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「…それ、本当なの?」
臨也はぼそりと口にした。目の前にいた黒髪のパーマの女子生徒が、きょとんとした顔で臨也を見るが、すぐにまた口を開く。
「うん、本当っぽいよー?」
「へえ…」
「…どしたの臨也?…シズに好きな人いるっての、気になるの?」
先ほど彼女の口から出た言葉。先日の修学旅行で、彼女とシズ…平和島静雄は同じ部屋だったらしく、色々と話をしたらしい。その中でやはり女子高生、夜にはいわゆる恋バナで盛り上がったのだという。
「、意外だなって思っただけだよ。あんなシズちゃんでも、そういう人…いるんだなって」
「でもシズは綺麗だもん、あたしの男友達でもさ、シズのこといいなーって思ってる奴結構いるよー」
ふー、と彼女は自分の指に向かって息を吹きかける。マニュキュア独特のにおいがした。臨也は机に肘をつく。平和島静雄は臨也の幼馴染みであり、その仲の悪さは学校中でも知らない人物はいなかった。どちらも目立つ存在だったので尚更だ。
「シズ、相手が誰かは絶対言わなかったんだけどね、でも、あの顔は本当っぽかったなあ」
「…顔?」
「顔真っ赤にしてさ、言うんだもん。シズは綺麗綺麗って思ってたけど、本当は違うのかもね。とても可愛かったよ」
臨也は心の奥底で呟く。知っている、と。静雄が可愛いだなんて、昔から臨也は知っている。臨也は静雄のことが密かに好きだった。喧嘩ばかり繰り返してきたが、本当は誰より静雄のことを好いていた。純粋で綺麗で、愛らしい静雄。臨也は唇をそっと噛んだ。静雄に好きな人がいるだなんて、初耳だったのだ。
「…、」
「え、もう帰んの、臨也?今日、サンシャイン寄ろって言ってたじゃーん、今からちょっと化粧直すのに」
「ごめん、明日にしよ?俺大事な用思い出した」
「…シズをからかいにいくの?」
彼女は化粧ポーチから手鏡とマスカラを取り出しながら、ため息と共に言った。彼女は臨也の女友達だったが、それ以上の関係はない。臨也は立ち上がり、鞄を持つ。
「よくわかったね」
「かわいそー、シズ」
呟いた彼女の一言を背に、臨也は放課後の教室を出た。廊下は静かで、誰もいなかった。臨也は階段に向かって歩き出したが、途中にあった図書室の前ではたと足を止める。僅かに開いた隙間から、見覚えのある金髪が見えたからだ。臨也はがら、と図書室の扉を開けた。図書室の中にはその金髪の持ち主以外、生徒はいなかった。
「…シズちゃん」
「、」
窓際で本も読まず、じっと外を見つめる女子生徒に臨也は声をかけた。振り返ったその顔は少し驚いたような表情だった。臨也は静雄に近寄る。
「何見てたの?」
「…別に。関係ねえだろ」
「……」
臨也は鞄をテーブルに置き、窓際へ寄った。丁度グラウンドで部活を行うサッカー部がよく見渡せた。臨也は目を細めてそれを見る。静雄ががたがたと帰り支度をする音が聞こえた。
「ねえ、シズちゃん」
「ああ?」
「…11番あたり?」
ぴたりと音が止む。臨也は静雄の顔を見るのが嫌だった。きっと先ほどよりも驚いた顔をしているんだろうな。違うと笑い飛ばしてくれれば、よかったのに。ああ、嫌だ。嫌だ。
「……、…なにが」
「背高いし、キャプテンだったっけ、…名前、ど忘れしちゃった。なんだっけ?」
「、臨也」
「……顔赤いよ、シズちゃん」
やっぱりそうか。臨也は確信する。グラウンドで走る、サッカー部の背番号11の男。うちのクラスのサッカー部は一人だけ。そしてその男は静雄の隣の席だった。何度か話しているところを見たことがあるが、とんでもない力を持つ静雄にも優しく、明るい男だ。臨也は心臓がつぶれそうな思いだった。
「成る程ね、シズちゃんはさ、ここからあの男を見てたわけだね」
「、うるせえ、知るか!私はもう帰、ッ、」
静雄は鞄を持って一歩踏み出そうとしたが、思いっきり腕を掴まれる。そのまま引っ張られ、気づくとテーブルに押し倒されていた。見える天井と、臨也の顔。静雄は目を見開くことしかできない。
「…なっ…何す、」
「恋する乙女?シズちゃんが?…何それ」
「、」
押し返そうとするが、臨也の力は強まるばかりだった。掴まれたままの腕が痛くて顔をしかめる。こんな力があっただなんて静雄は知らなかった。
「恋なんて似合わないよシズちゃん。君はさ…、普通の女の子じゃ、ないんだから」
「臨也、っ…」
「あの男のことが好きなの?」
「…、……」
「……ふうん」
静雄は臨也から視線をずらす。臨也にはそれが肯定に思えて、身体の奥からどす黒いものが溢れてくるようだった。気がつけば、静雄の着ていた制服のシャツをびっと引っ張っていた。カツン、とボタンが取れて床に落ちる音がした。
「ッ…なっ、臨也…!?何しやがっ…」
「黙ってて」
「ふっ…!?」
ぐ、と静雄の口を手で塞ぐ。白い肌が露になり、黒色のブラがちらつく。シャツの前を全て肌蹴させ、ぐいとブラを上へ上げれば、形の良い胸が顔を出す。それに触れれば、静雄はびくんと身体を震わせた。かたかたと小刻みに震えているのがわかる。
「、臨也っ…やめ…、」
「…熱いねシズちゃん。…ここであの男のことを考えてるからなの?」
「、いっ…!」
ぐぐっと心臓の部分を指で押すと、静雄が苦しそうに息を吐いた。手をするりとスカートの中へ入れれば、静雄は今度こそ本気で抵抗をする。
「やめろ臨也ッ…おま、…っ、なんで…!」
「なんでだろ?…よくわかんない」
「、はあ!?」
「でも…どうしようもなく、イラつくんだ」
静雄の耳元で低く囁くと、静雄はその温度差にびくりと動きを止めた。こんな臨也の声は聞いたことがなかった。臨也はその隙に静雄の太股を撫で、そっと下着ごしに秘部に触れる。静雄は目をぎゅっと瞑った。
「ひっ…、…」
「……」
そっと布をかき分けようとするが、臨也はその指をそれ以上先には進めなかった。ちらりと静雄の顔を見て、静雄が涙を流しているのに気づいてしまった。
「…女の武器だよね、それ」
「、…?」
「このままヤってもいいんだけど、…そんなもんで、解消されるわけじゃないんだ」
「…臨也、」
「こんなことで、…だって俺は君が、」
臨也は口を閉じる。図書室が再び静かに戻る。臨也は自分の着ていたシャツを脱ぐと、静雄に放った。自分は下にもTシャツを着ているので平気だ。静雄は涙を流したまま、それを受け取った。
「ボタン、とれちゃったから。それ着て帰って」
「、……」
抱いて静雄が自分のものになるなら、何度だって抱く。けれど現実はそうはならないのだ。静雄の心は自分には向いていない。臨也は静雄の愛らしい笑顔が好きだった。そして静雄の涙には滅法弱かった。他の女だったら無理やりにでも自分のものにしていたかもしれないが、静雄は。
「…い、ざや…ど、うして」
「ごめん」
「、ごめん、じゃ、なくてっ…わ、私は、おまえはっ…こういうこと、するやつじゃあないと、思って、」
「シズちゃんは、…俺の何を知ってるの?」
静雄ははっと臨也を見た。臨也はTシャツの上に学ランを羽織り、既に鞄を持って出て行こうとするところだった。その顔は夕日に照らされて、眩しくてよく見えなかった。
「何、って、」
「…君は何も知らない」
「、」
「けど、知らないままでいいとも思う…。…黒のスポーツブラなんて色気ないよ、男子高校生オとすなら、」
もっと考えないとね、と臨也はいつもの笑みでふっと笑うと、図書室を出て行った。静雄は慌ててシャツを着てその後を追いかけようとしたが、既に廊下には臨也の姿はなかった。グラウンドからは絶えず、部活動を行う声が聞こえている。
(…臨也、)
まだ腕が少し震えている。この気持ちは何なのだろう。ショックで、寂しくて、けれど臨也のことが気にかかって。
「…言ってくれねえと、…そんなの、わからないのに、」
臨也の心の中なんて読めるわけがない。何重にも封をして守っているその本当の心が、とても遠い。静雄は再び図書室へと戻り、窓の外を見た。だが、サッカー部の彼を探すのではなく、帰るため門へ向かうだろう臨也をと。
「、」
てっきり一人で歩いていくのだと思ったが、臨也の隣には黒髪のパーマの女子生徒がいた。そうだ、臨也にはいるんだ、たくさんの彼女が。自分よりも可愛く綺麗で、明るい彼女たちがいる。
「…その中の一人になんて、…ごめんだ」
静雄はぎゅっと自分の身体を抱き締めた。臨也の触れた場所を身体がまだ憶えている。所詮遊びなのだ。臨也はたくさんの顔を持っていて、自分がそれを知らなかっただけ。幼馴染みで昔から知り合った仲でも、着実に二人は成長し、その道は同じじゃない。きっと臨也は明日には自分を押し倒したことも忘れているんじゃないか、と静雄は思う。
「……さむい、な」
かち、かち、と無機質に響く時計の音。長針と短針は両極、午後6時を告げていた。
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10000hitフリリク:ゆずを様
「静雄に他に好きな人がいるのを知って、無理矢理犯しちゃう臨也」
お待たせいたしました〜!
リクエストありがとうございました!!
犯せてない…ですが…ああああああ
鬼畜になりきれませんでした…すみませ…!
こんなものでよければお持ち帰りも可能ですので…!
これからもサイト共々、どうぞよろしくお願いします。
Like Lady Luck/花待りか
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201011