きらめく
僕らのお姫様




「久しぶり」

後ろから話しかけられ、男は振り返って目を見開いた。そこに立っていたのは、まるでファッション雑誌やテレビから飛び出したような美しい女だった。ふわりと漂う香水は華やかで、だけども優しい香り。根元まで綺麗に染まった金髪はアップスタイルで、上品な海色のドレスに白いミュール。彼女はにこりと微笑んだ。

「3年間、同じクラスだったよな」
「え、…」

男は必死に記憶を遡る。が、こんな美人はかつてうちの高校に、いやうちのクラスにいただろうか。そういえば、こうしてきらきら輝く金髪は一人…

「平和島」
「へ、?」
「憶えてないんだろ。そんな顔してた…平和島静雄、だ」

艶やかなピーチ色のグロスを塗った唇が悪戯そうに笑う。長く上を向く睫毛、その奥の瞳に引き込まれそうになる。平和島、平和島…平和島静雄。そうだ、クラスで金髪だった彼女だ。だが、高校時代の彼女は短髪で、ほとんど化粧もしてない印象で、何よりも高校中で恐れられていたはずだ。

「平和島、さん?…、ま、マジで?」
「おーマジマジ。さっき挨拶した奴もそんな感じだったな、」

そんなに変わったか?と彼女はテーブルからカクテルのグラスを取った。オレンジ色のカクテルがゆらりと揺れる。男の持っていたグラスに近づけ、カチンと音を鳴らした。すると、遠くから「静雄」と誰かが名を呼ぶ声がした。

「あ、…悪い。じゃあ、また後で」
「、……」

ふわりとドレスを揺らし、香りと共に彼女は傍をすり抜けていく。男は慌てて彼女の背中を目で追った。あれが、あの、平和島静雄。男はグラスを落とさないように手に力を入れるのに必死だった。







「…これだからなあ、君がいると」
「何だそれ」

ふっと鼻で笑うと、静雄は持ってきたカクテルをくいと飲んだ。隣に立つ新羅はブランド物のスーツに身を包み、その様子を見る。静雄は気づいていないようだが、会場の男たちからの視線はほぼ彼女が独占しているのだ。他の女性たちも静雄を一目見て、敵わないと感じているらしい。妬みで静雄にキツく冷たく当たってくる女性はいなかった。

「わかっててオシャレしてくるから…」
「別に、普通だろこのくらい」
「あーあー、ほら、ドレスにつくよ!」

テーブルから甘ったるそうな一口サイズのケーキを掴み、あーんと口を開けた静雄に慌てて新羅は皿を差し出した。きらきらしたジュレがぽたりと白い皿に落ちる。

「ん、悪い」
「…はあ」

静雄はぺろりと手についたジュレやクリームを舐めとった。すると横からすっとハンカチが差し出される。静雄はその方向を向いた。

「ほらよ、手拭け」
「あ、…さんきゅ」

ストライプの入ったスーツを着た男がそこにいた。反対側から新羅が「ドタチン」と口にする。門田は新羅と同じようにため息をつく。どこからか持ってきたフォークを差し出せば、もう一度さんきゅと笑った。

「相変わらずだな」
「うまいぞ、ケーキ。そっちの紅茶のシフォンも好きだけど、今食べたさくらんぼのジュレの乗ったやつも…」
「相変わらずだよ」

どちらも静雄の話を聞いていないようだが、構わず静雄はケーキの話を続けていた。先ほど新羅が渡した皿に、静雄に選ばれしケーキが乗っていく。デザート類の多いビュッフェでよかったなと門田が言えば、嬉しそうに頷いた。

「こんなにスイーツがあるなんて、来てよかった」
「……臨也、止めなかったのか?ほら、今日…同窓会、行くな、とかよ」
「は?臨也?…あー、そーいえば言ってたかな…同窓会、どうたらとかって」

門田は辺りを見回したが、臨也のような人影は見えなかった。どうやらまだ来ていないようだ。にしても…門田は臨也に少し同情した。それは新羅も同じようだった。

「静雄がまず、臨也の話を素直に聞くと思うかい」
「…それもそうだな」
「あ、あのっ、平和島さん!」

三人は声のした方を向いた。そこには一人の男が立っていた。周りの男たちがざわつく。先越された、だとか畜生、だとかぼそぼそと聞こえる声に、門田と新羅は気づかないフリをした。

「ん?」
「今日、この後、時間…ありますか!」
「あーっと…悪いな、この後、俺たちと飲むことになってんだわ」

静雄がきょとんとしている間に、横から門田が申し訳なさそうに男に向かって言った。新羅もうんうんと頷いている。静雄はそんな約束したっけかと思ったが、とりあえず皿に乗ったケーキたちに意識を集中したい。

「門田、岸谷…。…平和島さんっ、明日でもいいんだけど!てかいつでもいいや!」
「、って言われても、私も仕事あるしなぁ…」

フォークでケーキに乗っていたラズベリーを口に運び、静雄は呟いた。結局何もわかっていないのかもしれない、と門田も新羅もため息をついた。男は直も食い下がろうと静雄に言い寄る。

「じゃあ、メアド教えて!暇になったら連絡くれればっ…」

その時、きゃあっと一際大きな女性たちの声があがった。男たちも静雄もそちらを見る。入り口の辺りに女性が固まっているのが見えたが、それをかき分けるように黒髪の男がこちらに歩いてきた。

「シズちゃん!!」

高そうなブランドのスーツに、髪は無造作にワックスでかき上げている。走ってきたのか、呼吸が乱れ、ワイシャツは第二までボタンが開いていた。静雄はラズベリーをごくんと飲み込む。

「臨也」
「っ…ドタチン、新羅、ちゃんと守ってくれって言ったじゃん!」
「いや、…遅れたおまえもどうかと思うが」
「そうそう。それに、無理あるよ…」

男は美人にはひたすら弱いんだから、と二人は今日何度目かわからないため息をついた。静雄は瞬きをして二人を見た後、臨也に視線を移す。臨也と静雄の視線がぶつかれば、、臨也はがばっと額を手で押さえた。

「…綺麗だ…!」
「あ?」
「でも!やっぱり目に悪い!」
「どういう意味だ臨也ア!」

がしゃんと静雄がテーブルに皿とフォークを置き、臨也の元へ近寄る。その時誰もが、はっと高校時代の二人を思い出した。折原臨也と平和島静雄。当時学校でその名前を知らない者はいなかった。まるで戦争のような二人の喧嘩がまたこの場で始まるのかと、皆いつでも逃げれるように足に力を入れたほどだ。

「そういう格好は、俺の前だけでいいってことだよ」

だが、予想とは反して臨也の口から出た言葉は、単なる愛のそれだった。「…え?」と元クラスメイトたちはざわめきだす。その様子に臨也は憎らしいほどに綺麗な笑みを浮かべ、静雄は反対に大きく舌打ちをした。

「めんどくせえ奴だ」
「いい機会でしょ」
「遅れたのが悪い」
「いや、君が綺麗なのが悪い」

そして静雄に近づいたかと思うと、白い手を取ってその甲に口付けた。静雄は嫌がる素振りも特に見せず、少しだけ顔を赤く染めている。誰かがかしゃんとフォークか何かを落とす音がした。どこかでバッグがどさりと落ちる音がした。パキンと携帯が落ちる音もした。

「、あーあ…ほら、二人とも、行くよ」
「え?新羅、いや、私まだケーキを」
「後で臨也に買ってもらえ」

新羅と門田はぐいぐいと二人の背を押して会場の外に出た。これ以上あの場にいては、何をしでかしてくれるかわかったものではない。

「さっきの中でね、やっぱり誰よりシズちゃんが綺麗だったよ!」
「…ろくに他の女のこと見てないくせによく言う。あ、そうだ門田、この後飲みに行くって言ってたけど、」

ホテルの廊下を歩きながら、静雄が門田に尋ねる。門田は思い出したように、ああ、と呟いた。

「いや、適当に言っただけだったんだが、」
「俺一滴も飲めてないよ、丁度いいじゃんこのままどっか行こう」
「丁度いいじゃないか、4人で飲むのも久しぶりだしね」

静雄は「決まりだな」と満足そうに言う。何も言わずとも、静雄のハイヒールの歩幅に合わせる三人。静雄は心の中でそれに感謝しながら、高校時代からの変わらない優しさにそっと笑みを浮かべた。



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10000フリリク
高野様:高校の同窓会で超絶美人になった静♀にアタックする同窓生+困惑する静♀+牽制する臨、新、門

リクありがとうございました〜!!
大変お待たせいたしました><

イザシズ風味で書かせていただきましたが、よろしかったでしょうか…!
同窓会、静雄は本当にとび抜けて綺麗なんだろうなあと妄想しながら書かせていただきました^^

ありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします〜!

花待りか/LikeLadyLuck


201107




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