13.濃霧に住む鬼
タズナはこの任務を頼むに当たっての事情を話した。
波の国ではガトーという海運会社の大富豪が国の海上交通、運搬を牛耳り、独占してしまったらしい。
イタチに聞いたとおり、その大富豪は性質が悪く、財力と暴力で住民を制圧しているそうだ。
その中で、ガトーが唯一恐れていることが、作っている橋の完成。
橋が完成すれば、海上運搬に頼らずとも、資源食料の運搬ができる。
その橋を作らせないためにも、橋を作ろうとしているタヅナなどを攻撃しようとしているらしい、ということだった。

任務を適当に誤魔化して依頼した理由は、お金がないから。
それは理由にはならないし、今回それを許してしまえばそういった客が増えるからやめて欲しいのだが、カカシはこれを引き受けた。


マングローブは私たちを守るように空を覆っていた。
中は街道のように綺麗に整備されていて、見た目も良い。
観光にはもってこいかもしれないと、のんきに辺りを見回した。
私は水や木の緑が好きだから、こういう場所はかなり好感を持てる。

「名無しちゃん、こういうところ好きなの?」
「…うん、好き。風とか水とか、木の匂いとか」
「へー、変わってるってばよ」

確かに、10代前半の子どもに言わせてみれば、変わっているだろう。
私はこの静かな水のせせらぎや木漏れ日、風の音が好き。
こういう音を聞いていられるのは、平和な証拠だからだ。
きっと、彼らがそれに気づくのはまだ先といったところ。

マングローブをぬけて地上に降り立つと、まだ足元がふわふわしているような感覚に陥る。
そういえば、舟に乗るのは初めてだったかもしれない。
よく酔わなかったな、と自分を褒め称えて虚しくなってやめた。

「そこかぁ!!」
「!?」

どうやらナルトはいやに張り切っているらしい。
先ほどのようなことが起こらないように、サスケよりも頑張れるようにと気合を入れているようだ。
しかし、その気合は10割方空振りだが。
当たってくれるよりも空振りのほうがよっぽどいい。

このまま何もなければそれが一番だが…と思った端からいやな気配を感じた。

「!」
「そこかぁ!!」

カカシと私が警戒したその先を、ナルトが手裏剣で攻撃した。
その先からは白いユキウサギ。

いい加減見かねたサクラとサスケがナルトを叱っていたが、カカシは黙ったままだった。
それもそのはず、今の時期のユキウサギは換毛期を迎える前の姿のはず。
つまりは、茶色であるのが普通。
この時期白のユキウサギは野生ではいない。
つまり、これは変わり身用に育成されたウサギだ。
敵は近くにいる。

「…全員伏せろ!!」

何かが動く気配がしたと同時にカカシが叫んだ。
3人は従順にその言葉に従い、私とサスケがタズナを押し倒すように伏せさせた。
サスケは私を見て、少し驚いたような顔をしたが、その上を通った大きな刃物をみてすぐにそちらに眼を向けた。

刃物は太い気に刺さり、その上に男が乗った。
私はその男に見覚えがあった、ビンゴブックに確か載っていたはず。

「へー、霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか」

そうだ、桃地再不斬。
霧隠れの里の忍刀七人衆の1人、手ごわい相手が出てきたものだ。
上忍並か、それ以上の実力者。

ナルトが駆け出すのをカカシが制し、止める。
当たり前だ、この状況で下忍は足手纏い。

私は下忍の振りをして、3人と依頼者をある程度は保護する。
しかし、優先順位は依頼者よりもナルト、サスケのほうが高い。
私にとっての任務はそちらなので優先順位は、他の3人とは違う。

「下がってろ、お前ら。こいつはさっきの奴らとはケタが違う。…このままじゃあ、ちとキツイか」

言われなくてもすでに下がっている。
カカシは額当てに手をかけていた…それを使うとサスケへの説明が面倒になるのと思うのだが、まあそんなことはいっていられない。
このメンバーで桃地再不斬に挑むのは明らかに不利。
逃げるのが一番なのでは?と思うが、ここはカカシに従うほかない。

「写輪眼のカカシと見受ける。悪いが、じじいを渡してもらおう」
「卍の陣だ。タズナさんを守れ。お前たちは戦いに加わるな。それが此処でのチームワークだ。…再不斬、まずは俺と戦え」

再不斬から言わせて貰えば、カカシと戦う必要性はないだろう。
カカシの隙を突き、子どもを蹴散らしてタズナを倒すのが一番手っ取り早い。
だが、再不斬は恐らく戦闘マニアなのだろう。
その気はあまりないらしい。

時々そう言う敵がいる、任務よりも己の戦いを優先させる輩が。
私には理解しがたい。

「ほー、噂に聞く写輪眼を早速見れるとは…光栄だね」
「さっきからシャリンガンシャリンガンって…何だ、それ?」

再不斬は写輪眼に興味を持っているようだ。
それもそうだろう、写輪眼の開眼者はそう多くない。

写輪眼について知らないナルトにサスケが説明をする。
カカシの写輪眼に興味を示したのは再不斬だけじゃないようで、サスケもまたカカシを睨むように見ていた。

「とりあえず、俺はそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねぇ。つっても、カカシ!お前を倒さなきゃならなねえようだな!」

説明を丁寧に待っていてくれていた再不斬に対し、若干の苦笑を溢しそうになる。
根っからの戦闘マニアのようだ、不意打ちはよろしくないと判断したのだろう。

再不斬は水の上に立ち、チャクラを練りこんだ。
この技は見たことがある。

「忍法、霧隠れの術」

霧隠れの里ではポピュラーな忍術だ。
チャクラで水を気化させ、霧を発生させる術。
そして、その中にチャクラを消して紛れる…かなり巧妙だ。

「消えた!?」
「まずは俺を消しに来るだろうが…桃地再不斬。こいつは霧隠れの暗部で、無音殺人術の達人として知られた男だ。気がついたらあの世だったなんてことになりかねない。俺も写輪眼を全て上手く使いこなせるわけじゃない……お前達も気を抜くな!」

霧で視界の悪い中、音を消して敵に近づき倒す。
繊細で素早い動きであるため、避けるのは難しい。

私を含め4人でタズナを背にして囲み、辺りを警戒する。
霧は徐々に濃くなり、あっという間に1メートル先が見えなくなるほどまでに達した。

「8ヵ所」
「え?なっ…何なの!?」
「喉頭・脊柱・肺・肝臓、頸静脈に鎖骨下動脈。腎臓・心臓…さて、どの急所が良い?クク…」

悪趣味である、子どもを苛めるような発言をしてくるとは。
そんなことを言っているくらいなら、さっさとこちらに挑んでくればいいものを。
まあ、話している間に隙が生まれるということがあるから、否定することはできないが。

また、発言とともに発された殺気に当てられて、3人は怯えていた。
特に、経験の豊富なサスケは殺気に敏感だったようで、2人よりもより震えていた。
かわいそうだが、私は怯える振りをするので手一杯だ。

「安心しろ、お前達は俺が死んでも守ってやる。俺の仲間は絶対、殺させやしなーいよ!」

カカシのその言葉に、サスケは少し安心したらしい。
クナイを持ち直し、普段の雰囲気を持ち直した。

「それはどうかな…終わりだ」

ほっとしたのもつかの間、私達の背中のほうから声がした。
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