B


『おーい、にゃんこー』

呼びかけながら、氷柱はゆっくり歩く。
急だったし、あまり遠くに行くつもりでは無いので、着流しに羽織という簡略な服装である。
外れとはいえ戦場の中。
一応刀は携えているが、氷柱は少し心許なく感じていた。

『着流しって、楽っちゃあ楽だけど歩き回るのには向いてないかもね』

「そうか?俺は動きやすいと思うぞ」

先を歩く桂が振り返った。
桂も同じく着流しに羽織を身につけている。

『ヅラは着流し似合うねぇ』

ふふ、と氷柱が笑った。

『…そういえば、トシも似合ってたな』

氷柱は懐かしむ様に、空色の目を細める。

「トシ?」

『あぁゴメン、独り言』

そう言った直後、氷柱の表情がすっと強ばった。

「氷柱殿?」

氷柱はしぃっ、と人差し指を口元に当てる。

『………』

きょろきょろと見回していたが、やがて動きを止めた。
一方向を見つめて、氷柱が呟く。

『あっちから、聞こえる』

氷柱は桂の手を引っ張って駆け出した。


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