イタチは結局泊まっていった。
まあ任務で少なくとも2日3日は帰らないので、少しくらいはいいだろうと泊めた。
性干渉はなく、ただいっしょのベッドで眠るだけだったけれど、それが一番幸せだと思う。
相変わらず、イタチに朝起こしてもらい、朝食を食べて家を出ようとした。
「名無しさん、気をつけてくださいね」
「ああ…うん」
「サスケとカカシさんに」
「そっち…?いってきます」
呆れたようにイタチを見ると、案外本気な眼をしていたため逃げるように家を出た。
あそこでまごついていたらきっとイタチに何か言われただろう…油断してると、とか…。
イタチは面倒見がいいが、過保護なところがあるのがネックだ。
里の入里管理室の近くに来ると、すでに生徒3人が揃っていた。
カカシも遅れたがいつもよりは早かった。
依頼人と一緒だから当たり前といえばそうなのだが。
里から出ると、5人はてくてくと歩いて進んだ。
まあ依頼人が一般人であるので、走るわけにも行かない。
その間、火影様の話で盛り上がったりしていたが、私は特に興味もないので適当に相槌を打つだけだった。
そして、道中不自然な水溜りがあった。
私は特に気にすることなくそれを通りすぎた。
さすがにあれだけ不自然な水溜りならば、カカシも気づくだろう。
水溜りを通りすぎて、少々。
予想通り、敵が現れた。
なぜか知らないが、カカシが最初にやられていた。
と言うよりも、やられた振りをしていた。
勘弁してくれ、と思いつつタヅナの近くに寄って護衛をする。
私と同じ対応をしたのはサクラ、ナルトは動けず、サスケは果敢にも挑みにかかった。
動けなくなっているナルトに敵が襲い掛かってきたので、とっさに彼を引き寄せて避けさせる。
その間にサスケがもう片方の忍に対し、クナイを投げつけ動けなくし、鎖で繋がっていた片方を手繰り寄せる。
クナイの投げ方、方向、ともに下忍以上の力はある。
機敏さも冷静な判断もできるという点において、この班の中で最も力があるといっても過言ではない。
これはサスケの護衛は楽に済みそうだ…これはイタチに感謝すべきなのだろう。
「はい、お前ら大丈夫?」
「カカシせんせぇ〜!」
「ナルト、すぐに助けてやらなくて悪かったな。怪我さしちまった。…お前がここまで動けないとは思ってなかったからな」
厳しいお言葉である、少なくとも私はこんなこと言ったことはない。
言う機会もないくらいに優秀な生徒だったということは言うまでもないが。
ナルトは悔しそうに俯くだけだった。
ナルトは手の甲を切ってしまったようだ。
傷口の化膿の様子から、恐らく毒が塗ってあったと見て取れる。
一応、応急処置用の荷物は持っているが、それくらいカカシも持っているだろう。
私が出る幕はないと見た。
「よぉ…怪我はねーかよ、ビビリ君」
「ナルト!ケンカはあとだ。こいつらの爪には毒が塗ってある。お前は早く毒抜きする必要がある」
サスケはイタチと比べて子どもっぽい一面があるようだった。
イタチよりも可愛げがある子だといえばそうだし、生意気といえばそれまでではある。
ナルトは挑発されて、サスケとけんかしそうな勢いだったが、カカシがうまくそれを止めた。
私の隣のサクラはこのような状況になれているらしく、何も言わない。
私も基本的には無言だ。
さて、それにしてもこの任務。
最初の任務とは違うものになってきている。
忍者がからんでくる任務となればCランクでの対応にはならない。
依頼人が偽って任務の要請をしたということがこの一件で露見した。
この任務にランクを付け直すとしたら、少なくともB、相手によってはAである。
「…タズナさん」
「な…何じゃ…!」
「ちょっとお話があります」
カカシも無論そこにつっこみをいれた。
「こいつら霧隠れの中忍ってとこか。こいつらはいかなる犠牲を払っても戦い続けることで知られる忍だ」
「何故我々の動きを見切れた」
「数日雨なんて降ってないのに水溜りなんてあるわけない」
初歩的なミスだ、中忍であるとすればかなり初歩的なミス。
攻撃性に関しては中忍並なのかもしれないが、計画性においてはまだまだといったところ。
まあ他国の忍にそんなことを言う権利はこちらにはない。
「……アンタ、それ知ってて何でガキにやらせた?」
「私がその気になればこいつらくらい瞬殺できます…が、私には知る必要があったのですよ。この的のターゲットが誰であるのかを」
狙われているのが誰であるか、この班の中には狙われそうな人がたくさんいる。
依頼人だけではなく、ナルト、サスケ、カカシ…どいつもこいつも狙われてもおかしくない。
サクラが可哀想だと思えるメンツである。
私は多分狙われてはいないだろう、私を殺したところで何があるわけでもない。
「我々は、貴方が忍者に狙われているなんて聞いていない。依頼内容はギャングや盗賊など、ただの武装集団からの護衛だったはず。これだと、Bランク以上の任務だ。依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはず。敵が忍者であるならば、迷わず高額なBランク任務に設定されていたはず。何か訳ありみたいですが、依頼で嘘を付かれると困ります。これだと、我々の任務外ってことになりますね」
カカシの言うことは至極真っ当なことである。
ランクを無視して依頼されると、ランク付けの意味はなくなる。
それに、私の任務のハードルが上がる。
ナルトとサスケはまだ下忍、ランクは精々C程度のものしか取り扱わない。
そう思って護衛しているこちらの身にもなってほしいものだ。
「この任務、まだ私たちには早いわ…やめましょ!ナルトの傷口を開いて毒血を抜くにも麻酔がいるし…里に返って医者に見せないと」
「んー、こりゃ、荷が重いな!ナルトの治療ついでに里へ戻るか」
サクラの言葉は、これ以上危険なことに関わりたくない。
カカシの言葉は、ナルトへの挑発。
カカシの言葉に頭を抱えたくなるのを我慢して、様子を見守った。
ナルトは自分のせいで、と思ったのか、それとも挑発されて怒ったのか。
あろうことか、自らで手の甲にクナイを突き立て、毒抜きついでに誓いを立てた。
勘弁していただきたい、大量出血で死んだら元も子もない。
カカシが大量出血になる前に、と包帯でナルトの手を処置した。
そのとき、カカシがふと真顔になっていたのを、ナルトは見逃さなかった。
ナルトは不安げにカカシを見たが、カカシはいつもの適当な笑みを浮かべて大丈夫、と言っていた。
恐らく、あの傷口はすぐに治るだろう、九尾の力で。