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『ふぅー…』

岸に上がり、氷柱が座り込んで一息ついた。

「大丈夫か?氷柱殿」

心配そうに歩み寄る桂に、氷柱は笑顔で頷いてみせた。

『…そうだ!猫は!?』

箱を引き寄せて中を覗くと、小柄な猫が丸くなっていた。
緩やかに背中が上下するのを見て、二人はほっと肩を撫で下ろす。

『よかった…』

「子猫…みたいだな」

桂がおずおずと手を出し、猫の背中に触れる。
その横で、氷柱は羽織を脱ぎ、軽く絞った。

『あーあ、びしょ濡れじゃん』

そう言いながらも、氷柱は何処か楽しそうに笑う。

「氷柱殿…風邪引くぞ」

桂も羽織を脱ぎ、そっと氷柱の肩に掛けた。

『…いいよ、ヅラの方が風邪引くでしょ?』

深緑の羽織を返そうとする手を、桂が止める。

「平気だ。俺は今まで風邪など引いたことは無いからな」

『それって…ヅラが馬鹿だってことじゃ』

氷柱が苦笑する。

『…うん。ありがと』

くすくすと笑いながら、氷柱は羽織を着直した。
子猫はまだ、箱の中ですやすや眠っている。



ねこのここねこ
(ぬくもり、ぬくぬく)


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