I'll protect you.





「折原アー!いったぞー!」
「、へっ?」

臨也はクラスメイトの呼ぶ声ではっと我に返る。やばい、余所見をしていた。慌てて前を向くと、すぐそこに物凄い勢いで飛んでくるボールがあった。これはもうどうしようもない!痛いっ、と目をぎゅっと瞑る。だが、ボールは臨也の顔面に当たることはなかった。代わりに聞こえたのは、トン…とボールが体育館の床に落ちる音。そして、目の前に凛と立つ、金髪の美少女。

「、ったく…おい臨也、てめえろくにバレーボールもできねえのかよ!」
「あれ、シズちゃ…え?…なんで?」

学年カラーである紺色のジャージの袖を捲りあげてる彼女は、くるりと臨也の方を向くとすぐに口を開いた。臨也はきょとんとする。男子は今の時間バレーボールだが、女子は体育館の舞台側でバトミントンではなかったか。体育館を二つに分け、女子と男子で種目も分かれて授業は行われていたはずだ。

「顔面血まみれになりたかったのか、臨也くんよお?」
「いや、それは勘弁…し、シズちゃん、わざわざこっちまで来てくれたの?」
「見てられねーんだよ、私の運動神経分けてやりてーくらいだ!」

金髪の彼女、平和島静雄は床に落ちたバレーボールを拾った。そしてそれを高く放り、タイミングを合わせてジャンプする。細い腕から繰り出されているとは思えない強烈なジャンプサーブは、相手チームのコートへ向かう。もちろん男子たちばかりがいたはずなのだが、皆コートから逃げていた。静雄が男子顔負けの性格、運動能力を持っていることは有名な話だった。

「ありがと、ね…シズちゃん」
「ふん」

静雄は網のカーテンで仕切られた体育館の向こう側へと戻っていく。はあ…と臨也は息をついた。臨也と静雄は恋人同士だった。本来ならば彼氏が色々と彼女を助けてあげたりするものだが、二人の場合は完全に逆だった。臨也は勉強はできたが運動神経はいまいちだったし、背も静雄より小さかった。静雄は運動神経抜群で背も高い。加えてとても美しかった。顔は臨也も悪いほうではないが。

「さすがだねぇ、君の彼女」
「新羅」
「王子様みたいだったよ」

ほら、とクラスメイトの新羅が体育館の反対側を指差した。そこには女子生徒に囲まれ、「静雄すごーい!」「かっこよかった〜!」ときゃあきゃあ言われている静雄の姿があった。臨也は再びため息をつく。

「…どうせ俺は何もできないよ。運動神経だってそんなにないし…」
「臨也、ほらっ、またボール来るよ!」

新羅にぐいと腕を引かれ、またしてもボールの顔面強打から助けられる。カーテンの向こうから静雄がこちらを睨んでいた。臨也はそーっと目を逸らす。とりあえず、今は目の前の試合に集中しよう。







「体育、来週からサッカーらしいぞ?おまえ大丈夫か?」
「……大丈夫じゃないかも」

静雄は弁当の入ったバッグから二つ弁当箱を取り出し、その一つを臨也へ差し出した。臨也は途端にとびきりの笑顔になってそれを受け取った。

「今日もありがと、シズちゃん」
「…別に。幽と父さんの分も作ってるから、ついで」
「でも嬉しいよ、…いただきまーす」

臨也は手を合わせ、わくわくと弁当箱を開ける。色とりどりのおかずが並び、とても美味しそうだ。彼女である静雄はほぼ毎日、こうして臨也に弁当を作ってきていた。朝早くに出勤してしまうという母親に代わり、家族の弁当を作っている静雄にダメもとで頼んでみたら、なんとオッケーされたのだった。これが毎日の臨也の楽しみでもある。

「あー…俺幸せだよシズちゃん、シズちゃんのご飯は本当においしくて好き」
「そりゃよかったな。…」

臨也の両親は忙しいので、朝から弁当など作っている暇はない。いつもパンやおにぎりですませていたので、本当に嬉しいことだった。昼休み、屋上で二人で過ごすこの時間。それに彼女手作りの美味しい弁当。臨也は上機嫌だった。

「…そういや話戻るけど、体育。臨也、おまえもうちょっとさあ…」
「、仕方ないじゃん…俺もなんとか頑張ってるつもりだけど、」
「ま、…いいけど。顔、無事でよかったな」

静雄はふっと笑った。臨也はふわふわの卵焼きを口に含みながらこくりと頷いた。臨也は顔はいい。実際、運動神経の悪さを知らない下級生や上級生からはかなり人気があるのだ。あそこで静雄が助けてくれなければ、今頃自分の顔は…と考えるとぞっとした。

「…本当、助かったよ…」
「でも少しずつなんとかしてかねーと。来週、男子はサッカーだけど女子はバスケだからな…」
「う、シズちゃん体育館か…」

助けてもらえないなと呟けば、静雄は笑って当たり前だと返した。弁当を全て綺麗に食べ、静雄に弁当箱を返すと、微かにだが嬉しそうな表情を見せた。昼からの授業にまでまだ時間がある。静雄は立ち上がり、近くのフェンスにぎし、と持たれかかった。

「…プリン食べたいな」
「……買ってこいって?」
「それは言ってないけど」
「思ってるんでしょ?…いいよ、俺もちょっと飲み物買いに行きたいし。待ってて、」

臨也は財布が後ろポケットにあるのを確認し、購買部へ行くために立ち上がる。もう昼休みのピークは終えてるだろうが、プリンやデザート系なら残っているだろう。臨也は静雄に背を向け、歩こうとする。その瞬間、カシャンと何かがはずれる音がした。臨也は何事かと振り向く。そこには信じられない光景があった。

「え、っ……」

もたれかかっていた静雄の身体が、ぐらりとフェンスと共に屋上の外に投げ出される。さっきのはフェンスのネジか何かがはずれる音だったのだろうか。臨也は何か考えるより早く、足に力を入れて駆け出していた。手を伸ばし、必死で静雄の腕を掴む。ぐぐっと引っ張られるが、なんとか耐える。ゆら、と静雄の身体が宙に揺れた。

「、臨也っ…」
「シズちゃんっ、!」

きゃああっと屋上にいた生徒たちが声をあげる。静雄の後ろで、落ちていったフェンスが地面に叩きつけられ、グシャン…と低く大きな音をたてた。静雄は下を見てしまい、ぞっとする。4階建ての校舎だ。いくら自分でも、このまま地面に落下すれば…

「シズちゃ…っ、下、見ないように、」

静雄は苦しそうなその声にはっと顔を上げた。臨也は静雄の腕を掴み、もう片方の手で隣のフェンスを握り、なんとか体重を支えていた。今、静雄の身体を繋ぎとめているのは臨也の片腕だけだった。

「臨也、…、は、離して」
「は、あっ?何言って、…離した、ら、シズちゃん、落ち…」
「た、多分…骨折くらいで、済むだろうから…っ」

静雄はごくりと唾を飲み込んだ。臨也の腕がふるふると奮え、コンクリートに擦れて腕に傷ができている。それに、このままでは二人とも落ちてしまう可能性だってある。

「…いや、…大丈夫、」
「大丈夫、って…」
「引っ張り上げる、からっ…手、離さないで、ねっ…」

ぽたり、と臨也の額から汗の雫が垂れた。ぐっと静雄の身体が引っ張り上げられる。静雄も片手を校舎にかけ、なんとか屋上に乗り上がることができた。丁度屋上へ駆けつけた教師たちが、大丈夫かと駆け寄ってくる。臨也は乱れた息のままその場に座りこむ。

「いざ、や…」
「…よかっ、た……」

そしてそこからの記憶が臨也にはない。気がつけば、保健室のベッドに寝かされていたのだった。






ゆっくり目を開けば、そこに静雄がいた。保健室の窓からは、オレンジ色の夕陽が差し込んでいた。静雄は臨也と目が合うと、カーテンの向こう側へ向かって言う。

「先生、いざ…折原くんが、起きました」
「あら、本当?」

シャッとカーテンが開けられ、養護教諭が顔を出した。臨也が起き上がろうとすると、そのままでいいわよと微笑まれる。

「気分はどう?」
「大丈夫…です」
「腕も軽い打ち身と擦り傷だけだと思うから、心配いらないわ。…それにしても、大変だったわねぇ。まさかフェンスが落ちるなんてねぇ…」

養護教諭は頬に手を当てながら、ふう…と窓の外を見ながら口に出した。夢じゃあなかったんだ、と臨也は自分の腕を見て思う。

「なかなかやるじゃない、折原くん!顔だけじゃないのね〜」
「……」
「君、体育でしょっちゅう怪我してくるじゃない?そりゃあ驚いたわよ、折原くんが平和島さんを助けたってんだから!ねえ、本当、逆じゃなかったの?」
「本当ですよ」

静雄が笑って答えた。見たところ、静雄は元気そうだ。絆創膏のひとつも見当たらず、臨也は安心した。養護教諭ははっと時計を見ると、慌てて事務用の机に駆け寄った。

「いけないいけない、喋ってて遅れるとこだった。先生これから緊急会議なのよ…勿論議題は今日のフェンス事件についてよ。折原くん、君のことすっごーく褒めておくわ、…体育の先生にね」
「…はは…」
「それじゃ、大丈夫そうだったら帰って平気だからね。平和島さん、一緒に帰ってあげて頂戴」
「はい」

ガラガラと扉の音がし、養護教諭は保健室を出て行った。二人だけになった保健室はしんと静まり返る。臨也は上半身だけ起こした。静雄は臨也の傍に寄る。

「…にしても、おまえ気失うとはな…なんで助けた方が倒れてんだよ」
「う、うるさいな…!さっきからそれちょっと気にしてんだから…」
「ま、でも…おかげで私は傷一つなしだけど、」

静雄の手がそっと臨也の腕に触れた。少し感じた痛みに顔をしかめれば、悪い、と静雄はすぐに離す。その表情はどこか暗くもあった。

「…いや、大丈夫。本当」
「どっちだよ…」
「……シズちゃんが無事で、よかった」
「…馬鹿だな。やっぱり手離しとけば、こんな怪我…することなかったのに」

苦しそうに笑うので、臨也は思わずそっと手を伸ばし、静雄の細い指に触れた。いつもの静雄の指だ。変わらないそれに、臨也はふっと微笑んだ。

「そんなこと言わないで。彼女を守るのは、彼氏の義務だよ」
「……彼氏を守るのも、彼女の…義務だけどな、」
「う、…」
「…けど、守られたのなんて、初めてかもしれない。……ありがとう、臨也」

ちゅっと臨也の頬に静雄の唇が触れた。突然のことだったので思考が追いつけない臨也に、静雄はぎゅうと抱きついた。臨也の首元に顔をうずめる静雄に、臨也はそっと優しく髪を撫で、抱き返した。そして静雄が安心したように優しく微笑んだのを見れば、腕の傷の痛みもどうってことないなと臨也は思った。


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10000hitフリリク:紅マグロ様
「静雄に何時も守られてばかりな臨也、良いところを見せたいが毎回ドジをして呆れられて助けられている。ある日絶体絶命の危機に追い込まれた彼女をボロボロになりながらも助ける。」

お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!

リク内容にうまく沿えているか不安なのですが><
臨也がものすごくへタレになってしまって…すみませ…!
こんなものでよければどうぞもらってやってください…!
これからもサイト共々、よろしくお願いします。


Like Lady Luck/花待りか
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201102
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