2018誕生日




8月10日、朝っぱらから私はずっと考え込んでいた。内容はもちろん私の大好きな彼氏のこと、つまり明日に迫ったクラウドの誕生日の事だった。焦りまくって仲間に意見を求めたが、「そういうのは彼女である蜜柑がやった方がいい」とのこと。彼女なんて照れるなぁ…とか言ってる場合じゃない。
マジで時間が無い。

いや、別に彼の誕生日を忘れていたわけじゃない。いくらなんでも、そんな薄情者ではないさ。その印に、ちゃんと彼のパーティーを開くための飾り付けだとかは用意している。テーブルクロスとか、綺麗なライトとか、飾り付けさえできれば、パーティ「は」開くことが出来るのだ。じゃあ何か、というと…彼へのプレゼントが決まらないのだ。

彼は、不思議な人だ。
最初出会った時は冷たい人だとか思って何度も衝突したけど、その事実が虚像だと知り変わっていく姿、「本当の自分」を取り戻せた姿、その全てが私にないもの(他の人もないだろうけど)で、その不思議さに惹かれてしまった。今でも性格に対する不思議さはないものの、几帳面な見た目に対してちょっとした所に鈍感だったり忘れ物をよくしたり、なのにバイクに対する熱情は人一倍で。そんな見た目と中身が、それ以外の何かが、釣り合っていない人をどうして不思議でないと呼べるだろう。
だから、そんな彼に渡すべきプレゼントが分からなくなってしまったのだ。

お店でいつも頑張っているティファには優しい香りのするハンドクリームを、年齢の割にお茶目なマリンには色つきリップを、油田発掘に精を出すバレットには「治療」の魔法をかけて毒のステータス異常を起こさないタオルを。皆、それぞれの性格に合った物を渡すように心掛けてきた。
だけど、彼は違う。
彼は物欲もないのか、バイク以外にお金をかけるものはない。働くばかりで、依頼がない日はのんびりと部屋で寝ているかバイクの手入れをするのみ。正直言って、私よりもバイクを大事にしているのではないかと思っているのでバイクの為になるものは渡したくない。
バイクは私の敵!永遠のライバル!!
そんなわけで、彼へのプレゼントはなかなか定まらない。


「……ってことなんだけど、どうすればいいと思う?助けてよ、ティファ〜。」

「うーん…バイク関係のものは?」

「さらに私に構ってくれなくなるから駄目!」

「参ったわね…」


ごめんよティファ、私のワガママに付き合わせてしまって。だけど、どうしてもバイク関係のプレゼントは受け入れることが出来ない。
これは、私の意地だ!
仲間達に断られてしまった今、この話をしていないティファしか相談相手がいない。マリンやデンゼルにさえ自分で考えろと断られてしまった私に、もう友達はいない。悲しいことに、私には友達と呼べる人が少ないのだ。


「も〜、自分で考えないの?」

「私には何も思いつかない…もうティファしか友達がいないの。」

「そっか…蜜柑って友達が…」

「語尾濁さないで!その気遣いが心に響く!」


ちょっとは茶化した雰囲気が入るものの、私たちの考えは一向に進展しない。参った、もう時間が無いのに、このままではクラウドに何も渡せなくなってしまう。どれだけ考えても何も出てこない。私の頭は元々空っぽだから、絞り出そうにも出てくる物はないのだ。


「ティファ〜!」

「あー、もう!自分で考えなさい!」


耳を塞ぎながらティファが、去ってしまった!私の最後の頼みの綱が!!
お店のバックヤードに逃げていったティファが出てくる気配はない。ああもう私には破滅(物理)しか残ってない。いやクラウドがそんな事する筈がないんだけど。どっちかっていうと、破滅より自滅なんだけど。

うーん、と頭を抱えこんで悩み始めたその時、ちょいちょいと袖が引っ張られる。不思議に思い、そちらをチラリと見つめると、美しいお姉様がいらっしゃった。きゃー、綺麗と思いながら、思わず見つめていると、


「お嬢ちゃん、彼氏さんの誕生日プレゼントに悩んでいるの?」

「あ、はい。」

「それで決まらなくて困っている、と。」

「ま、まあ。」


私たちの話を聞いていたのか、つらつらと私の考えていた事をまとめてくれるお姉様。お、おお…と思いながら聞いていると、


「…すぐに用意出来て、尚且つ彼氏さんに喜ばれるプレゼントがあるんだけど、聞く?」

「えっ。」


怪しげに微笑むお姉様。その美しさと、話題に目が逸らせない。


「…危なくないですか?」

「全然大丈夫よ。」

「…宜しければ、お話して頂けますか?」

「ふふっ、勿論。」


かくして私は最強のお姉様(仲間)を手に入れたのだった。



そんなこんなで8/11、誕生日当日のこと。私はドキドキしながら彼を待つ。
本当にこれでいいの?大丈夫かな、喜んでもらえるのかな?そんな不安を抱えるうちに、玄関が開けられる音がしてドキッとしながら彼の元へ足を進める。


「おかえりなさい、クラウド!」

「ああ、ただいま。」

「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」

「…それとも?」

「…プレゼントにする?」


私の発言に何かを期待したのか目が光るクラウド。だけど、続いた言葉にちょっと残念そう。それに何だかムカッとして、彼の耳に囁く。


「誕生日プレゼント、用意したんだけどな。」

「…じゃあ、そのプレゼント貰ってもいいか?」

「っ、うん、勿論!」


残念そうな目が好奇心の色に染まり、私に期待するように色を変えた。それが嬉しくて、私は身につけていたエプロンから青いリボンを取り出す。流れる仕草でそれを首筋から額にかけて取り付ける。その行動を不思議な表情で見つめてくるクラウドの視線が自然と私の頬を朱に変える。それを振り切りながら結び終えた後、私は彼に向かって両腕を開く。


「誕生日、プレゼントです。」

「なっ、蜜柑…」

「…受け取って、貰える?」


そう、彼へのプレゼントは「私自身」。綺麗なお姉様にアドバイスを貰いながら何とか考えついたのがこのプレゼントだった。
この行動が何を意味するのか分からないほど私は子供じゃない。それでも、貴方を愛する「私」を、貴方に捧げたかったの。
不安で満ち満ちた心臓を落ち着かせながらクラウドへと視線をむける。彼は戸惑いながらも私に向かって尋ねてくる。


「いい、のか?」

「…うん。」


微かに情欲を携えた彼の瞳と、ゆらりと私に伸びる彼の腕。そうして全身に包まれる彼の温かさに目を閉じながら、私は彼への愛をさらに深めていったのだった。




Happy Birthday




大好きだよ、と
そう囁いた。


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