15.隣にいる権利
タズナの家にお邪魔して、カカシを休ませることになった。
どうやらカカシはまだ写輪眼を使いこなせるわけではなく、身体が付いていかないらしい。
それもそうだ、元々うちはの身体ではないのだから。

一部屋借りて、カカシを横にさせてから私たちも休むことになった。
が、私は特に休む必要性も感じないし、家の周りを散歩することにした。

家の周りは水で囲まれていた。
潮の香りが仄かにするから、海の延長なのだろう。
すべての家が海から生える柱に支えられた板の上にできている。
板の上に座り、足を水につけるととても気持ちが良かった。
ぼんやりと遠くを眺めて、時間を潰した。
あまり人と話すのは得意じゃない。

どれくらい経ったのか分からないが、足を魚に突かれ始めたので、皆のもとに帰ることにした。

「名無しちゃん!どこに行ってたの?遅いから心配したわよー」
「あ、ごめんね。木の葉とは全然違うから、ちょっと楽しくなっちゃって」
「そんなことより!大変なのよ、再不斬がね…!」

帰ると既にカカシが起きていた。
どうやらカカシもようやく気づいたらしい、再不斬が死んでいないという非常に高い可能性に。
それをサクラから聞かされ、驚いた振りをした。
やはり潜入護衛は楽じゃない。

サクラが話し終わったタイミングで、カカシが話し始める。

「お前たちに修行を課す!!」

恐らく仮死状態に陥っている再不斬の復活にはまだ時間的猶予がある。
その間にできることやっておこうと言う魂胆だ。
ナルトやサスケ、サクラはまだ若い。
簡単で効率的な修行はいくらでもあるから、短期間でも成長することはできるだろう。

わいわいと修行について話していると、家に入ってくる小さな人を感じた。
どうやらこの家には子どももいたらしい。
部屋にやってきたその子は、帽子を被り、つまらなそうな眼でこちらを見ていた。

「おお、イナリ!どこへ行っていたんじゃ!」
「おかえり、じいちゃん」

どうやら依頼者の孫に当たるらしい。
子どもにしては暗く嫌な感じの眼をしている。

恐らく、この国ではそう珍しいことでもないのだろう。
混乱し疲弊した国では、子どもの眼が死ぬ。

タズナの娘であり、イナリの母であるツナミが挨拶ぐらいしろと叱るがそれも意味はなさない。
暗い光を宿したイナリの瞳はぼんやりとしか母の姿を移していないように思えた。
タヅナはこの孫を溺愛しているのか、庇うようにイナリを膝の上に乗せた。

「母ちゃん、こいつら死ぬよ」
「なんだとぉ!このガキってばよ!」

イナリは突然、ナルトたちを指差してそう言った。
諦めと呆れが声音の中に混ざっていた。
しかし、無論ナルトはそんなことには気づかず、怒ってイナリを見た。
イナリはそれでも怖気づくことなく、ただ静かに言葉を続けた。

「ガトーたちに刃向かって勝てるわけがないんだよ」
「ンのガキィ!!」
「まーまー、ナルト、落ち着いて」

沸点の低いナルトはイナリに飛びかかろうとしたが、それをカカシが止めた。
呆れたようにその様子を見ていたサスケとサクラ、カカシ。
イナリは面倒になったのか、早く帰ったほうがいいという可愛らしい忠告をして部屋を出て行った。
ナルトはまだ腑に落ちないのか、イナリを追いかけていった。

修行は明日からになりそうだ。


「はい、サクラとランはこっちの部屋ね」
「やった!名無しちゃんとたくさん話ができる!」
「…そうだね」

空き部屋が2部屋あったようで、女子男子で分かれて使うことになった。
女の子と話す機会が滅多にない私にとっては、ボロが出そうで嫌なのだが、仕方あるまい。
荷物を置いて整理していると、サクラに話しかけられた。

「ねえ、名無しちゃんは好きな人とかいないの?」
「うーん…どうだろう」

この時期の女の子は恋のお話で盛り上がるのか、とおばさんくさく思ってしまう。
適当に誤魔化すしかない。

…誤魔化す、というよりかは、私の口から出た曖昧な言葉こそが本音だ。
好きなのか、嫌いなのか、どっちなのか分からない相手ならいる。

「ねえ、そもそも好きって何を基準に言ってるの?」

彼女達はなんの迷いもなく、ただ真っ直ぐに好きか嫌いかを決める。
一体どうしてそんなにあっさり、素直に認めることができるのだろう。
私にとってはそれが一番疑問に思うところだ。
その疑問が、本音が、ぽろりと口から零れた。

イタチだってそう、私のことを好きだというけれど一体どうしてそうなったのか。
明らかに私にはそういい所はない。
だというのに、彼は胸を張って私に愛してるなどと囁くのだから、訳が分からない。

サクラは唐突な質問に、少し考えるように黙り込んだ。
そして、少しずつ言葉をつむぐ。

「最初は、ただカッコいいなとかそう言う漠然とした思いだったんだけどね。その人の近くに誰かいるのが嫌だったり、いつか私はあの人の隣に居たいって思ったり…。徐々にその人のことしか考えられなくなってきちゃって、そうなるとやっぱり好きなんだなって思うの」

照れたように笑って、そう言うサクラは本当に可愛らしかった。

サクラの言い分で考えると、好きになる、と言う点においてはクリアしている。
さて、それでは何故イタチを受け入れられないのか。
それはそう、難しい問題ではない。
簡単だ、私に自信がないから。
私が私を愛せないから。

「名無しちゃんも好きな人がいるの?」
「…一応ね」

待っていてくれているのだろうな、とふと思った。

イタチは私の気持ちに気づいている。
ずっとイタチは私が私を認められるようになるのを待ってくれているのだ、傍で。
なんて出来た男だろう。
とても嫌なことに、それがまた私を卑下する原因になっている。
いつになったらこのループから抜け出せるのだろう。

「へえ!誰なの?」
「それは秘密」
「えー、いつかは教えてよ!」

いつか、私が胸を張ってイタチの傍にいられるようになったら。
そうなったらサクラにも教えてあげられるのだろうか。
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