21.子猫のまどろみ
カカシが歩けるまでに復活するのに3日ほどかかった。
その間に再不斬と白の墓を作ったり、タヅナたちの仕事を見たりして子供たちは過ごした。
カカシが歩けるようになると、4人はようやく木の葉の里に向けて歩き始めた。

里に着くと、子供たちはどこかにご飯を食べに行こうとはしゃいでいた。
私はそれを断り、家に帰った。
はっきりいって限界だった、ろくに眠れていないし。
とにかく家に帰ってシャワーを浴び、慣れ親しんだベッドで横になりたい。

商店街を通って家に向かう。
足取りは重く、身体もだるい。

「おかえり、名無しさん」
「ただいま…」

アパートの階段ですら辛かった。
玄関を開けると、リビングのほうからイタチがひょっこりと顔を出した。
先日あったばかりだが、その顔を見るとほっとした。
私は荷物をその場に置いて、迷うことなくシャワー室に向かった。

シャワーのノズルがとても高い位置にある。
それをとるのも億劫で、そのままの位置でシャワーを浴びた。
いつもよりもぬるいお湯が身体を伝った。

「名無しさん、髪乾かしますよ」
「ああ…お願い」
「本当に疲れきってますね…珍しい」

シャワーを浴びて軽く髪を拭いて、リビングのクッションに倒れこんだ。
クッションは反撥することなく私の身体を抱きとめてくれる。
私と入れ違いで脱衣室に入っていったイタチがバスタオルを手に持ってこちらに来た。
どうやら髪を乾かしてくれるようだったので、名残惜しいがクッションから離れ、イタチに向き直る。

髪くらい自分で乾かせばいいのだが、腕を上げるのも億劫。
そのまま動かすのなんてもっと億劫だ。
抱き合うような形で髪を拭いてもらっているうちに眠たくなってきた。

「…ごめん、寝ていい?」
「いいですけど、夕食には起こしますよ」
「それでもいいから」
「ならどうぞ」

イタチはもともと私よりも頭半分くらい大きい。
しかし、今は座ったイタチにすっぽりと埋もれてしまうくらい。
イタチの胸の辺りに頭を置いて、猫のようにすんすんと鼻を鳴らすと、彼はおかしそうに笑った。
まどろみの中でこのサイズも悪くない、そう思った。



名無しさんは俺の胸の中で眠り始めた。

「まるで猫だな」

家にいる猫とそう変わらない姿だ。
髪は乾かし終えた、夕食の準備に取り掛かるべきだ。
でも、まだこのままでいたい。
どうせ名無しさんだって眠たいんだから、夕食は遅めでもいいだろう。
それで、俺もこっそり泊まっていってしまおう。

名無しさんからはシャンプーの香りがする。
13歳の姿はとても新鮮だ、今まで名無しさんは俺の年上の人で、いつだって俺の先にいるような人だった。
俺が実力的に名無しさんを抜いたって、名無しさんは俺の中では俺の上か隣。
決して下になることはなかった。
今だって下に見るようなことはないが、物理的に年下になっているからとても面白い。
彼女は気づいていないかもしれないが、13歳の姿になってから名無しさんは少し弱くなった。
普段よりもより疲れやすいようだし精神的にも幼くなっているように思えるし、何より甘えん坊だ。

普段は俺が年下だから、名無しさんは無意識のうちにしっかりしなくてはと思っているのだろう。
だから名無しさんは甘えを見せる自分を許さないし、頼れるように強くあろうとする。
そんな必要はないのに。

「少しくらい甘えたってなんら問題はないんだけど」


まあ、それは名無しさんのプライドが許さないのだろう。
俺がなんと言っても頑固な人だから、絶対に意味をなさない。
寧ろ怒られそうだ、馬鹿にするな!と。

俺に縋るように眠る名無しさんの顔は誰が見たって安らかだ。
普段からこれくらい気を抜いてくれればいいのにと俺は思う。

「…さて、夕食を作るか」

気が済むまで名無しさんの髪や額、頬を撫でていたら時計の針が1週してしまった。
名残惜しいが名無しさんをソファーに寝かせて、夕食を作り始めた。
抱き上げた名無しさんは非常に軽かったので、彼女の好きなものを作ろうと思う。

夕食はクリームシチューにした、名無しさんは案外子供っぽい料理が好きだ。
それにバターライス、付け合せにポテトサラダ。
全体的に白い食卓だ。
洗い物も済ませたので、あとは名無しさんを起こすだけ。

「名無しさん、起きてください。夕食です」
「…ん、ぅ…」
「起きて。約束しましたよね?」

名無しさんがソファーから落ちないように、そっと肩を揺すった。
目は覚めただろうが、元々寝起きの悪い人だから不機嫌そうにタオルケットで顔を隠して、ころりと向こう側を向いてしまった。
全くしょうがない人、可愛い人だ。

寝返りを打ってから動こうとしないので、そのまま抱き上げる。
名無しさんはタオルケットからちらりとこちらを見た。

「そんな眼をしてもダメです。起きてください」
「…起きるから下ろして」

いつもよりワントーン低い不機嫌な寝起きの声。
それすらも愛おしく思えるのだから重症だ。
とりあえず言われたとおりに、ソファーに座らせた。

座らせたと同時にこてん、と隣に倒れようとする名無しさんを支え、タオルケットを奪った。
名無しさんは恨みがましそうにこちらを見たが、俺は知らん振りをしてタオルケットを畳んで隣の部屋に戻した。
隣の部屋から帰ってくるときに、また名無しさん寝始めたんじゃないかと思ったが、その予想は外れてくれた。
リビングに戻ると名無しさんはぼんやりとテーブルに並んでいる食事を見ていた。

「おいしそう」
「それはよかった。また痩せたんじゃないですか?」
「そうかもね。思ったよりもこの任務大変だから」
「気を使う任務ですからね」

目も覚めたのか、声も話し方も元に戻っていた。
ふぁ、とあくびをしながら、名無しさんはソファーから降りてテーブルに着いた。
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