星降りの夜に(トリップ/シリアス/運命変えない) | ナノ

  出会う筈のない人


ギュッと目を瞑って、来るべき鋭い痛みに身構える。が、いくら待っても来ない痛みに違和感を覚え、チラリと片目を開けてみた。


「……え?」


驚いて、もう片目を開いた。目の前の光景は、私にとっては「有り得ない」ものだったのだ。

なぜ私の目の前にあったはずの見慣れた交差点や店舗は消え去り、薄暗いあの橋の上に立っているのか。なぜゲームの中だけの存在である「LOVELESS」の看板がある劇場や「アバランチ注意!」の貼り紙があるのか。
なんで、私がゲームで見た光景が目の前に広がっているのか。


「…夢だ。」


夢に決まってる。夢じゃないとおかしいのだ。私はトラックに轢き殺されている筈なのに。どうして画面の中にいるんだ。こんなの、有り得ないのに。
私の憧れていた世界は、こんなに簡単に手が届くものなのか。それでいいのか創世神。
膝がガクガクと震えて思わず座り込んでしまう。震えだらけの思考の中で、私が今置かれている状況を確認してみる。

私が今いる橋は主人公の彼が神羅兵に追われて列車に飛び乗った所。実際橋の下には線路が通っている。これが夢だったならば、とても喜べただろうに。あいにく、この状況で喜べるほど私の神経は図太くない。
仮に今ここに私が存在しているとしたら、元々の世界のトラックに轢かれそうになった私は何処へ消えたのか。あっちで生活する…すなわちここにいる私とは違う私が存在しているのか、跡形もなく消えてここにいるのか。「私」が2つに別れた可能性と、「私」が移動してきた可能性。こんなSFチックな事を考えてしまうなんて、本当に頭が狂ってきたみたいだ。

さて、話を戻そう。一番大事な事を考えなければならない。そう、私は元の世界に帰る事が可能なのか、という問題だ。
事故にあった私の命が残っていれば、元の世界に戻ることも可能だろう。だけど、もし命がなかったらそれさえも叶わない。
行ったり来たりする思考は、どうしてもSF展開の方へ傾いてしまうみたいだ。


「…訳わかんなくなってきた。」


とにかく、ここがゲームの中だとすると八番街の筈だ。ここら辺は何となく危険だと思う。
あくまで勘にすぎないが、ゲームをやって来た一オタクとしての勘は侮れないものだと理解している。ひとまずここから離れよう。行く方向は知らないけど足を進めることにする。適当に生きていく方法を探そう。どこかに親切なひとがいるだろう、なんて考えていたその時のこと。


「おい!そこの男!!」

「神羅兵か…やってやるか。」


耳に飛び込んできたのは、そんな会話。すぅーと自然に耳に入ってくる綺麗な声。間違いなく、ゲーム内のセリフだ。一言一句正しい。何回もやってきたゲームだ。忘れないはずがない。

いや待てよ、このセリフを発したのは確か、

そこまで考えた時、私の足は動き始めていた。ちょっと息切れするほどの長い道を、全く知らない人達が私を見ながらも、私はただひたすら走る。
お願い、「あの人」でありませんように。
そんな風に願っている筈だ。ゲーム内の世界に入ってしまっただなんて現実、嫌でも認めたくないし。それなのに、心の何処かで彼であって欲しいと願っている自分もいる。なんて矛盾だ。なんて馬鹿らしいんだ。

矛盾だらけの自分を振り切るように走る。この角を曲がれば…そんなことを思って。息切れをしながらも勢いを付けて角を曲がるとそこにいたのは、特徴的な金の髪、透き通る蒼を持った……




出会う筈のない人



今までの思考は全て飛んでいって。
一瞬交わる視線に、心を奪われてしまったのだ。

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