉じている。
視覚は感覚神経の中でももっともその仕事量が多い。
うちはや日向にとって、目をなくすことは致命傷であるから、その状況の重要性に俺は叫んでいた。

しかし、名無しさんは何も動じた様子はない。
寧ろ余裕の笑みを浮かべており、逆にダンゾウが苦渋に顔を顰めていた。

「ありがとう、ダンゾウ。私の呪いを解いてくれて」
「…貴様」
「あんた、イタチの目を狙っていたの。とっさに私の目を取ろうとするくらいに、執着していたのね」

名無しさんは優雅に笑って見せた。
この状況において笑みを浮かべるとはどのような了見なのだろうか。

目からの出血は止まることを知らない。
ぽたぽたと顔から血が垂れるのを気にすることなく、名無しさんは続ける。
その姿に、父が身体を強張らせた。
その姿は、昔の戦場で見た名無しさんのような鋭さと冷たさを持ち合わせているように俺は思った。

「ああ、もう全員動かないで。そろそろ三代目もいらっしゃるだろうし…意味の分かっていないうちはの方々は写輪眼を使えば、置かれている状況が分かるでしょう」

異様な雰囲気に動こうとした父を止めるように、名無しさんが口を開いた。
そういい終わってようやく名無しさんは目の辺りに持っていたらしいハンカチを当てていた。
ハンカチは見る見るうちに赤く染まっていく。
名無しさんから目を離せないでいる俺の前後で一族のものが写輪眼を発動させていた。

そして、呟く。

「…なんだ、これは」

俺もその声を聞いて、写輪眼を発動させた。

辺りには、糸が張り巡らされていた。
写輪眼でしか見えないということは、これはチャクラでできた糸。
傀儡の術などで使用するものだ。
それが一族の1人1人の首元を隙間なく通っていた。
俺は背が低いからそれには引っかかっていない。

また、その糸は暗部の者たちがいるほうにも同じように張り巡らされており、ダンゾウの周囲には指一本動かせないであろう量の糸が緻密に編まれていた。
ここにいる人間の数はおおよそ50名ほど。
その全員に対して糸を張っているのだろう、そしてその一本一本にチャクラが流れている。
触れば、それは鋭利な刃のようにその指を切り落とすだろう。

「ランの呪いを解いてくれたようじゃの、ダンゾウ」
「…ヒルゼン」
「喜ぶべきか、喜ばざるべきか…それはさておき、遅れてすまんの」
「いえ」

膠着状態が続く場に、火影様が現れた。
名無しさんはその姿を見ると、そっと膝を突いて頭を垂れた。

「頭を上げておらんと出血が止まらんじゃろう」
「…そうですね。失礼します」
「まだうまくチャクラを扱えぬか」
「何分、久方ぶりですので…」

頭を下げていると出血が酷くなるようで、名無しさんは素直に頭を上げた。
膝はついたままなので、自然と火影様を見上げる形になる。
2人は名無しさんのチャクラについて話していたが、俺にはいまいち意味が分からなかった。

名無しさんとの話が終わると、火影様は根とうちはの中央に立ち、口を開いた。

「フガク、ここまで来てしまえば話し合いで決着をつけるほかあるまい。お主も子を失うのは苦しかろう。ダンゾウ、お前のことに関しては上層部できっちり話をつける。…名無し、イタチ。お主らはよくやった。名無し、一旦イタチを連れて戻りなさい」
「御意…イタチ、おいで」

火影様は一息にそういって両者をみた。
父は何も言わなかったが、俺が名無しさんのほうへ向かおうと動くとその背をそっと押した。
ちらと振り返り見た父の顔が泣きそうに見えたのは気のせいだ。

名無しさんは相変わらず目から血を流していた、まだ止まっていないらしい。
深く切ってしまったのだろうか、眼球が傷ついてしまえば失明も免れない。
しかし名無しさんはそれを一向に気にする様子もなく、俺の手を引くと軽く火影様に頭を下げてその場を立ち去った。
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