いじわるは、
すきのいみ




※臨也、静雄共に幼稚園生なパロです。



「せんせー!!いざやくんがしずちゃんのおもちゃとってたあ!」

うあああんっとクラスに泣き声が響き渡る。他の子どもとままごとで遊んでいた担任が慌てて駆け寄ってくる。数人の子どもに囲まれているのは、園内でも可愛い可愛いと評判の女の子、平和島静雄と、3歳にして既に整った顔立ちをしていると有名な男の子、折原臨也。女の子は顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。

「あらシズちゃん、お顔ぐしゃぐしゃねえ」
「いざやくん、しずちゃんにおもちゃかえしなよ!」
「そうだよ、しずちゃんがあそんでたんだよっ」
「まあ、そうなの?」

周りの男の子たちが一斉に先生へ言い寄る。静雄はひっひっとしゃくりあげながら臨也を見上げた。臨也は持っていたブロックを押し付けるようにして静雄へ返す。その表情はむすっとしていたが。

「、」
「イザヤくん、欲しい時はね、かしてねって言わなきゃだめよ」
「…べつに、かしてほしくない」
「じゃあどうしてとっちゃったの?シズちゃん泣いていたけど」

担任はエプロンのポケットからティッシュを出すと、丁寧に静雄の顔を拭き始める。臨也は手を後ろに組み、うつむきがちだ。するとうしろからばたばたと女の子たちが走ってくる。

「いざやくんいざやくん!あたしたちとおみせやさんごっこしよーよ!」
「いい」
「えー、なんでよう」
「みんな、だめよ。今イザヤくんは先生としずちゃんとお話してるの」

担任にそう言われると、女の子たちはしぶしぶ後ろへ下がった。臨也は同じ年の女の子たちからみてもやはり「かっこいい」ようで、とても人気があった。しかし臨也はあまり興味がないらしく、女の子たちのおままごとやら縄跳びやらの誘いにあまり乗ることはなかった。逆に静雄は男の子たちから大事に大事にされていた。泣き虫ということもあってか、少し泣いただけでも男の子の誰かが担任へ報告に走ってくるほどだった。

「イザヤくん、シズちゃんも先生も、言わなきゃわかんないわよ」
「わかんなくていーよっ」

今みたいにブロックを取ったり、スカートを引っ張ったり、臨也はよく静雄にちょっかいを出していた。他の女の子にはしないのに、静雄にだけ。その度に担任は臨也に問うのだが、臨也はなかなか理由を言わないのだ。静雄はすっかり臨也を恐がってしまって、担任のエプロンをぎゅううと握り締めている。割と子ども同士仲の良いクラスだったが、この二人だけはどうも上手くいかないのだ。担任は困ったようにため息をついた。








「うああ、あああああんん」

担任は嫌な感じがし、急いでクラスに戻った。静雄の泣き声は特徴的だ。そして泣き出すとなかなか泣き止まない。ガラっとクラスの扉を開ければ、案の定やはり静雄が泣いていた。

「せっ…せ、せんしぇ、」
「せんせー!いざやくんが、」

またか、と担任は静雄を取り囲んでいる子どもたちをかき分け、静雄の傍に寄った。がばっと静雄が抱きついてくる。二つに結ばれていた髪が、一つほどけていた。

「シズちゃん、髪…」
「いざやくんが、しずちゃんのへアゴムとったんだよー!」
「みてたもん!」
「ねー!」

成る程、確かにヘアゴムもなくなっている。いちごのマスコットがついたヘアゴムで、静雄が気に入ってるものだ。そのため今日は朝から機嫌がよかったのに。

「イザヤくん!」

クラスの隅でぷいっとそっぽを向いている臨也を担任は呼んだ。だが臨也はちらりとこちらを見ただけだ。担任は思わず立ち上がった。

「シズちゃんのヘアゴム、どこやったの?」
「…しーらない」
「しらない、じゃないの。お友達のもの、勝手にとっていいの?」
「だめー!」

周りの子どもたちが答える。臨也はむすっとした表情のまま、ポケットからいちごのヘアゴムを取り出し、それを投げようとした。担任はすかさずその手首を掴む。子どもは可愛いが、叱るべきところは厳しく叱らなければ。

「投げないの。…ごめんねって、シズちゃんに返してらっしゃい」
「……」

担任は低い声で言った。臨也はそんな担任の変化を読み取ったのか、しぶしぶ静雄の傍に寄り、ん、とヘアゴムを差し出した。静雄はびくっとし、臨也を見つめたままだ。

「…イザヤくん、なんていうの?」
「…ほら、」
「ほら、じゃないでしょう!」

臨也ははあとため息をわざとらしくつく。担任は腕組みをして臨也の後ろに立っていた。臨也は小さく小さく呟いた。

「…ごめん」
「……、」

静雄の手に無理やりヘアゴムを押し付けると、だっと臨也はクラスを出て行ってしまう。「イザヤくん!」と担任が追いかけようとするが、あっという間に廊下を駆けていってしまった。数分後、職員室にいた先生に捕まって戻ってきたのだが、反省の色は全くない。担任は今日も小さくため息をついた。








「せんせー!」
「せんせーっ」

今日もクラスの中に泣き声が響く。担任は他の子どもたちとのままごとの手を止め、立ち上がった。特に意識してなくとも、その目は自然と静雄に向く。やはり泣いていたのは静雄だった。

「シズちゃん、どうしたのー?」
「…、し、…しずおの、ぴんくのくれよん、」

ないいいい、と静雄はわんわん泣き出す。担任は静雄のクレヨンセットを覗き込み、確かにそこにピンク色のクレヨンだけがないことに気がつく。今から好きなお絵かきをしようとしていたのだろう、机の上にはスケッチブックが開かれている。

「…いざやくんじゃない?」
「そうだよ、いざやくん、いっつもしずちゃんにいじわるするもんね!」

子どもたちが口々に騒ぎ出す。ブロックで器用に城を組み立てていた臨也がちら、とこちらを向き、立ち上がって向かってくる。臨也はずっと、自由遊びの時間はブロックをしていたはずだ。

「みんな、ちょっと待って。イザヤくんは…」
「いざやくん、はやくくれよん、かえしてあげなよ!」

だがいつも臨也が静雄にすることを見てきているためか、子どもたちは臨也だと信じて疑おうとしない。臨也は特に何か言うわけでもなく、顔色も変えずにじっとクラスの子どもたちを見回した。そして、つかつかと静雄の横にいた男の子に近づく。

「、な、なんだよっ」
「くれよん、かえせよ」

え?と皆ぴたりと静かになる。担任も驚いて目を見開いた。臨也は確信があるかのように、その男の子に手を差し出した。

「ほら。…しずちゃんのぴんくのくれよん、もってるの、きみだろ」
「…し、しらないっ。ぼく、しずちゃんのくれよんなんか、…あっ!」

臨也はばっと男の子のクレヨンセットを開いた。その中のピンクのクレヨンを抜き出すと、名前を読み上げる。持ち物には皆、名前を書いているのだ。男の子は今にも泣き出しそうだった。

「へいわじま、しずお」
「……、」
「え、…じゃ、じゃあ…」
「…ごめ、なさ…っ」

男の子はふるふると震えながら、ごめんなさいと口にした。ピンク色のクレヨンがなくなってしまい、少しだけ静雄に借りようと勝手に取ったところで、丁度静雄がピンクがないことに気づいてしまったらしい。皆が臨也だ臨也だというので、言い出せなかったのだと呟いた。担任はふっと笑い、男の子の頭を撫でる。

「そうだったの…今度からは、ちゃんと、かしてねって言えるね?」
「うん、…ぜったい、いう。ごめんね、しずちゃん…」
「…ううん…」

静雄はピンクのクレヨンを手にし、首を振った。そして、男の子にそれをもう一度渡す。男の子は驚いたような顔をした。

「つかって、いいよ。しずお、ぴんくまだ、つかわない…から」
「、ありがとう…しずちゃん!」

いざやくんじゃなかったんだねー、と子どもたちは言い、ごめんねと臨也に一言呟いた。臨也はこれもまた特に気にしないような素振りを見せる。子どもたちはさっきまで自分のしていたあそびに戻っていく。静雄は臨也をじっと見上げた。

「…いざや、く…」
「しずちゃん、もっときをつけたほうがいいよ」
「…う、うん」

君が言うか、と思ったが、担任は何も言わず見守っていた。臨也は自分の道具箱からクレヨンを持ってくると、その箱を静雄の机に置いた。

「…?」
「おれ、ぶろっくしてるから。かしてあげる」
「で、でも…しずお、じぶんの、」
「かしてあげるっていってんの!」

強い口調に、静雄はびっくりしたように口を閉じた。臨也ははっとしたような顔を一瞬見せるが、またすぐに元のむす、とした表情に戻ってしまう。担任はにこりと笑って、臨也の傍に膝をついた。

「えらいじゃない、イザヤくん!かしてあげたのね」
「…ん」
「いつもそうして、優しくしてあげたらいいのに〜」

担任が笑って言うと、臨也はどこか真剣な顔になった。そして、担任に向かって言うのだ。

「しずちゃん、かわいいから」
「…え?」
「みんなすきなんだ、しずちゃんが」
「…そうね?」
「…おれは、『みんな』はやだ。みんなは、しずちゃんにやさしくするから…『みんな』は、やなんだ」

なんだか全てわかった気がして、担任ははあ…と息を長くついた。そうだ。そうだったのか。思えば、臨也がちょっかいを出すのは静雄だけだった。…やはり臨也も、静雄のことが。それにしても、この年で他の子たちと一緒にされたくない、というところまで考えているとは。

「…成る程ね。でも、もっとシズちゃんと仲良くなりたいなら、今のままじゃだめだと思うな」
「……」
「さっき、シズちゃんにクレヨン貸してあげたイザヤくん、かっこよかったわよぉ。ねっ、シズちゃん!」

にっこりと担任に笑って言われ、静雄も「う、うん」と頷いた。それを見た臨也は、はっと何かに気づくような素振りを見せる。担任は臨也の手をそっと握った。

「これからは、もっとかっこいいイザヤくんになろうよ」
「…かっこ、いい?」

ただ優しくしてあげるだけじゃない、思いやりを持つ心。担任は臨也にゆっくりと伝えた。臨也は力強く頷く。次の日から、臨也は全く静雄に意地悪をすることがなくなった。その代わり、静雄に絵本をかしてあげたり、物を譲ってあげたり、転んだらすぐに先生を呼びにいってあげたり。それも全て静雄への愛情からくるものかと思えば、幼いながらもすごいことだわ、と担任は色々考えさせられるのだった。



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10000hitフリリク:ルピナス様
「2人が子供な幼稚園パロディで、静雄が大好きでつい意地悪ばかりする臨也。」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

子どもパロということで、初めて書かせていただいたのですが…こ、こんな感じでいかがでしょうか…!><
シズちゃんあまり喋っておらずすみませ…!
こんなものでよければ、お持ち帰りも可ですので…!
これからもサイト共々、どうぞよろしくお願いします!


Like Lady Luck/花待りか
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201104




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