スウィーツ・カフェ
待ち合わせ場所の噴水は、本当に小さなものだった。
広場と言うには狭く、道というには広いちょっとしたスペースに、ちょこんとある。
噴水と言うには憚られるような小さなものだった。

「…これ、見つけたとしても噴水だと思わないと思うけど」
「うん、だから最初から一緒に来るつもりだったんだけどさ。ちょっと時間かかっちゃった」

そもそもレギュラスは待ち合わせをするつもりなど毛頭無かったようだ。
私は呆れたようにレギュラスみたが、彼は笑って済ませるだけだった。

「でも、これで覚えたよね?今度からここで待ち合わせにしよう。ここ、殆ど人が来ないから」

次からはちゃんと待ち合わせをするつもりらしい。
というか次があるということに驚いた、デートする気満々のようだ。

その噴水広場を抜けて、5分ほど歩くと小さな通りに出た。
そこは観光用というよりかは、ホグズミートの街に住んでいる人たちのためのお店といった様子で、どこも静かで落ち着いた印象だった。
時々主婦達が立ち話をしている姿が見える。

通りにはパン屋やケーキ屋、八百屋、肉屋などさまざまな店が並んでいる。
本屋の隣に、文房具屋があった。
ちんまりとしたサイズの店で、入り口は狭いが奥に細長いタイプの店のようだった。

「どうする?後にする?」
「うーん…あとでいいや。先に温まってからがいい」

文房具店を眺めていると、レギュラスがそう問いかけた。

私は少し考えて文房具店から視線を外す。
長い間外を歩いていたため、身体は冷え切っていた。
レギュラスもそれには気づいていたのだろう、素直に頷いて、先を歩き出した。

「ここ?」
「うん、そう。入ろう」

レギュラスが立ち止まったので、私は自然に目の前の建物を見た。
そこは落ち着いたカフェだった。
店の扉の隣に緑の屋根の付いたテラスがあり、扉の横には小さな黒板がある。
黒板には今日のオススメのケーキのことが書かれていた。

店内に入ると、レジの前にいたお姉さんがいらっしゃいませ、と声をかけてくれた。
席は好きに座っていいらしい、レギュラスは何の迷いも無く、窓際の席に座った。
窓際だから寒いのではないかと思ったが、ちょうど暖房器具が近くにあって、寧ろ温かかった。

店内はカントリー風の装飾がなされていて、観葉植物がぶら下がっていたり、戸棚には可愛らしい人形や古めかしい時計が置かれている。
静かな音楽が流れていてあまり喋ってはいけないような雰囲気があるようにも思えるが、店員同士の小さなお喋りの声で少しそれが緩和されて、丁度いい。

「どれにする?」
「ん…あったかいミルクティーとチーズケーキかな」
「他にケーキ、どれ食べたい?」
「うん?あー、今日のオススメ」

レギュラスがメニューを手渡してそう聞く。
メニューはそう多くないが、すべてにちゃんと写真がついていてわかりやすかった。
来る前にレギュラスが、チーズケーキが美味しいといっていたので私はそれにした。

ケーキは1つで充分だと思っていたから、レギュラスに他は?と聞かれて驚いた。
少し考えて、半分ずつ食べようという意図であると解釈して、適当に答えておいた。
今日のオススメケーキ、何であるのか書いていなかったので何か来るのか楽しみだ。

レギュラスがケーキと飲み物、それからホットサンドをぱぱっと注文をしてくれて、私は待つばかり。
何と言うか手際がよすぎて気持ち悪いほどだ。

「どうかした?」
「いや、手馴れてるなと思って…」
「ああ…まあね。…ところで名無し、OWLの勉強どう?」

レギュラスは話を逸らした、まあ聞かないほうがいいこともあるだろう。

私は今年5年生で、そろそろOWL試験を控えている。
とはいえ魔法界に就職するつもりは無いので、そこまで頑張る必要性はないが成績はよくありたいと私は思う。
一応は勉強しているが、この勉強がどこまで通用するかはいまいち分からない。

「一応してるけどね。これがどこまで通用するやら」
「過去問とかやってる?それで大体、どのくらいのレベルか分かると思うけど」

自分の考えをストレートにそういえば、レギュラスは適切な回答をくれた。
過去問はやっていなかった、というよりもそんなものがあるとも知らなかった。
まあ日本における受験に近い試験だから、赤本のようなものもあるのだろう。
今度探して解いてみようとそう心に決める。

そんな話をしているうちに、店員が注文していたものを持ってきてくれた。
ホットサンドとケーキが一緒に運ばれてきて、ちょっぴり苦笑した。

「名無し…ケーキから食べるの?」
「私、好きなものは先に食べるタイプなの」

運ばれてきたベイクドチーズケーキにフォークを入れたところで、レギュラスが呆れたようにそういった。
彼はホットサンドを手にしている、その隣に置かれているフルーツケーキは寂しげに輝いていた。
今日のオススメケーキはフルーツケーキだったようだ。

とりあえず私はレギュラスの言葉に一言答えて、フォークに乗せたケーキを口に運んだ。
芳醇な濃いチーズの香りが口の中いっぱいにふわっと広がる。
甘すぎず、しかし食べやすい濃厚さに眼を細める。

「美味しい」
「ならよかった。こっちのも食べていいよ」

そんなに物欲しそうに見ていたのだろうか、レギュラスは苦笑しながらホットサンドの隣にあったフルーツケーキをこちらに差し出した。
レギュラスは甘いものが好きでも嫌いでもない、どちらかといえば嫌いらしいと風のうわさに聞いた。
私はちらりとレギュラスを見、フルーツケーキを見て迷ったが、結局フルーツケーキにフォークを刺した。
レギュラスは穏やかな笑みを浮かべたままだったし、きらきらとしたカットフルーツたちは食べて、と言わん限りだったし。

こちらも心地よい甘酸っぱさとふわふわのスポンジとが丁度よく、美味しい。
店の雰囲気もいいし、客は少ないし、これは癖になりそうだ。

「美味しい?」
「うん」
「気に入った?」
「うん」
「また一緒に来るよね?」
「うん…うん?」

温かい季節になったらテラスにでるのも良さそう。
ホグワーツの生徒が来るような気配はないし、外で勉強してたって誰も見ちゃいないだろう。
店員も優しそうだし、数少ない客の中には本を読んでいる人もあればお喋りを楽しむ人もいる。
多分、勉強をしていても咎められないだろう、ここなら集中できそうだ。

最近、図書室に行ってもレギュラスが隣からちょっかいを出してくる…具体的に突然足を触ったり、隙を見て頬にキスをしてきたり…発情期なのだろうか。
そのせいで、こちらまで変に意識をしてしまって勉強にならない。

それに、紅茶もケーキも美味しい、甘すぎずさっぱりしすぎず。
勉強の後の甘いものほど身体にしみるものは無い。
うん、とにかく気に入った、さすがレギュラス、私の好みを熟知している。
また一緒に、…一緒に?

「一緒に?」
「当たり前でしょ。僕が教えてあげたんだし、ホグズミートに行くときは一緒にね」

レギュラスはにっこりと笑う、この子は私に勉強させるつもりがあるのだろうか。
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