17.水面の煌き
昨晩も眠れずにいたが、今晩も眠れそうにない、という日が続いた。
外のナルトは懸命に修行を続けているようだ。
休むことも重要なのだが、ナルトは潜在的なチャクラが多いのでそれで問題なく修行が出来ているらしい。
私は夜もそう眠ることが出来ず、疲れが溜まるが仕方がない。

時々、ナルトに食事を届けに行ったりしてきちんと安否も確認している。
そのたびにナルトはありがとうと笑いながら、色々とアドバイスを求めてくる。
私の仕事は先生をすることじゃないが、そんなに嫌じゃない。

その日は朝早くに、ナルトの傍に不審な人がいた。
どうしようかと思ったが、念のため、見にいくことにした。

「ナルトくん、おはよう…その人、誰?」
「あ、白っていうんだってばよ!」
「そうなんだ…おはようございます、白さん」

にっこり笑って挨拶すると、若干警戒するような気配を見せたが、すぐに笑顔になって挨拶を返してくれた。
どうやら薬草を摘んでいるようだが、その薬草は神経系に聞くものだ。
恐らく、こいつはあの抜け忍だろう。
今ここにいる限りでは攻撃してくる様子はないので、放置するが。

ナルトは白に大分懐いているようで、一緒に薬草を摘んでいる。
私もそれを手伝いながらお喋りをしていたが、その中で気づいたことがある。
ナルトは白のことを女と勘違いしているようだ。
確かに白は女のように綺麗な顔をしているから、勘違いしてもおかしくはない。
そして大して問題もない。

白はナルトに、どうして強くなりたいのかを聞いていた。
ナルトは里で一番の忍者になるためと答えた。
全く可愛らしいものだ。

白もその回答にクスクスと笑っていたが、そのあと真面目に聞き返す。

「それは、誰かのためですか?それとも自分のためですか?」
「…は?」

ナルトは質問の意味がいまいち分からなかったのか、きょとんとした様子だ。
私はきちんと意味が分かった。
深いことを言う人だ、敵ながら戦いたくないと思う相手。

ナルトがきょとんとしているのがおかしかったのか、白は更にクスクス笑いを続けた。
それに対してナルトは怒ったように、何がおかしいのかと聞き返す。

「君には、大切な人がいますか?」

ぐっと胸の奥に刺さるような言葉。
きっと彼にとってはそれが再不斬なのだろう。
私にとってはイタチやアスマ、火影様。

「人は、大切な何かを守りたいと思ったときに、本当に強くなれるものです」

大切な人のために、という思いは強い。
それは母が子を想うように、恋人同士慕い合うように、絆によって出来る強さ。
私はそれがあったから、戦場で生きていけたし、今ここで生きている。

ナルトは自信有り気によく分かってると力強く言った。
きっとナルトはもっと強くなれるだろう。

白はまたどこかで、といって森の奥へと消えた。
ナルトは消える前に言った、僕は男ですよという言葉に酷くショックを受けていた。
その後すぐにサスケが来たので、一緒に木登りの練習を少しだけした。
私はその後、家に戻りツナミさんの手伝いをしたり、イナリの面倒を見たりもした。

「お姉さんは、海がすきなの?」
「海というよりは水が好きなの」

イナリは慣れてくれればそんなに悪い子ではなかった。
ただ、ふとしたときにぼんやりとすることがあったり、動きが止まったりすることがある。
恐らくまだ心の傷が癒えないままなのだろう。
一緒に散歩をしたりするうちに、なんとなくイナリのことは分かってきた。

まだ、彼も子どもだ。
強がってはいるものの、死んだ父のことを忘れられずちょっとしたことで思い出しているようだった。

「ふぅん。お姉さん泳げる?」
「たぶんね。でも、泳いだのは結構前だから自信ないかな」
「俺、泳げないんだ」
「そっか」

桟橋から足を投げ出して、ぽつぽつと話していた。
私が最後に泳いだのはいつだろう?
少なくとも、木の葉に来てからは泳いでいない。

泳ぐあの感覚は嫌いじゃない。
外の音がすべて遮断されて、きんとした世界、きらきらの水面。
戦火の中でも水の中だけは平和に思えたものだ。

イナリは泳げないそうだ。
彼はじっと水面を見つめるだけだった。

「俺も魚みたいに泳げたらなって思うよ」
「そう」

彼は昔に泳げないことで何かあったのだろうか。
そういうときは下手に練習すれば出来るようになるなどと声をかけないほうがいい。
心の問題であった場合は、どうにもならないからだ。

「お姉ちゃんは修行しなくていいの?」
「今やってる修行はもうできるからね…男子2人だけはうまくできないみたいだけど」
「ふぅん。女なのに凄いんだな」
「男女で得意不得意はあるよ。イナリくんお料理は得意?」

チャクラのコントロールは微細な技が必要だ。
細かい作業は一般的に女のほうが得意な傾向にある。
私も得意だし、サクラも得意なようだ。
ナルト、サスケは不得意なようだし、イタチもどちらかといえば不得意なほうだった。

イナリは首を横に振った、そういうことだよ、というと納得したようにまた水面を見つめた。
イタチのように料理も得意です、なんていわれたらどうしようかと思ったが、そんなことはなかったので安心した。

「おー、名無し。こんなとこにいたのね」
「カカシ先生」
「何、イナリ君と仲良くなってたの?」

その後は、他愛もない話をしているとカカシが現れた。
私とその隣にいるイナリを驚いたように見ていたが、用件を聞くとタヅナさんの護衛に行くようにという話だった。

「わかりました。…じゃあイナリくん、またね」
「おう。またな」

イナリと別れタズナの待つ場所に向かった。
途中までカカシがついてきた。

「ねえ、名無し」
「なんですか?」
「…君は何者かな?」
「いや…何者かといわれても…」

桟橋を渡り終え、林にほど近い場所でカカシが声のトーンを落として聞いてきた。
若干やりすぎたかなと思う点はあるし、子どもっぽくない言動もあったと思う。
しかし、それらがあったとしても、ばれるほどのことではない。
ここではしらばっくれるのが一番だろう。

カカシにばれてもさほど問題はないが、一応火影様が伝えなかったということは悟られてはならないということ。
これも任務の一環であるといえよう。

「名無し、ずっと入院していたわりには動きもいいし、修行も簡単にこなすね。それに、ナルトとサスケがそんなに気になる?」
「えっと…ありがとうございます。練習したので。ナルト君とサスケ君のこと、そんなに見てました…?」
「うん、サクラはあんまり見てなかったみたいだけど」

次からは視線に気をつけないといけないな。
サクラにも気を配るようにするとして、今のこの状況をまずは切り抜けなければ。

「男の子って、凄く久しぶりに接するんです。入院中は男女で病棟が別れていたので…。ナルト君たちに何か言われたんですか…?」
「…いいや、違うよ」
「ならよかった。気持ち悪いって思われてたらどうしようかと思いました」
「そんなことはないと思うけどね…変なこと聞いてごめんね」

まだ疑念は持っているようだが、なんと諦めてくれたようだ。
一応一通りの嘘は考えているので、そこまで困ることもないだろう。
これから更に気を引き締めないといけないと思うと気が滅入る。

橋の袂でカカシと別れて、海沿いを1人歩いた。
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