10.家族だんらん
眼を覚ますと、辺りは真っ暗だった。
ぽっかりと浮かぶのは、夢と同じような満月。
起き上がってあたりを見渡すと、いつも通りの部屋が広がっていた。

ため息をついて、もう一度ベッドに飛び込んだ。
いつもよりも、スプリングの軋みが少なかった。

「嫌な夢見た」

昔の夢だ。
当時10歳だったイタチを助け、その半年後にアスマに助けられた。
飢え死に寸前だった私はすぐに病院に入れられ、その後猿飛家の養子として迎えられた。
里に入ったからには、少しでも役に立ちたくて結局暗部の仕事をするようになり、その暗部の仕事を良くないと思った火影様に下忍の育成の仕事を言い渡され、担当の下忍が偶然にもあの時助けたイタチだったりした。
全く世界は狭いし、何でもありだ。


色々あったが、結果それなりに幸せだからいいけれど。
やはりこの姿だと昔を思い出す。
私が13のときというのは丁度戦争真っ只中だったころ。
あまり思い出したくはない。

そして、こういう時に限ってイタチはいない。
まあ、私が家に帰れといったのだから、当たり前だ。

「へえ、何の夢だ?」
「…イタチが来ないと思ったら、今晩はアスマ?勘弁してよ…」
「何だ、イタチ毎晩来てるのか?それさすがにやばくね?」
「やばいわよ」

どいつもこいつも、私の知り合いは皆窓からの侵入がお好みらしい。
窓を開けっ放しにする癖をどうにかするべきなのだろうが、なかなか治らないのだ。
ころりとベッドの上で寝返りを打って、アスマのほうに向き直った。

「そんなことはまあ、いいの。何で来たの?」
「んー?カカシにお前の話聞いたからさ」
「なんていってた?」

今日のは少しやりすぎたかなと後悔しているのだ。
他の3人が取れていないのに私だけ鈴をとってしまったのは不自然といえば不自然。
相手は上忍、違和感をもたれてもおかしくはない。

アスマは勝手に冷蔵庫を漁っていた。

「優秀な奴が来たって言ってたよ」
「それだけ?」
「おう。でもまあ、カカシは秘密主義だから侮れないけどな」
「ふうん」

冷蔵庫からお浸しや漬物、肉じゃがを勝手に取り出してテーブルに並べ始めた。
そして、冷やしてあったビールを勝手に開ける。
ビールはこの任務が始まる前に買ったもので、この姿では飲めないため置きっ放しにしているものだからいい。

しかし、夕食は別。
イタチが作ってくれたものを勝手に食べられるのは気分が悪い。

「ちょっと、勝手に食べないで」
「何で。お前が作ったんじゃねーの?」
「イタチ」

既にビールを煽っているアスマの顔が、うわあ、お前…と言わんばかりだ。
私もこの食事などの家事をイタチに任せきりという現状はまずいと思っている。
20代も半ばに差し掛かっている女が未成年の男に生活を支えてもらっているという現状。
全く持っての体たらくだ。

「お前な…そこまでしてもらってんならもう結婚しちまえよ」
「それとこれは話が別じゃない…」

むしろ、イタチが家事をしているのだから、結婚したらどうなるのだろう。
私が家事をするのか…できないこともないが想像もつかない。
それに、まだ付き合ってもいないのだから話がぶっ飛びすぎだ。

アスマが食べたそうに肉じゃがを見ているので、仕方なく私もテーブルに着いた。
大の大人が2人で肉じゃがを突っついているのは絵的にどうなのだろうと思ったが、考えてみれば私は今13歳の姿だから、そんなに問題はない。

「んで、嫌な夢ってなんだったんだ?」
「何、その話掘り起こすの?」
「話すことねーだろ」
「話さなきゃいいじゃない」

黙々と肉じゃがを食べていたのだが、飽きたのかアスマが二本目のビールを開けるついでに声をかけてきた。
話すことがないなら、無理に話そうとしなくてもいいと思うが、彼の中ではそうはいかないらしい。

アスマは何か話題をという論点から離れるつもりはないのか、しつこく聞いてくるので先ほどの夢の話をした。

「ああ、そんなこともあったな。確か15歳くらいだっけか、拾った時は」
「推定だけど、そのくらいね」

私は確実に、何歳ということができない。
生まれた年も、日も分からないからだ。
私の記憶と見た目を頼りに年齢をつけたに過ぎず、今ある誕生日も木の葉に来て養子縁組をしてもらった日になっている。

特にアスマと会ったときはガリガリに痩せ細っていて、成長という成長ができておらず年齢などわからなかった。
今も一応13歳くらいに見える状態を維持しているだけである。

「あれから十年ちょっとか…早いもんだな」
「アスマ、おっさんみたいね」
「もう充分おっさんの仲間入りだよ」

ビールを飲み干した目の前のおっさんは苦笑してそういった。
十年と言う月日はとても重いと思う、特にここ最近の十年は。
でもその重みは嫌ではない、どちらかと言うと幸せな重み。

「ま、おっさんでもアスマはアスマだし。兄だし。関係ないでしょ」

アスマは一瞬きょとんとした顔をしていたが、その後豪快に笑い出した。
何かツボに触るようなことを言っただろうか…とにかく近所迷惑なので黙らせようと睨むと、少し声のトーンを下げた。
ようやく落ち着いたかと思うと、一言。

「いやぁ、お前可愛いな。そこで兄って言うか?」
「…そこに笑ってたの?」
「今まで兄ってなかなか認めてくれなかったのに、丸くなったよな」

別に認めなかったわけじゃない、寧ろ申し訳なくて認められなかっただけだ。
戦争中は敵同士だった相手に、遠慮なく家族だと思ってくれて構わない、といわれて遠慮しないわけがない。
迷惑をかけたり、甘えたり、面倒なことをしたら捨てられると本気で思っていたのだ。
それが今までの当たり前だったから。

しかし、そんなことはなかった。
失敗しても、甘えても、何かお願いしても、彼らは快くそれを認めてくれた。
その点に関して、いやそれ以外も全部、本当に感謝している。

「…まあね。私もおばちゃんに近づいたのよ」

言葉にはなかなか出せない辺り、まだまだ子どもなのかもしれないけれど。
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