ドラマティックな
ワルツ





※「ロマンティックにワルツ」続編です。



「アン、ドゥ…トロワ、ここでもう幽は回ってねーといけねえんだよ」
「そっか、」

幽の着ているような豪華なドレスではなく、静雄は茶色のベストにブラウス、ズボンをブーツインという格好だった。胸元で結んだ大き目のリボンが愛らしさを演出しているが、それ以外は男性のような服装だ。とても良い家のお嬢さんには見えない。

「どうしても追いつかない…姉さん、もっとゆっくりやって」
「これでもゆっくりなんだぜ?おまえ一度できると早いんだけどなあ、」

静雄は男役として幽のダンスの練習相手をしていた。静雄のダンスの腕前はなかなかのもので、レッスンとして教えることも上手かった。先ほどよりもゆっくりとテンポを刻んで、二人はくるくるとダンスを踊る。

「、」
「そうだ、幽。上手だぞ。もう一度…アン、ドゥ、」
「トロワ…」

静雄が嬉しそうにふわりと笑うと、幽も嬉しくなる。静雄と踊るワルツは他のどんな人間よりも自然で、幽が踊りやすいように導いてくれる。そして静雄のダンスが幽はとても好きだった。金髪が揺れ、指の先まで丁寧に、まるで蝶のように。暫くそのまま踊っていると、コンコンとホールのドアがノックされ、執事が入ってくる。

「失礼いたします、お嬢様方」
「…何?」
「幽お嬢様、既に17時を過ぎております。ピアノの先生がお待ちです」
「……わかった。ありがとう」

幽は仕方なさそうに足を止める。静雄は苦笑して、幽のさらりとした黒髪を撫でた。じっと見つめてくる目はとても愛らしく、静雄は妹の幽にはとことん甘かった。だからこうして自分の時間を削ってまで、自ら幽のダンスレッスンに付き合っているのだ。

「ごめん、姉さん」
「いや、私も時間気にしてなかったから。じい、悪かったな、わざわざ呼びに来さして」
「何をおっしゃいます、静雄お嬢様。私はそのためにおります。さあ幽お嬢様、向かいましょう」

幽は執事と共にホールを出ていった。静雄はふうと息をついて、さて暇になってしまった…と腕を組んだ。17時だとまだ外も明るいし、庭でも見に行くか、と静雄もホールを出た。静雄は屋敷の庭が好きだった。今の庭師は歳のいった女性で、昔に花屋の仕事をしていたらしく、庭は花の咲き乱れる花園のようだった。

「あら…まあ、静雄お嬢様」
「よう、ご苦労様」

庭にはやはりその女性がおり、丁度花壇の雑草取りをしているところだった。庭師の土だらけの指を、汚いと思ったことは生まれて一度もない。前の庭師も前の前の庭師も、こうして手や指を土だらけにして素晴らしい庭を作り上げてくれた。

「私もやろうかな、雑草抜くの」
「、そんな、静雄お嬢様。いけませんよ、お綺麗な指に土が…お召し物が、」
「洗えば取れるだろ?それにドレスじゃねえから汚れても平気だ。そのために来てる」
「で、では手袋とエプロンを、」
「いらねーいらねー」

静雄は笑うと、庭師の向かい側にしゃがんで小さな雑草を抜き始めた。庭師の女性ははらはらしていたようだが、やがて諦めたようにため息をついた。その顔は暖かみのあるものだったが。

「静雄お嬢様は、本当に…私もいくつかお屋敷を回り庭師を務めさせてもらっておりますが、お嬢様みたいな方は一人もいらっしゃらなかった」
「だろうな」
「皆、遠くから庭を眺めているだけなのです。それでも充分幸せでしたが、…お嬢様は自ら花に触れてくださる」

庭師は幸せそうに笑った。静雄もその笑顔を見て嬉しくなった。静雄は昔から花や鳥や自然が好きだった。屋敷の奥にある森に入り込んで、夜まで帰らずに父親にものすごく怒られたことも何度かあった。

「だから、静雄お嬢様は本当に花のように美しい」
「…褒めても何もでないぞ」
「いいえ、本当のことを言っているだけですよ。静雄お嬢様のいらっしゃる、このお屋敷に仕えさせていただけることを、毎日幸せに思っています。…静雄お嬢様、花を少しお部屋に飾られませんか」
「え、…いいのか」
「ええ、ええ。花たちもきっと喜びます。花たちは静雄お嬢様が好きなんですよ。お嬢様がね、こうして庭に来てくださる日は、それはそれは嬉しそうに咲くんですから」

庭師は咲いている花を何本かハサミで切り、色々な種類を組み合わせ、小さなブーケにしてくれる。それを静雄に差し出す。ピンクを基調とした愛らしいものだった。

「ありがとう、…早速部屋に戻って活けてくる」
「そうしてあげてください。静雄お嬢様、手伝ってくださってありがとうございました」
「はは、雑草を少し抜いただけだけどな」

もう一度ありがとうと礼を言い、静雄は屋敷の中へと戻った。手に抱えた花を眺めていると、ばたばたと荒っぽい足音がした。何事かと顔を上げると、自分の父親が物凄い勢いでこちらに走ってくるのが見えた。




長くなってしまったので2つに分けています。

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