迎えに行くね!





「やっだぁ、雨降ってるぅ」

ウェイトレスの一人が呟いた。そういえば天気予報で夕方から雨だとか言っていた気がしないでもない。どうせ通り雨程度だろうと思っていたが、夜まで降り続くとは。静雄はしとしと降る雨に顔をしかめ、事務所から傘立てを引っ張り出してくると、それを店の入り口ドアの内側に置いた。

「…バイト終わるまでには止んでると良いな」
「本当だよねぇ〜、平和島くん傘持ってきた?」
「いや、学校から直で来てるし。昼は晴れてたし」
「あたしも。ああ、折り畳み傘でも持ってきてれば良かったなぁ…あっ、今行きまぁす」

レジで客が待っているのを見ると、同じ歳でバイト仲間の彼女は慌てて走っていった。静雄は奥に下がりながら、ホールを見つつキッチンにも目をやった。一年生の頃からここでバイトを始めて、もう三年になる。バイト仲間の中では長い方だ。最初は軽い気持ちで、まさかこんなに続くとは思っていなかった。

「平和島さん、5番テーブルお願いしますっ」
「、はい」

数あるファミレスの中でも、ここに決めた理由は一番に制服だった。桃色のストライプのネクタイがとても可愛い。…と、静雄の恋人が言った。まさか面接ではそんなこと言えないから適当に繕ったが、静雄も実際に着てみて男物だが可愛らしい制服だと思っていた。

「ねえねえ、あそこにかっこいい人がいるっ!」
「えっ、うそ…何番?」
「11番テーブル!…あっ、わわ、こっち見た!」

後輩たちがきゃいきゃい小声で騒いでいるのを見て、静雄は自然とそっちを向いた。目があった瞬間、そいつは静雄に向かってピースなんかしたもんだから、後輩たちはきょとんと静雄を見た。静雄は思わず引きつる。







「シズちゃんっ、お疲れ!」
「……最悪だ」

結局静雄がバイトをあがる22時までその男は居座った。静雄は当然裏口から出たのだが、さっきまで窓側の席に座っていたはずの男はちゃっかり出待ちしていた。一緒にあがった友達はそれを見て「、じゃ、またね〜」と興味津々な目をしたまま、早足で帰っていってしまった。

「最悪って、なんでよ。売り上げに貢献したんじゃん」
「ドリンクバーで?」
「ちゃんとポテトも食べた」

その男、折原臨也はにっこり笑った。これだけで女の子たちがメロメロになりそうだが、生憎静雄は男である。はあ、とだけため息をついた。臨也は笑顔のまま、持っていたビニール傘を静雄へ差し出した。

「はい、どうぞ。傘」
「おう、さんきゅ……っておい、お前のは」
「すぐそこだから平気だよ…車で来たんだ」

臨也はそれだけ言うと、自分は雨の中飛び出していった。静雄は傘をさして慌てて後を追う。臨也は夏休みに合宿で免許を取った。乗っているのは親から譲り受けた車らしいが、まだまだ使える綺麗なものだ。そして誕生日が早い臨也のぴかぴかの免許証を見て、静雄が羨ましいと思ったのは一度や二度ではない。

「よ、っと…はいどーぞ、開いてるよ」
「、ん」

チカチカとライトが二度点滅し、ロックが開いた。臨也は運転席に急いで乗り込み、自分の身体が濡れていることより先に静雄の心配をした。臨也はいつもこうなのだ。

「ふー…シズちゃん、濡れてない?」
「大丈夫。お前、自分の心配したらどうだ?」
「へーきだよ、ありがと…よし、行こうか」

臨也は濡れた前髪をかきあげると、キーを差し込んだ。ワイパーが動き出し、同時に車も前に進む。臨也はまだ若葉マークなのに運転が上手かった。静雄ももう安心して乗れる。ワイパーのギッギッという音が妙に耳に残って、静雄はデッキをオンにするが、CDは何も入っていなかった。

「あ、ごめん。まだ入れてないんだよ」
「…洋楽が良いな」
「明日には置いとくね」

静雄は背もたれに体重を預けながら、じいっと臨也を見ていた。安全運転に努めている臨也は静雄の視線には気づかない。真剣なので話しかけないほうがいいか、と静雄は黙っていたが、ふと気になったことを口にしてみた。

「そういえば…どうして今日、来たんだ?特に約束もしてなかったよな」
「え?あー、雨。雨降ったから」
「なんで傘持ってないって知ってるんだ」
「シズちゃんが折り畳み傘持ってるのって聞いたことないし。今日、朝は晴れてたし…学校で傘も持ってなかったし」

雨が窓ガラスに当たっては跳ねて返っていく。静雄は臨也の髪の毛から垂れる雫を目で追いながら、鞄の中からハンドタオルを出すとそれを襟足のあたりに押し付けてやった。そこからシャツに水がしみこむのだ。突然タオルが襟足に当たったので臨也はびっくりしたが、それでも笑ってみせた。

「ありがと」
「…わざわざ車、出してくるとはな」
「雨だもん、車の方が濡れなくていいでしょ。…やっぱりちょっと道混んでるけど、そこは我慢ね」
「……悪かった、な」
「いえいえ。このくらい」

当然のことだよ、と臨也は言う。丁度赤信号で車が止まったので、二人は目があった。静雄は咄嗟に何故か恥ずかしくなって、ふいっと顔をそらした。また車は動き出す。静かな車内、快適なシートは静雄を眠りに誘う。だが静雄は決して眠らなかった。臨也は運転してくれているのだ、自分だけ寝てはいられない。

「はは、寝てれば良いのに」
「…眠たくない」

臨也はそんな静雄の心を読んだかのように苦笑しながら言った。どんどんと静雄のアパートに近づいてきている。臨也は立派な大きい実家から通っているが、静雄はアパートに一人暮らしをしていた。いつも綺麗に片付いている、2階の奥の部屋だ。春からは二人とも大学生になる。学部は違うが、二人は同じ大学だった。特に何も言い合わなかったが、自然とそうなったのだ。

「大学入ったら、バイトどうするの?」
「一応…続けるつもり。駅前のファミレスだし…せっかく三年もやってるしな」
「そうだね、それが良い。あそこ制服可愛いし」
「いつも言うなお前…」
「シズちゃんが着ると3倍増し」
「…ふん」

鞄をごそごそとあさり、携帯を出す。が、メールはきていないみたいだ。それを戻そうとまた鞄の中へ手を入れると、何か丸いものに触れた。そういえば、今日クラスメイトの岸谷新羅から何か貰った気がする。

「…あ。いいもんみつけた」
「なになに」
「信号で止まったらやるよ」

車は二つ先の信号で引っかかった。臨也がこちらを向くと同時に、その口へ指で押し込んでやる。新発売らしい、イチゴ味のキャンディ。静雄は少々べとついた指を舐めながら言う。

「タクシー代な」
「え、…ていうかこれ、新羅が持ってたアメ」
「よくわかったな」
「俺もレモン味もらった」

中にミルクが入ってて美味しいんだよね、と臨也は再びアクセルを踏む。そうしているうちに、だんだんといつも見ている住宅街に車は入っていく。臨也は静雄のアパートのすぐ傍で車を停めた。

「はい、ご到着」
「…助かった」

静雄はごく自然にちゅ、と臨也の頬にキスをした。さっきのキャンディがタクシー代にならなかったからだ。臨也が思わずぼおっとしている間に鞄を持ち、すぐに車から出た。逃げるように階段を上って、ちらっと下を見てみると、まだ車は停まっていた。自分のしたことを思い出して顔が赤くなる。だが、キスに見合う、いやそれ以上のことを彼はしてくれた。このくらい、そう、当然だ。



次の日から雨でなくても、ファミレスの前には22時に艶やかな黒色の車が停まるようになった。




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10000hitフリリク:香様
「来神時代、仲良しな2人」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

来紙時代なのに二人が学校にいなくて申し訳ない…です…><
学生の二人、楽しんで書かせていただきました!
こんなものでよければ、お持ち帰りも可ですので…!
これからもサイト共々、どうぞよろしくお願いします!


Like Lady Luck/花待りか
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201103
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