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「…あ、氷柱ちゃん!!」

呼び止められて、振り返ってみると、ミツバが駆け寄って来た。

「氷柱ちゃん、そーちゃんと十四郎さん見てない?」

『さぁ…見てないけど』

私が答えると、ミツバの眉がしゅん、と下がった。

「そう…」

『どうかしたの?』

ミツバはうなだれたまま、ぽつりと話し始めた。

「私…さっき、二人にきついこと言っちゃったの。気を悪くしてなければいいのだけど…」

ミツバの瞳が揺れる。

『大丈夫だよ、私がもっとキツいこと言ってるから』

そう言ってみせると、ミツバはくすっと笑った。
けれども直ぐにまた、哀しそうな顔に戻る。

「でも、私…」

『アイツらなら心配要らないって。どうせ道場で竹刀でも振り回してるでしょ』

「………」

ミツバが、ゆっくりと顔を上げた。

『…それに、ミツバが二人の為を思って言ってるって事くらい、アイツらも分かってるよ。きっと』

ミツバの口元が、微かに緩む。

「…ありがとう、氷柱ちゃん」

ふわり、とミツバは微笑んで、道場の方に向かって行った。


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