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『…はぁぁ』

刀を握ったまま、氷柱は大きく溜息を吐いた。

『今度はアンタがはぐれたの?ヅラ』

隣で腕組みをして立つ桂を一瞥して、やれやれと首を振る。

「ヅラじゃない桂だ。…言っておくが、はぐれたのは氷柱殿の方だ」

『あはは…やっぱり?』

桂の言葉に、氷柱は力なく笑うしか出来なかった。

「銀時達も、氷柱殿を探している筈だ。戻ろう。…案ずるな、待ち合わせ場所は決めてある」

『…そう』

氷柱にとって、桂の言葉は不思議と安心できるものだった。
そういえば、しばらく誰かの言葉で安心した事なんてなかったな、と氷柱は思った。

『置いてかないでよ。私、こう見えて結構方向音痴なんだから』

深緑色の羽織の袖を、氷柱は指先でそっと掴んだ。

「…方向音痴だからはぐれたのだろう?」

桂がくすっと笑う。
それだけなのに、張り詰めていた心が解れていくような気分になった。

たまには、誰かに頼るのも悪くない…かな。



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