16.瘡蓋
その後も話を続けていたが、さすがに疲れていたのかサクラは夜が更ける前に眠りについた。
私はなかなか寝付くことができず、横になったまま窓の外を眺めていた。
遠くから聞こえる波の音と月あかりが、酷く心を乱すような気がした。

結局一睡もしないまま、朝を迎えた。
布団を片付けていると、サクラが起きだした。

「名無しちゃん、おはよー。早いね」
「うん、起こしてごめん」
「ううん、平気!」

サクラは起きてすぐ髪を梳かしたり、寝癖を直したりと急がしそうだ。
私は髪が相当長いため、そこまで寝癖がついたりすることはない。
軽く髪を結って、先に下に降りた。

階下には既にサスケがいた。
ナルトはまだ起きていないらしい。

「…おはよう」
「おはよう」

挨拶くらいはしておこうと思い声をかけたが、ぶっきらぼう。
…まあイタチも他人に対してはこの程度だったような気がするので、兄弟似たりよったりといったところか。
非常に居辛いので、ツナミさんの朝食作りの手伝いに向かった。

朝食を並べていると、カカシが、その次にサクラ、最後にナルトが下りてきた。
朝食を食べ終え、昨日の修行の話になった。

修行と言うのは木登り。
忍びの殆ど全員が体験したことがあるであろうものである。
私はやったことがないが、恐らくできるだろう。
基礎中の基礎だから。

「足にチャクラを集中させて、維持。それで、そのまま登る。簡単だろ?」

それが以外と簡単じゃない。
出来ない奴は本当に出来ないし、出来る奴は出来る。
チャクラコントロールというのはそう言う傾向にある。

私の勘だと、サスケは出来ない、恐らくナルトも。
いい線いくのはサクラくらいじゃないだろうか。
サスケに関しては兄であるイタチがこれを苦手としていたから、そういう見解。
ナルトは性格と腹の中の九尾のチャクラのせいでうまくいかないと見た。
サクラは女性だからという理由だけだ、こういう繊細な動きが要求されるコントロールは女性のほうがうまい。

「今一番チャクラのコントロールがうまいのはどうやら女の子のサクラと名無しみたいだな」

読みは当たった。
ナルトはチャクラが少なすぎて木に脚をつけることもなく撃沈。
サスケはその逆でチャクラが多すぎて木に反撥され2歩目で撃沈。
サクラはあっさりと木を登りきった。
ちなみに私も適当にやったら出来た。

カカシが挑発的にそういうのでナルトとサスケは悔しそうである。
それにしてもサスケは感情を隠すということを知らないらしい。
まあ子どもらしくて可愛いものだ。

「ま、あとは4人で頑張ってね」

カカシはそういって去っていった。
私はそう練習する必要性はないので、適当に登ったり降りたりを繰り返した。
そしてサクラがばててきたタイミングで、私も休憩する。
そうすればまあ、一般的な下忍の女の子のように見えるだろう。

ナルトとサスケはコツがつかめないのか、なかなか上達しなかった。
あるとき、ナルトがサクラにこそこそと何かを聞きに言ったようだが、サスケは1人黙々と頑張っていた。
サスケはプライドが高いようだ。

「名無し」

いい加減木登りにも飽きて、木の上でぼんやりしているとしたから声がかかった。
ふと下を見ると、サスケがこちらを見上げていた。

「どうしたの?」
「…コツ、教えてくれ」
「え?ああ…コツね。コツは身体の中のチャクラを水だと思うことかな。あくまでも私的意見だけど」

どうやら1人で行き詰ってしまったようだ。
そっぽを向いている顔は、少々赤くなっているように見えた。
苦笑しながらも、簡単にコツを教えていく。

イタチはいやに素直だったが、これくらい反抗的でも可愛いものだ。
さっくりとコツを教えてやると先ほどよりもぐんと前に進んだ。

「凄いね、コツを教えただけなのに」
「いや…分かりやすかった。ありがとう」

きちんとお礼も言えるし、かなりいい子だ。
そりゃ、フガクさんとミコトさんの子だから当たり前かもしれない。

私は疲れたという理由で少し早めに切り上げて、タヅナの家に戻った。
ツナミさんの手伝いをしながら、3人の帰りを待つ。

「貴方、本当に手際がいいわね!おうちでよくお手伝いしてるの?」
「え?ああ、そうですね…」
「偉いわね。きっとお母さんも喜んでるわ」

実際には、年下の男に家事をすべてやってもらっているのだが、さすがにいえない。
母が喜ぶというのは、ちょっと分からない。
私には母という存在はない、一応父と兄はいるが一緒に暮らしていた時期は非常に短い。
自分のしていることがうまくできているのか、普通なのか、何も分からない状態だ。

ここに来てから他の人との会話を避けるために、彼女の隣で手伝いをすることが増えた。
誰かのために料理したり、手伝ったりするのは特に苦でもなんでもない。
それがただ、自分のためになると一気にやる気がなくなるのだ。

「あ、名無しちゃん!ここにいたのね」
「うん、ばてちゃったから」

夕食を作り終えた頃に、3人は帰ってきた。
テーブルに皿を並べ、いただきますの合図で食事が始まった。
普段は最大で2人でしか食事をしないから、これだけ大人数なのは珍しい。
海が多いこともあってか、食卓には魚が多く並んでいた。

それらをかきこむように食べるナルトとサスケに圧倒されつつ、少しずつご飯を食べた。
元気があるのはいいが、少々汚い。


「あの〜、何で破れた写真なんか飾ってるんですか?」

食事が終わり、片付けの手伝いをしているとサクラがふと気づいたようにそういった。

「イナリ君、食事中ずっとこれ見てたけど、なんか写ってた誰かを意図的に破ったって感じよね」

その瞬間、その場の雰囲気が変わった。
触れてはいけない何かに触れてしまったのだろう。
ずん、と空気が重くなったような気がする。
こういうのはあまり得意ではないので、口は挟まないで、黙々と皿を運んだ。

「…夫よ」
「…かつて、町の英雄と呼ばれた男じゃ」

タズナがそういうと、イナリは突然席を立った。
ツナミが慌てたように名を呼び、どこへ行くのかと問いかけたがイナリは振り返りもしない。
結局彼は立ち止まらず、扉の向こうへ消えた。

「父さん!イナリの前ではあの人の話しはしないでって、いつも…!」

そう言って辛そうに怒鳴ったツナミは急いでイナリの後を追いかけた。
どうやら訳ありなようだ。
イナリがあれだけ暗い瞳をしていたのだ、暗い話なのだろうことは想定できる。

ツナミが部屋を出たところで、俯いていたタヅナが声を絞り出すようにして話し始めた。
イナリの血の繋がらない父のこと、その父がガトーの手によって殺された悲劇を。

私にはかわいそうなことがあったものだ、と言う程度にしか感じ取れない。
昔からそうだ、どんな悲劇を涙ながらに聞かされても、私の心は震えない。
そういった点で、私はやはりどこか壊れていると思うし、それは治らないと思う。
ナルトには思うところがあるのか、チャクラもないのに修行をするといって家を飛び出していった。
護衛する身としては心配だが、さすがに私が着いていくのは不自然。
今夜は辺りへの警戒をしっかりとしておくことでカバーするほかない。
prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -