ハッピーな朝のお話





カーテンがふわりと揺れ、朝の暖かな日差しが臨也の身体を包む。臨也はほんの少しだけ目を開けて、すぐにまた閉じた。ぱたぱたと部屋の外から足音が聞こえたからである。臨也の予想通り、すぐに部屋のドアが開いた。

「いーざやくーん、朝ですよー」

聞こえてくる声はいつもの彼女の声。臨也は眠ったフリを続けた。ベッドに近寄ってくる気配がする。この瞬間が臨也は好きだった。

「起きろよー」
「……」
「…デコピンすっぞ」
「……」
「……本当にしてもいい?」

彼女の手がつき、ぎし、とベッドが鳴る。臨也はそうっと目を開けた。すぐそこにあった彼女の顔に安心するように微笑む。布団から手を出し、彼女に向かって伸ばす。

「…デコピンより、キスしよう」
「毎朝毎朝…起きてんなら一人で起きてこいよ」
「いやだね…。…今日も愛してるよ、シズちゃん」

そう言いながらも静雄の顔は離れることはなかった。臨也は静雄の頬を両手で包むと、優しく桃色の唇へキスをした。静雄の手が自分の額から髪の毛をそっと撫でてくれるのが気持ちよくて、再び目を閉じてしまいそうになった。

「、おい臨也。寝るなよ」
「シズちゃんも一緒に、もっかい寝ようか?」
「、え、ちょっ」

ぐいと細い腕を引っ張ると、静雄はバランスを崩してベッドへ倒れこんだ。静雄がしているクリーム色のエプロンは、臨也がプレゼントしたものだ。臨也は一度起き上がり、静雄の上へ覆いかぶさる。そのまま静雄の身体を抱きしめた。エプロンから何やら美味しそうな匂いがした。

「…おなか減ったな」
「だったら起きろよ!臨也、重いし、」
「いいじゃん、まだ時間余裕あるでしょ?」
「ご飯作ったのに…」
「シズちゃんのおっぱい、ふにふにで気持ちいい…」

むにゅ、と臨也は静雄の胸へ顔をすり寄せた。静雄はかっと赤くなって、臨也の身体を蹴り飛ばそうとする。静雄も起きて適当に服を着てエプロンをしただけなので、まだブラをつけていなかった。

「おい、臨也!聞けよ人の話をっ!」
「いた、ちょ、蹴らないでよ!蹴ることないじゃん!」
「やだなんでおまえちょっと下大きくしてんだよ変態!」
「いやこれは仕方な…ていうかシズちゃん今日口悪いよ、冷たいしさ〜…よし、塞いじゃえ!」
「ん、んっ…!?」

突然唇に吸いつかれ、静雄は驚いて息ができなくなる。なんとか鼻で吸い込んだがそれでも苦しい。だが臨也は離す気はないらしく、深く深くと舌を進めてくる。静雄もなんだかだんだんと頭がぼおっとしてきて、もうこのまま任せてしまっても…いやいやそれは…ともやもやした意識で考え始める。しかしダイニングに残してきた朝食のことを思う。せっかく作ったのだから、冷めないうちに食べてほしい。

「い、…や、もっ…」
「…ん、…シズちゃ、」
「…んっ…、っそ…も、しつけえな!!」

静雄は一気に力をかけて臨也の肩を引き離した。はあ、と二人の乱れた息が混ざり合う。臨也は不機嫌そうな顔で静雄を見下ろした。

「シズちゃん」
「朝ご飯、用意した、まんま…だから」
「…キスしたりないんだけどなぁ、俺は」
「じゃあ食わないでおくか臨也くん?」
「それもやだけどぉ」

ぐう、と鳴る腹を押さえて臨也は言うが、まだ納得していないようだ。臨也はこうしてたまに子どもっぽい一面を見せる。口を尖らせて、それでもちらちらと静雄を見て。

「もっとさぁ、可愛くいこうよシズちゃん」
「関係あるのか?それ…朝ご飯食べるのに?」
「あるね。恋人同士のあまーい朝だよ?…それに俺、まだシズちゃんに、何も言ってもらってないなあ」
「…は?」

臨也は上半身を起こし、ベッドの淵に座った。静雄も起き上がる。臨也は寝癖のついた髪をかき上げながら言った。

「例えば『臨也、今日もかっこいい…静雄、今日も臨也が世界で一番好きっ…臨也、愛してる!』」
「…おまえの裏声って、ぞわってなるよな」
「え、それどういう意味」
「鳥肌たつ」

そりゃないよ、と臨也はぼふんと背中から再びベッドへダイブした。ベッドの上に座っていた静雄の膝の部分へ丁度頭がくる。静雄は前に手をつき、臨也の顔を覗き込むようにした。

「、ったくもう…一度しか言わねえからな」
「…ん?」
「…臨也、…今日もかっこいい。愛してる」

そのまま顔を近づけて、耳元で囁いた。顔を離すと、臨也がぽかんと静雄を見上げているのが見えて、静雄は笑ってしまいそうになる。臨也はばっと手で顔の下半分を覆った。赤くなるのを必死で抑えているのだろうが、静雄にはバレバレだ。

「自分で言ってたくせに」
「ま、まさか言うとは思わないじゃんっ…なにそれ、シズちゃん、もう!…まあ、『今日も臨也が世界で一番好き』っていうのが抜けてたけど…」
「いちいちうるせーなおまえは…。…じゃあそれは、おまえが言えば」

静雄は臨也の鼻先にちゅっとキスをした。臨也は目を細めて満足そうに微笑むと、頷いた。よ、っと言いながら起き上がり、静雄を見る。

「…今日も世界で、シズちゃんが一番好きだよ。誰よりも、愛してるよ」
「……ん。おはよう臨也」
「おはようシズちゃん。…満足したよ、シズちゃんの朝ご飯食べたいな」
「じゃあまず顔を洗ってこないと。紅茶淹れとくな」

臨也はベッドから立ち上がり、ベッドの傍に落ちていたワイシャツをはおってそのまま部屋を出て行った。静雄は乱れたシーツを直し、カーテンをばっと開ける。窓も全て開けると、寝室を出てダイニングへ向かった。






「おいしい…幸せだなあ…。シズちゃんのご飯…」
「そうか?…ありがと」

静雄はトーストにバターを塗ると、臨也の皿に置いてやる。臨也はいつも美味しそうに食べてくれるので、静雄は料理が好きになった。静雄は自分の分を早めに食べ終わると、臨也より先に席を立った。

「臨也、食べててな。私着替えてくるから」
「うん」

寝室へ向かい、クロゼットからバーテン服を出す。素早く着替えて簡単に化粧をし、ダイニングの臨也の元へ戻った。臨也は丁度食べ終わったところだった。

「あ、シズちゃん。ごちそーさま」
「おう」
「もう行くの?」
「もうじきな。臨也、皿貸して。洗う」

カチャカチャと皿を片づけ、キッチンのシンクへと持っていく。蛇口をひねろうとするその手を臨也はそっと取った。静雄がきょとんとした顔を臨也へ向ける。

「、臨也」
「いいよ、俺洗っとくし。シズちゃんより家出るの遅いからさ」
「でも…皿とコップだけだし」
「出勤の準備しといでよ」

ね、と臨也は静雄をシンクの前から退かし、自分の着ていたワイシャツの袖を捲った。じゃあ…と静雄は「ありがとう」と呟くと、キッチンを出て洗面台に行き、髪の毛のセットをすることにした。時計を気にしながらオイルのトリートメントを髪にしみ込ませる。肩ほどまでの髪をふわりと持ち上げた。それでダイニングへ戻ると、食器を洗い終わった臨也がにこりと笑う。

「かわいーね、髪」
「そ…うか?」
「うん。…そろそろ出る時間?」

臨也はテレビの隅に表示されている時間を見て言った。静雄は頷いて、携帯や財布を入れた鞄を持って玄関へ向かった。臨也も後ろから玄関まで見送りについてきた。静雄は黒いヒールの低い靴を履く。

「じゃあ、臨也…鍵頼むぞ」
「うん、大丈夫大丈夫。シズちゃんも気をつけてね」
「ん。…それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃいませ、お姫様」

静雄の手を取り、臨也はちゅっと甲に口づける。静雄は頬を赤く染めながらも頷き、ぱたん、と玄関のドアが閉まる。と同時に臨也は今度はベランダへ出る。マンションから出ていく静雄も見届けなければ。暫くして下に見えた金髪へ、「シズちゃーん!」と呼びかける。そろそろと見上げてくる静雄へ投げキッスをして手を振れば、可笑しそうな顔をして笑っていた。



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10000hitフリリク:似非様
「ベッドの上で軽くイチャついてる2人。」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

いちゃいちゃ…できているでしょうか…!
半分くらいしかベッドの上にいなくてすみませ…!!
こんなものでよろしければお持ち帰りも可ですので…!

これからもサイト共々、どうぞよろしくお願いします。


Like Lady Luck/花待りか
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201009

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