22.我儘
「それで、名無しさん。この任務どうです?」
「最悪」

食事を終えた私にイタチがそう問いかけてきたので、私は即答した。
Sクラスの任務であることは承知で受けたのだが、この任務はそれ以上のランクをつけたいくらいだった。
皿を片付けていたイタチは苦笑しながら、そうですか、といった。
彼の弟も私の任務内の人間なのだが、それでも愚痴らずにはいられなかった。

私には向かない任務だが、適任者が私しかいないなどと言うから受けてしまった。
今は後悔している。
約2週間の長期任務だったが、本当に疲れた。
例えるなら、昼は上忍として任務に向かい、夜は暗部として任務に向かうという日常を2週間続けたような感じ。
自分でも疲弊しきっているのが顔に浮かんでいるのではと思うほどだった。
というよりも、疲弊の色は浮かんでいたと思う。

「せめて、担当上忍がアスマならまだよかったのに…」
「サスケの相手はカカシさんのほうがいいでしょうからね」
「カカシさんにだけでも正体を明かすべきなのよ。後半、カカシさんに疑われて大変だった」
「ああ…それは確かに」

下忍を騙すのはそう難しいことではない、問題は上忍を騙しきることにある。
しかし、上忍は状況を冷静に観察、分析する能力がきちんと備わっているし、何よりあのカカシは戦場でも名をはせていた人だ。
騙すのも大変だ…とにかく、担当上忍が事情を知っていれば楽になるはずなのに。

イタチは苦笑するばかりだった。
彼が、三角関係に巻き込まれてますよ何ていえないな、と思っていることなど知らない。

「…まあ、仕方ない。私、あの人の依頼を断る気にならないから」

私は、火影様の依頼であったりお願いはできる限り聞きたいと思う。
それは、拾ってもらった恩返しでもある。
1人暮らしをするときに、お金を返したいという私の意見を無視して、アパートまでくれた人。
私にできることは、彼の手足になり、彼の守りたいものを出来る限り守っていくことだけ。

だから、私は戦いが好きではなくても、お金が必要なくても、任務は受け続ける。
どんな危険なものも、暗部のものも、一般のものも。
だからイタチに出会えたし、悪いことはないと思う。
今の仕事も、いつかはやってよかったと思える時が来るとそう思う。

「俺は名無しさんのそう言うところ好きですよ」
「…そう」
「でも、もっとわがままになっていいとは思いますけど」
「もう充分わがままよ」

好き、といわれて一瞬なんと言えばいいのか分からなくなった。
これは何と言うか、反射的なものだ。
面と向かって好きといわれると、一瞬動きも思考も止まる。

あと、私はもうわがままだと思う。
前に進むのが怖いからイタチを振り回して中途半端な関係にとどまらせて。
私がいなければ、彼は違う道に進んでいただろうに。
でも、私はイタチを離せない。
卑怯だと思うけれど、進めない、進みたくない。
ただの私の我がままで、イタチはここにいる。

「…わがままよ」
「そう思っているのは名無しさんだけです」

そっとイタチから視線を外して、そう呟いた。
イタチはすぐに言葉を返してきた。
真っ直ぐで鋭い、美しい刃のような言葉。
多分、イタチは本当にわがままだと思っていない。
わがまますらも容易に許すのだろう。

そんなイタチのそばに私はいられない、いたらきっとダメになる。
どうなるのかは分からない。
前に進まないまま、今のままいったら、どうなるのか。
今と言うものが変わりゆくものなのだから、このままと言う概念が矛盾しているのかもしれない。
…考えていて、矛盾だらけで、頭がぐちゃぐちゃだ。

「寝る…」
「どうぞ」

分からない、分かりたくも無い、考えたくない。
私は逃げることばかり考えている。
でも、多くの人が逃げる私を捉えてくれる。
だから私は甘んじて逃げる。
いつまでも子供のままだ。

ソファーで横になると、上からタオルケットが掛けられた。
その後、タオルケットを掛けたその人は、ソファーの脇に座り込んで動こうとしなかった。
私はそれを感じて、安心してまどろみの中に落ちていった。



名無しさんはいつだって我慢する。
逃げている、と本人はそういっているけれど、実際は逃げてなんてない。
逃げるどころか、挑んで言っていると俺は思う。

戦いに挑み俺を守ってくれたその背中も、死を目前に生きることを選びアスマさんに向かった足も。
俺を生徒として迎えてくれた手も、すべて挑戦なのではないのか。
名無しさんは自分を卑下しすぎている。
考え方をちょっとでも変えれば、こうしていい面はたくさん出てくるというのに。

ソファーで丸くなって眠る名無しさんはとても小さい。
わがままだと言って遠くを見ていた名無しさんは、酷く自分を憎んでいるかのようだった。
もう全部吐き出してしまえばいいのに。
たとえ名無しさんが自分自身のことを嫌いでも、俺は好き。
名無しさんのことなら、どんなドロドロしたものだって飲み下せる。
まあ、そういった不の感情をみせたくないと強がる姿もいい。

結局、俺は名無しさんが好き、それだけ。

名無しさんは色々考えていて、複雑。
俺は何も考えてない、名無しさんのことだけ、単純。

「もっと楽していいのに」

名無しさんを抱き上げて、ベッドまで運んだ。
抱き上げても、名無しさんはぐっすり眠っていて起きない。
名無しさんをベッドに寝かして、俺もその隣にもぐりこんだ。

小さな名無しさんを抱き枕代わりにして。
髪を撫でたり、こっそりキスしたり、名無しさんが寝ている間にこんなことしてるなんて、彼女は知らない。
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