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小説 | ナノ

1週間だ。もう一週間、わたしは大久保さんの顔を見ていない。

あの神社での出来事のあと。わたしと大久保さんは一応恋仲と呼ばれるような間柄になって。

彼の隣にいてもいいんだと、彼もそれを望んでくれているのだと。

そう思えるようになったのに。


(どうしてこんなにさみしい思いをしなくちゃいけないんだろう…)


恋仲になる前から、大久保さんに何日も会えないなんてことは日常茶飯事だった。そのときも、彼に会えなくてさみしいなと思ってはいたけれど。気持ちが通じ合っていると気づいてからのほうが、もっとずっとさみしくなった。

(どうしてなのかな…)

大久保さんは大人で、対するわたしはまだまだ子供で。恋人になってからもあまり態度の変わらない彼を見ていると、わたしばっかり好きなんじゃないか、なんて思ってしまう。



そんなことを考えながらとぼとぼと廊下を歩いていると、急に後ろから声をかけられる。

「そんなふうに下を向きながら歩いているから、お前はしょっちゅう転ぶのだ、この馬鹿者め」

「大久保さん!!」

わたしは久々に会えた彼の姿に心おどらせながら、足早に大久保さんのもとに駆け寄った。

「いつ帰ってきたんですか!」

「つい先ほどだ。必要なものを取りにきただけだからな、またすぐ戻る」

その言葉に、わたしは胸の中でふくらんでいた期待が、急激にしぼんでいくのを感じた。

「まったく、お前はいつまでたっても落ち着きがないな。少しはしおらしく振る舞えないのか?」

いつも通りのそっけない態度。冴え渡る毒舌。
まったくもっていつも通りである。

久しぶりに会えたのに、大久保さんはうれしくないのだろうか。


わたしは会いたくてしかたなかったのに。
あなたがいなくてとても寂しかったのに。
せっかく会えたんだから、優しい言葉の一つでもかけてくれたっていいのにと思うわたしは、わがままな女なのだろうか。

でも、大久保さんは、日本を変えるために必死に頑張っているのだ。
それこそ寝る間も惜しんで奔走している姿をそばでずっと見てきたから。
そんな人を、わたしのわがままなんかで困らせていいはずはない。

わたしはもやもやする気持ちを、むりやり心の奥底に押し込めた。


「わかりました!わたしはしっかりここでお留守番してますから、大久保さんも頑張ってくださいね!」

いってらっしゃい、大久保さん。

わたしは精一杯の笑顔を浮かべて、大久保さんにそう言った。
うまく笑えていればいいけれど。



そんなわたしの顔を見て、大久保さんは、あきれたように大きな溜息をついた。

「えっ、なんでそこで溜息をつくんですか!」

わたし何か変なこと言ったっけ?

あたふたと取り乱していると、急に腕を引かれて、わたしの身体は大久保さんの胸にぐいっと引き寄せられた。


「凛」



彼が耳元でわたしの名前を呼ぶ。

たったそれだけのことで、さみしかった気持ちも、もやもやしていた気持ちも、すべてが融けてゆくのを感じた。

恋愛は好きになった方が負けだというけれど、彼の一言でこんなにも幸せになれるわたしは、大久保さんに勝てることなんて絶対にないのだろう。

でも、それは単なる思い込みに過ぎなかったのだと、次の瞬間に思い知らされた。





「会えなくて寂しい思いをしているのは、なにもお前だけではないのだぞ」

そんな顔をされたら、我慢ができなくなってしまうではないか。

そう言って、額にそっとキスを落とされる。



「できるだけ早く戻る。帰ったら、覚悟しておけ」




恋ひ恋ひて
会へる時だにうるはしき
言尽くしてよ長くと思はば

(恋焦がれてやっと会えた時だけでも、優しいことばをありったけ聞かせてほしいの。二人の仲を長く続けようと思っていてくれるのなら)

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