カカシの挑発をものともせず、再不斬は白に言った。
これはまだ奥の手を残している敵の余裕だ。
「クク…白、分かるか。このままじゃ返り討ちだぞ」
「ええ、残念です」
残念と言う割には特に残念そうでもなんでもない。
じわじわと外気が冷たくなっているのを感じた。
「秘術、魔鏡氷晶!」
サスケの周りに数枚の氷の鏡が出現した。
これは、まずいかもしれない。
水と風を使い、氷を出現させるという技は、霧の国で見たことがある。
これは血継限界の一種、氷遁だ。
サスケはまだ写輪眼を開眼させていない。
少々荷の重い相手になるだろう。
「な…!」
「クソ!」
それに気づいたのか、カカシが加勢しに行こうとしたがその前に再不斬が現れる。
カカシの相手は再不斬である、任せたからにはサスケがその場は切り抜けなければ。
いざとなったときに、いつでも動けるように、じっと戦いを見据える。
「サスケくん!」
サクラが鏡に向かって投げたクナイは白によって妨害された。
白は鏡から鏡へとかなりのスピードで動けるようだ。
しかし、鏡から出たその一瞬のうちにどこからか飛んできた1つの手裏剣が当たる。
その拍子に白は鏡から倒れ出た。
「誰…?」
「うずまきナルト!ただいま見参!」
…参上するのはいいが、そこに参上してはいけなかった。
先ほどから鏡から出ようとサスケは四苦八苦していたのに。
ため息をつきたくなるのをこらえて、様子を伺う。
どうやら私が思ったことと同じことをサスケも思ったらしく、思いっきりナルトの頭を引っぱたいていた。
忍というものは基本的に隠密が重要。
ナルトは下忍試験のときもそうだが、隠密とは程遠い。
あれでは狙ってくださいといわんばかりだ。
「しまった!」
「ナルトあぶない!」
カカシの声とともに、ナルトに手裏剣が投げられた。
とっさにクナイを投げようと身構えたが、その必要はなかった。
手裏剣はすべて千本で打ち落とされた。
それをしたのは白だ。
仲間割れと言うわけではなさそうだが。
「白…どういうつもりだ」
「再不斬さん、この子は僕に…この戦いは僕の流儀でやらせてください」
「手を出すなってことか…白。相変わらず甘いやろーだ。…まあ、好きにしろ」
敵は大分甘い性格をしているらしい、フェミニストと言うべきか。
手段を選ばない忍と比べれば見ていて気持ちがいいが、命のかかった戦いでそんなことをしていていいのだろうか。
まあ、それは余計なお世話だ。
これで再不斬がナルトとサスケを襲うことはなくなったが、問題は山積みだ。
とにかく今は、あの氷の鏡から抜け出さないことには何も出来ない。
鏡の中ではナルトとサスケが喧嘩をしていた。
そんなところで喧嘩をしている暇はないのだが、白は優しいので待っていてくれているようだ。
ナルトは助けに来たつもりなのだが、状況は悪化していることに気づいていない。
サスケは痺れを切らしたのか、ナルトを無視して業火球で氷の鏡を溶かそうとするが、融けない。
火力に問題があるようだ。
その上、白の攻撃は素早い、避けることもできずに2人は傷を増やすばかりだった。
カカシもこの辺りでようやく白の技が血継限界だと気づいたようだ。
今更危機感を持っても仕方あるまいに。
私としても、先日カカシに警戒されたこともあり、派手に動くことは出来ない。
無論、最悪の場合動くが、それまでは動かない。
鏡の中は膠着状態が続いていた。
ナルトと白がなにやら話しているようだが、こちらまでは聞こえてこなかった。
「サスケくん!ナルト!そんな奴に負けないで!」
「やめろサクラ、あの2人をけしかけるな!」
サクラはそう叫んだが、カカシがそれを止める。
それもそうだ、下忍になったばかりの子供に殺しを強要させるような言葉を容認することは出来ない。
荷が重過ぎることだ。
ただ実際問題、あの2人に白を殺すだけの能力があるかといえば、微妙なところだ。
一方、白は忍としてそれなりに長く経験を積んでいる。
恐らく殺そうと思えば殺せるが、そんなに単純な話ではすまない。
人を殺すということは、酷く重く冷たいこと。
だからこそ、忍は心を殺せといわれて育つ。
しかし、そんなことが出来る忍はほんの一握り…いないだろう。
「じゃあどうするのよ!」
「…悪いが一瞬で終わらせてもらうぞ」
そんな一瞬で終わらせられると思っているのだろうか。
ここに来てこちら側が不利になった。
再不斬とカカシが先頭を始めると同時に、白とナルト、サスケのほうの戦闘も始まった。
白のほうは、圧倒敵にナルト、サスケの不利になってしまっている。
鏡から鏡へ飛び交う白を眼で追うことすら難しい2人は傷を増やすばかり。
カカシは再不斬に悪戦苦闘している。
とはいえ、こちらはカカシが優勢のようだ。
「っきゃあああ!!」
「!?」
サクラが叫んだため、はっとして鏡のほうを見た。
眼を凝らしてみると、鏡の中でサスケが針の筵になっていた。
慌てて駆け出しそうになる足を止め、冷静に脳内でどうすればいいのか考える。
千本とはいえ急所を着けば即死。
そして、急所を突く能力が白にはある。
しかし、今すぐ飛び出してしまえば、カカシに不審に思われる。
私の出した結論は、ここで出来る限りの様子を伺うこと。
既に写輪眼を開眼させているカカシにばれないように、こっそりとチャクラを鏡の中に滑り込ませた。
サスケの容態は大して悪くなかった。
というよりも殆ど問題なかった。
間違いなく、白は手加減していた。
どこまでも優しく、困った子だと蘭は苦笑した。
さて、サスケが無事なのはいいが、今度はナルトだ。
ナルトはサスケの惨状を見て九尾のチャクラをもらし始めていた。
こっちはどうするべきか、と思っていたが、そちらは私の手にかかるまでもなく終わった。
ナルトは九尾のチャクラを使って、白の血継限界を壊した。
ナルトと言う存在への誤認、白の誤算はここにあっただろう。
白とナルト、サスケ側はこれで終わる。
少々話し込んでいるようだが、勝負は決している。
また、再不斬、カカシ側もほぼ勝敗は確定していた。
「もう終わりです。ナルト君に負け、再不斬さんの求める武器になれなかった僕が生きる理由はもう無くなった…」
白という少年は子供傭兵にそっくりな思考の持ち主だった。
幼少期の記憶や習慣と言うものは大人になっても消えることなく、本能の一部として一生燻り続ける。
それは私も同じであるし、きっと殆どの人間がそうだ。
子供傭兵は幼少期に親を亡くしたり、捨てられたりした記憶がある。
そのため、傭兵であってもどこかのグループに所属できるということに安堵する。
仲間がいると言う状況を大切にする、それこそ宝物のように。
だから大人はそれを利用し、軍事に用いていた。
子供は無邪気で真っ直ぐで馬鹿だから、大人に使われているとも知らず仲間を守るため、その小さな命すら投げ出して戦う。
その姿に良心のあるものは心打たれ、それが隙となる。
閑話休題。
それらのせいで、幼少期に捨てられた記憶のあるものは、大人になっても誰かに依存しないと生きていけなかったりする。
白は典型的なそのパターンであるように見えるし、何より私がこのパターンの典型であった。