シークレットアフタースクール





※「フライデーアフタースクール」の続編になります。




「折原先生、聞いて聞いて!静雄さぁ、さっきの体育で倒れちゃったんだよね!」

6時間目の後、HRのため教室に向かおうと職員室を出て廊下を歩いていた臨也に、受け持っているクラスの女子生徒たちが話しかけた。6時間目は体育で、女子は今日はグラウンドでソフトボールだと朝に誰かが話していたような気がする。彼女たちは皆、体操服が入っていると思われるバッグを肩にかけていた。

「え…?」
「びっくりしたよお〜、急にだったからさ。体育の先生と私たちで、保健室まで運んだんだよ」
「静雄、保健室で寝てるから、HRは出れないと思う…大丈夫かなぁ」
「そう、なんだ。知らなかったな…」
「今日すっごい暑いしね。そういえばね先生、体育であーちゃんが〜」

それから教室に着くまで彼女たちが何か話していたが、臨也の頭には全くといっていいほど入ってこなかった。今すぐ保健室に全力疾走したかった。勿論教師が生徒のことを心配するのは当たり前なのだが、臨也の場合は違った。担任である臨也と生徒である静雄には、誰も知らない秘密がある。二人は先生と生徒という関係を通り越し、恋人同士であった。そのため余計に臨也は静雄のことが心配で堪らなかった。今日は真夏日で、確かにひどく暑い。熱中症だろうか、と臨也の心配は強まるばかりだ。HRを手短に済ませ、臨也は保健室へ向かった。なるべく平常心を保ち、笑顔で他の生徒たちに「さようなら、また明日」と話しかけながら。






保健室のドアをガラリと開けると、養護教諭である臨也より少し上くらいの歳の女性が顔を上げた。臨也を見て納得したような表情をし、立ち上がる。一番奥のベッドのカーテンが閉まっていた。

「あら、折原先生。HRはもう終わりました?」
「ええ…クラスの女の子たちに聞きまして、平和島さんの具合はどうかと」
「ああ、あの子たち、伝えてくれたのね。軽い日射病だと思うの。身体を冷やして、水分補給をしたら、少し顔色もよくなってね」

シャっとカーテンを開けながら彼女は言った。ベッドには目を閉じた静雄が眠っていた。ほっと臨也は胸を撫で下ろす。もっとひどかったらどうしようかと思っていた。

「折原先生、お優しいのね」
「え?」
「わざわざ生徒の様子を見に来てくださるんだもの。それも、HRの終わった直後に」
「…心配だったものですから。最近テレビで熱中症のこともよくやってますし」

臨也はにこりと微笑んだ。彼女も感心したように頷いている。少しひやりとしたが、彼女は単に生徒のことを心配する良い先生、といったような意味で言ったようだ。…こういう関係だと、他の先生や生徒の視線や言動が気になってみえてしまう。

「そんな折原先生に、お願いがあるの」
「なんでしょう?」
「私ね、今からちょっとこの地区のね、養護教諭の会議に出なくちゃいけないのよ。平和島さん、まだもう少し休ませてあげたいし。折原先生に見てていただきたいの」
「あ…はい、僕は今日はもう何もないので」
「本当?ありがとう、助かるわ!ついでに平和島さんに、水分はよくとるように言っておいてくださる?」
「はい、伝えます」

彼女は安心したように鞄へ荷物をまとめると、保健室の鍵を臨也に預け、それじゃあよろしく、と出て行った。保健室がしいんと静かになる。臨也はギシ、とベッドに腰掛け、そうっと静雄の額を撫でた。さらさらと髪の毛が額を流れる。静雄がゆっくりと目を開けた。

「ん……」
「…あ、起こした?寝てていいよ…」
「…先生…?」
「うん。大変だったね、シズちゃん。びっくりしたよ」

撫でる指が気持ち良いのか、静雄は再び目を閉じた。長い睫毛だ。静雄の頬は僅かに赤く、唇からはまだ熱い息が漏れた。臨也はふうー、と長く息をつく。平常心だ、平常心。

「……HRは、」
「終わったよ。保健の先生も会議だって。だから…大丈夫、なんだよ」

ちゅ、と臨也は静雄の瞼にキスをした。静雄は目をぱちぱちとし、赤い頬を更に赤くした。するとガチャっといきなりドアが開く音がする。二人は同時にびくりとして身体を離す。臨也はすごい速さで立ち上がり、ベッドの周りのカーテンをシャっと開けて外へ出た。ドアから顔を覗かせたのは、先ほど静雄が保健室に運ばれたと知らせてくれた女子生徒たちだった。

「失礼しま〜す…あれ?折原先生だけ?」
「うん。平和島さんの様子見にきたら、会議に行くからって後頼まれちゃってね。どうしたの?」
「静雄、どうかなって。あとさぁ、静雄の制服と鞄。静雄まだ体操服だから」

臨也はどくんどくんと鳴る心臓の音をどうにかやり過ごしながら対応した。彼女たちはまだ着替えていない静雄のために、制服と鞄を持ってきてくれたらしい。静雄のベッドに寄りながら、ベッドの傍にそれを置いた。

「静雄ー、大丈夫?」
「、うん…」
「顔赤いじゃん、熱まだあるんじゃん?」
「明日学校も無理しないでよー。なんならノートとっとくしさ〜」
「あ、ありがとう…」

彼女たちは静雄に笑いかけると、それじゃ部活あるからまたね、と手を振って保健室を出て行った。静雄も部活に入っているようだが、今日この様子じゃ出るのは無理だろう。臨也は家まで送るつもりだった。倒れた生徒を家まで送ります、この理由にやましいことなどひとつもない。

「…びっくりした…」
「本当にね。…、…」

静雄がゆっくりと起き上がる。臨也はそれを直視してしまって、また長く息を吐いた。そうだ、静雄は体操服のままだった。白い体操服は少し汗をかいたためか、ぴたりと静雄の身体にくっついており、なんと水色のブラが透けてしまっていた。静雄は自分の身体にかかっていたタオルケットを足元へ押しやる。紺色のブルマから伸びる足は、太股からつま先まで驚くほど白かった。

「……先生?」
「…いや、なんでもないから。なんでもないから…」

下を向いてしまった臨也を見て、不思議ように静雄は訊ねる。二人きりの保健室、臨也は大きな過ちを犯してしまいそうで、そう色んな意味で、恐ろしかった。静雄はまだ高校生で、自分の生徒だ。それに自分は静雄の先生で、大人である。こんなところで手を出しては、色々と危険だ。臨也は静雄にキスこそするが、それ以上は全く進めなかった。静雄の胸に触れたこともない。

「シズちゃん、俺、家まで車で送るからさ。制服着替えたら行こう。職員室から荷物、とってくるね…」
「あ、…はい。……ありがとうございます」
「うん、…」

臨也はふらふらと保健室を出て、2階の職員室へと向かう。自分の机の上を少し整理し、必要な書類を鞄に入れ、主任に「帰るついで、倒れた生徒を送っていきます」と一言伝える。主任は「おお、そうしてやってくれ」とにこやかに言う。完璧だ。他の先生方にも挨拶をし、臨也は職員室を出た。車のキーをポケットの中で弄りながら、臨也は再び保健室へ戻る。ドアを開け中に入り、適当に鞄を置く。

「シズちゃん、準備できた?」
「、ひゃっ」

シャっとカーテンを開けて、臨也は後悔した。ベッドの上の静雄は慌てて両腕で上半身を隠す。下は既にスカートだったが、上はまだ着替え終わってなかったらしい。ああ、やってしまった。物凄くストレートに見てしまった。水色のブラから胸の谷間が見えた。細い腰、鎖骨、ああもう無理だ、と臨也は静雄の右の肩をがしりと掴んだ。膝をかけたベッドがぎし、と音を立てる。

「、せんせ…」
「…………、…くそ、ごめん、…」
「…え、っと…す、すみません、着替えるの遅くて…」
「…いや、……」

臨也は必死に戦っていた。理性がなんとかギリギリ、なんとか持ちこたえた。臨也はそっと静雄をそのまま抱きしめる。このくらいは許して欲しい。静雄はきょとんとしている。

「…あんまり、俺を苛めないで…シズちゃん」
「い、いじ?…私、苛めましたか…?」
「うん…。…一応俺も男だからさ……」
「……、」

かあっと静雄の顔が一気に赤くなる。結構鈍感なんだな、と臨也はため息と共に笑った。そっと腕を解くと、静雄は俯きながらも、ぼそぼそと話しだす。

「で、も………せ、先生……」
「あーシズちゃん、ストップ!それ以上は言わないで、お願い!俺は決めてるの、自分に約束したの。シズちゃんが卒業するまでは、絶対何があっても手は出さない」
「……」
「シズちゃんに魅力がないとかじゃない、むしろありすぎるよ。でも、俺は、生徒としてのシズちゃんも大切にしたいわけだ。…俺が先生じゃなければ、シズちゃんに会えなかったんだからね。先生と生徒っていう関係に、感謝もしなくちゃならない。…わかってくれる?」

静雄は臨也を見つめ、こくりと頷いた。臨也はにこりと笑ってみせる。静雄は素早く制服の上を着、ベッドから降りた。臨也の方を向き、同じように笑った。

「先生、ありがとう」

臨也は静雄の鞄を持ち、その片方の手でそっと肩を抱き寄せた。ちゅっと触れるだけのキスをして、二人は離れた。保健室を出て、静雄の歩幅に合わせ、臨也はゆっくりと、踏みしめるように廊下を歩いた。



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10000hitフリリク:yukaco様
「『フライデーアフタースクール』の続きで、流石に高校生には手が出せない臨也が、静雄にムラムラする話」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

既にあるお話でリクいただき、とても嬉しかったです!
こんなものでよろしければ受け取ってやってくださいませ…!
これからもどうぞよろしくお願いします。


Like Lady Luck/花待りか
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201007

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