だって
君しかみえない




「お、折原先輩っ。…こ、これ、…」

すっと差し出された手には、可愛らしいピンクの封筒だ。綺麗な字で『折原臨也先輩へ』と書いてある。ふるふると手は震えていて、一生懸命さが伝わってくる。臨也はそっとその封筒を受け取った。その瞬間、女子生徒はばっと顔を上げる。その瞳は期待と喜びに満ちていた。

「っ、折原せんぱ…」
「君かわいーね」
「…、え…!」
「ま、シズちゃんには敵わないけどね」

臨也は手を伸ばし、その封筒をそっと彼女のブレザーのポケットに入れた。女子生徒はきょとんと、口をぽかんと開けている。臨也はにっこり微笑んだ。

「じゃあね」

たったそれだけ言うと、臨也は手を数回振って女子生徒に背を向けた。女子生徒は何が起こったのかわからず、しばらくその場で立ち尽くしていた。







「っ…折原って、うちのクラスのぉ?だめだめ、あいつは絶対無理だよ」

次の日の昼休み、女子生徒は同じ部活の先輩に昨日あったことを話した。その先輩はどうやら、昨日告白した折原臨也のクラスメイトらしい。告白したのだと言うと、すぐにその整った眉を寄せた。

「え、何で…ですか?」
「そりゃ、…ああほら、あそこにいるでしょ」

先輩は窓に寄り、外を指差した。ここからは中庭が見え、先輩が示した先にはベンチに座る臨也の姿があった。女子生徒の胸はどきんと鳴る。入学して一ヶ月、廊下ですれ違ってからずっと憧れていた。昨日思い切って告白に踏みきって、残念なことに断られてしまったが(あれはきっと断られたのだろう)。

「、折原先輩と…あれは…」
「平和島静雄っつってね、同じくうちのクラスなんだけど」

臨也の隣に、金髪の生徒がいた。目立つ外見で、背も高そうだ。先輩はぼそりと口に出した。平和島静雄、耳にしたことがある名前だった。

「聞いたこと、あります」
「ま、有名だからね。…」

女子生徒は暫くそれを眺めていた。すると、静雄という生徒が持っていた鞄から弁当箱を取り出し、それを臨也に手渡したのだ。

「…あれ、お弁当…」
「……」

臨也は当然のようにそれを受け取る。静雄も自分の弁当箱を取り出し、膝に乗せた。蓋を開けた時、臨也が嬉しそうに笑った。女子生徒は先輩の方を向く。

「平和島先輩が…折原先輩の、分も?」
「しかもあれは平和島くんの手作り」
「、え?」
「隠すこともしないからさー、3年生なら皆知ってるんじゃないかな」

先輩は特に興味もなさそうに呟き、持っていた紙パックからジュースを啜った。女子生徒は臨也と静雄に視線を戻す。その時、臨也が静雄の弁当を指差した。何を指差したのかまではわからないが、静雄は少し考えたような素振りを見せた後、箸で何かを摘んだ。それをひょいと臨也の口に持っていく。

「、…」

臨也はあーんと口を開け、それを静雄の箸から食べた。女子生徒はぐっと拳を握り締めた。それに気づいた先輩は、ふうと息をついて言う。

「もう公認みたいなもんだよ。あの二人、付き合ってるんだよねぇ」









「シズちゃんのお弁当って、冷食ないよね〜!本当おいしい!」

ごくんと静雄に貰ったタコ型のウインナーを飲み込んで、臨也は上機嫌で言う。静雄はペットボトルからお茶を飲むと、ぼそりと呟いた。

「おまえが言ったんだろ、冷食やだって」
「そうだったっけ?」
「そうだろ」

色とりどりのおかずは、バランスも考えられている。臨也は静雄の作った弁当をご飯一粒も残したことがない。それどころか、静雄の分まで欲しがる始末だ。量は充分に入れているのに、と静雄は思うが、臨也に言わせれば静雄のご飯ならいくらでも胃に入るらしい。

「…そういや臨也。おまえ昨日、後輩から告白受けたんだってな」
「え?ああうん、よく知ってるね〜」

もしかして、嫉妬?と臨也は期待したが、静雄は顔色ひとつ変えなかった。相変わらずだな、と臨也は苦笑した。

「なわけねえだろ」
「とかなんとか言って〜…」
「吹奏楽部の1年生だってな。新羅に聞いた」
「…あいつ勝手に喋るんだから…」

臨也はぱちんと箸箱を開き、箸をその中に収めた。手を合わせてごちそうさまでしたと言えば、静雄もおう、と返した。今日も勿論、完食だ。

「断ったのか?」
「当たり前」
「…俺とのことは?」
「言ってないけど、…伝わってはいるみたいだね」

臨也はちら、と校舎の方を見た。3階の音楽室の窓から、見覚えのある女子生徒の姿を確認する。静雄は気づいていないだろうが。臨也はそっと笑った。

「…あんま、言いふらすなよ」
「っはは、今更でしょー」
「おまえが困るんじゃねえの」
「困る?俺が困るのは、君と別れることくらいだよ」

静雄は少しだけ、弁当箱を片付ける手を止めた。何も言わなかったが、臨也にはわかっていた。臨也はそっと静雄に寄る。微妙な距離を埋めた。

「どうだっていいんだから」
「…ひどい奴。よくこんな男に惚れるよな」
「褒め言葉?」

ベンチの前を通って行く生徒たちが、ちらちらと二人を見ていく。だが臨也がそんなことを気にするはずはなかったし、静雄も同じだった。臨也はくっと笑うと、静雄の顎に手を添えた。

「…うーん、俺としてみれば、シズちゃんがちょっとでも嫉妬してくれたらおもしろいなーと思ったんだけど」
「そう簡単にいくかよ…」
「あ、ついてるよ」

臨也はそのまま、静雄の唇の端に自分の唇を寄せる。ちゅっと音がして離れると、静雄は少しむっとした顔で臨也を見た。臨也は自分の唇の端を指差して言う。

「ご飯粒が」
「…何してんだよ」
「取ってあげたんじゃん」
「そうじゃなくて、…キスすんじゃ、なかったのかよ」

思わず臨也は笑みが浮かんでしまう。それを必死に抑えながら、余裕の表情を作り上げた。そして立ち上がり、静雄を隠すように前に立つ。これでは、校舎側からは臨也の背中しか見えない。くいっと静雄の細い顎を持ち上げて、満足そうに笑った。

「嬉しいなぁ。素直じゃないけど」
「…なんで立つんだ?」
「…色々、独り占めしたいんだ、」

意味深に呟けば、静雄が何か言い返す前に既に唇は塞がれていた。ここが学校だとか、中庭だとか、昼休みだとかいうことは、今の二人の頭の中にはないのだ。ただ、目の前にお互いがいればそれでよかった。愛しくて仕方がないくらいに。



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10000hitフリリク:アヤ様
「高校生設定でラブラブバカップルで人目も憚らずイチャつく2人。」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

ラブラブバカップル…になっているかちょっとこれ不安なんですが…><
こんなものでよければ、お持ち帰りも可ですので…っ!
これからもサイト共々、どうぞよろしくお願いします!


Like Lady Luck/花待りか
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201105




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