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『あー、疲れたぁ』

髪をほどいて床に座り込むと、桂が心配そうに顔を覗き込んできた。

「氷柱殿、顔を怪我している様だが…大丈夫か?」

『へ?』

桂の視線をたどり、左の頬に手を当てると、ズキッと痛んだ。
指先が赤い血で濡れる。

『あぁ、大丈夫だよこれくらい。ってかヅラも顔怪我してんじゃん』

「ヅラじゃない桂だ」

ヅ…桂は不機嫌な顔で訂正してから、

「でも氷柱殿は女の子だろう?顔に傷跡が残ったりしたら困るんじゃないか?」

と言い、消毒液とガーゼを差し出してきた。

『ん?いいよ別に。女なんて捨ててきたし』

私はあっさりと言い放つ。
女だからって特別扱いはされたくない。

ところが、

「良くないっ。折角綺麗な顔をしているのだから、女を捨てたなんて言うな、氷柱殿」

そう言って、桂はガーゼに消毒液を染み込ませた。

『え…ちょっ、ヅラ?綺麗な顔って、誰が?確かにアンタはどっちかって言うと美形だけど…え?どういう意味?』

私が軽く混乱状態に陥りながら尋ねると、桂は驚いたような呆れたような、微妙な表情で溜息をついた。

「誰が…って、氷柱殿に決まってるだろう。氷柱殿は十分女の子に見えるぞ?」

『…え?』

何ソレ。
そんな事言われ慣れていないから、どう返せばいいのか分からない。
第一、私は女の子扱いされるのは苦手だと言ったはずだけど…。

ただ、ソレはきっと、桂なりの誉め言葉なのだろうと思い、私は礼を言うことにした。

『あ…ありがと』


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