20.救世主
白はもう心を決めたらしい。
ただ、ナルトは白を殺すほどの精神力はない。
このまま膠着状態が続くであろうと予想された。

しかし、その予想は大きく外れた。

「俺様の未来が死だと…クク…またはずれたな、カカシ」

私は素直に白を尊敬した。
白はナルトとこう着状態にあったが、そこから抜け出し、主のために自分の命をささげた。
見事な最期だった。
自分の、敬愛して止まない人のために命を懸けられる。
その人のために命を捧げることが出来る、その幸せを私は知っていた。

微笑みながら満足感に溢れながら死ぬことが出来ること。
それが他人から見て、哀れで悲しい最期であっても、それは彼には関係ない。

「見事だ、白」

私はその光景に魅入っていた。
そこにあったのは確かな親愛と信頼。
非常に短く儚いその一時は光り輝いているように見えた。
だから、私はいつまで経っても平和に身を委ねられないのだろうとそう思いながら。

白が再不斬のほうに行ったのを見たサクラが、サスケの元に駆け寄っていた。
それに気づいた私はタヅナを連れてそちらに向かう。

サスケはハリネズミに近いような状態だった。
しかし、気絶しているだけのようだ。
サクラはそれに気づいていないので酷く泣いている。

「サクラ、大丈夫だよ。生きてるし、見た目よりも酷くない」
「本当!?」
「うん、私病院で医療についてちょっと勉強してたから分かるよ。もう少ししたら起きると思う」

可哀想になったので、そういってサスケをみた。
どの千本も器用に急所を避けてある。
これなら問題なく目を覚ますだろうし、回復も早いだろう。
なんたって、ただ大きめの針が刺さっているだけなのだから。

そんな話をしている間にも、サスケは眼を覚ました。
あまり動かないように、とだけいってちょっとだけ針を抜いておいた。
神経を傷つけないように抜くのは少々面倒だから、戦闘が完全に終わるまではあまり触りたくない。
私の後ろにいたタヅナは安心したように、嘆息をもらしていた。

「ナルトォ!サスケくんは無事よォ!」

サクラはカカシとナルトを安心させるためにそう叫んだ。
私は起きだしたサスケから意識を外し、あたりを見る。
カカシはまだ再不斬やナルトと話していた。

そのせいで気づいていない、辺りに人の気配が多くなっていることに。

「おーおー、ハデにやられてェ…がっかりだよ…再不斬」

霧が少し晴れると、辺りの様子がよくわかった。
大勢の人間と、その先頭集団から一歩前に出ている小柄な男。
再不斬は不審げにその男を見た。

「ガトーどうしてお前が此処に来る…それに何だ、その部下どもは!?」

再不斬が少し怒ったように小柄な男に問いかけた。
彼が悪名高いガトーらしい。
確かに悪そうな顔をしている、下品な笑みなどは昔に見た雇い主によく似ていた。

「ククク、少々作戦が変わってねェ…と言うよりは、初めからこうするつもりだったんだが…再不斬、お前にはここで死んでもらうんだ」
「何だと?」

ガトーは噂に聞いていたよりも、最低な人間だった。
彼の計画では、再不斬を雇ったのは、抜け忍は処理しやすいからであり、元々金を支払う気は無し。
他の忍者と戦い、弱った再不斬たちを諸共殺すつもりだったという。
映画に出てきそうな小悪党だ。

私はその話を静かに聞いていた。
多分、過去に私を雇った主もそう言うことを考えていたのだろうと思いながら。

「そういや、もう1人のガキはどこ行った?死んじまったか?クク…」

今時、こんな奴がいるのか。
戦争は終わっても、争いごとはなくならない。
戦火を生き延びた子供たちも、こういった男にいいように使われ死んでいったのだろう。
私のように運よく生き延びた子など、早々いない。
そう思うと、なぜ私のような者が生き延びてしまったのだろうと、そう感じてしまう。

「アイツには腕を折られたからねぇ。私が直接手を下したかったが、死んじまったならそれはそれで構わんか」

白はきっと重症であったとしても、ガトーに殺されるほどやわではなかったと思う。
あの子は強かった、とても。

沈む気持ちを何とか引っ張り上げて、辺りを観察した。
集められた人々は忍びではない、ちょっとした武器を使える一般人に近い人々。
普段のカカシや再不斬なら敵ではないが、今は状況が悪い。
数でこちらが負ける可能性はある。

「手を出すな。そいつは…俺がやる」

再不斬は白の死に、一滴の涙を溢した。
それだけでも、きっと白は救われただろう。
否、苦笑したかもしれない、僕のためにそんな…と控えめに。

再不斬はナルトからクナイを一本貰い、口に咥えた。
それから、ガトーに向かって一直線に駆け出した。

どこかおかしいところで育ったおかしな人は、爆発的な躍進力を持っている。
その起爆スイッチはどこにあるのかは分からない。
うっかりそれを押してしまえば、死が止めるまで走り続ける。
今まで私は何人か、そうやって死していった人を知っている。

遠くで、短い悲鳴が聞こえた。


どうやら、ガトーは死んだらしい。
ざわつくガトーの手下達だが、タダでここから返してもらえるとは思っていないらしい。
どうする?という声が聞こえた次に、あいつらを倒してしまおう、という声が聞こえた。

さすがにこの人数差では、こちらのほうが分が悪い。
どうしたものか、とどこか遠くのことを考えるように思った。
やけに、頭がぼんやりしていた。

「こんにちは、カカシさん。なにやら大変そうですね」
「あれ、イタチ…なにどうしたの」
「俺も任務でこの辺にいまして。風の噂でカカシさんたちのことを聞いたので様子を見にきたんですよ」

ぼんやりした脳裏に、聞きなれたテノールの声がやけにはっきり聞こえた。
はっとして顔を上げると、カカシと大人数の間を隔てるように、見慣れた眺めの黒髪がちらりと見えた。
あいつ、と思いながらも、心のどこかでほっとしている自分が憎い。

「なにやら大変だったみたいですね」
「…まあね。あとお前に任せていいの?」
「構いません、軽く追い払えばいいでしょう?」
「ああ」

なぜかイタチが現れて、さもお手伝いにきましたよ、みたいな様子でいる。
カカシも疲れているのだろう、イタチに疑問も投げかけずに後はよろしく、といわんばかり。
私は私でほっとしたのか、やる気が激減。
敵とナルト、サクラはなんだこいつ、といった様子。

それらの幾重もの視線を無視して、イタチは敵に向き合った。
敵は一瞬たじろいだが、所詮はまだ20にもならない青年だと舐めていたようだが、あっという間に彼らは尻尾を巻いて逃げることになった。
幻術をかけて脅したようだ、忍者でもイタチの幻術を返すことは難しいのだ、彼らにとけるわけもなかった。

「さて…大丈夫ですか、カカシさん」
「まじで助かったよーイタチ」

イタチはカカシに肩を貸して歩き始めた。
そのとき、ふとこちらを見て笑う。
かぁ、と身体がほてったように感じた。

私はサスケに肩を貸して、一旦タヅナの家に戻った。
作業員達は全員無事で、イナリが町中を走り回って敵を倒そうと声をかけていたらしく、多くの人が心配して見に来ていた。
ツナミが怪我人がいるから、と町民を帰してようやく家は静かになった。

「何で兄貴がいるんだよ…」
「だから、任務のついでに寄ったんだって。任務のランクが上がったっていう事もあるから様子見で」

丁寧に針を抜いてもらったサスケが不機嫌そうにイタチを見た。
自分の任務に兄が干渉してきたことが許せないようだ。
イタチはそんなサスケに対し、苦笑しながら何度も言っている弁解を述べた。
私はその様子を静かに見守った。
カカシは眠っており、今起きているのは子供たちとイタチのみ。

「えっと、サスケくんのお兄さん…?」
「ああ、そうか…はじめまして、うちはイタチだ。よろしく」
「春野サクラです…よろしくお願いします」
「へえ!サスケに兄ちゃんなんていたのか!初耳だってばよ!」

サクラがおずおずとイタチに話しかけると、イタチは笑ってそれに対応した。
その様子にほっとしたのか、サクラはきちんと自己紹介をした。
ナルトが自己紹介もおろそかに話し始めたので、サクラが一発殴っていた。
その間に私は自己紹介をしたが、とても変な感じだった。
イタチも苦笑してそれに答えていた。

ナルトが自己紹介を終え、カカシが眼を覚ましたところでイタチは立ち上がった。

「じゃあ、俺この辺で帰ります」
「ああ、悪かったな、イタチ」
「いえ…それでは、また」

カカシに挨拶をして、窓から外に出る間際に、ちらりとこっちをみた。
それでは、また、というセリフが私に向けたものであるということをふと感じた。
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