クールな元ソルジャーと買い物にて
「…あ、雪だ。」
星の瞬く空に浮かび上がる光景を見ながら、私は呟いた。
その静かすぎる音に、本当に雪など降っているのだろうか、などと錯覚する。
降っているに違いないのに。
この温度は、確かに感じているはずなのに。
そんな事を考えながら眺めていると、
「…どうした?」
クラウドに声をかけられた。
私より高い視点から、私を見つめてくる。
「ホワイトクリスマスだなぁーって思いましてね。」
「…もうそんな時期か。」
「いや、どこのおっさんだよ。」
年の割に親父臭いこと言っちゃいましたね、クラウドくん。
そんなことを思いながらクスリと笑う。
私とクラウドは、仲間の間でもクリスマスにやることがない独り身だ。
バレットはマリンちゃんがいるし、ティファもお店で忙しい。
ヴィンセントやシドはそれぞれ愛する人の元へ向かい、ユフィやレッドは彼らを待つ家族たちの元へと帰って行った。
つまり、私達だけがのんびり時間を浪費しているのだ。
という訳で、二人で寂しく過ごそうぜと買い物をしに行った。
今はその帰りだ。
私の笑みにクラウドがムッとした顔で言った。
「…別にいいだろ。」
「そうだね、幸か不幸かお互い相手もいないし。」
「それは……」
おやおや、黙りこくっちゃいましたよ。
虐めすぎちゃったかな?
そう思って、慌ててフォローを入れる。
「ら、来年は彼女出来るって!!クラウドイケメンだし!ほら、頑張れ!!」
「……いや、それは別にいいんだが。」
「何でいいんだよ……まさか、好きな人がいるとか!?」
別にいい、そんな言葉から謎の思考を経て、私はクラウドに聞いた。
うっ、と言って言葉に詰まるクラウド。
その瞬間は一瞬だったけど、私はそれを見逃すことは無かった。
「…あのな、そういう訳じゃ…」
「へー!いるんだー!!え、誰!?ティファ?エアリス?ユフィ!?」
「……」
私に向ける視線が冷たくなる。
あ、痛い、痛いよクラウドくん。
「そんなに私に熱のこもった視線を向けなくても…!」
「………」
「あ、ごめんね。怒らないで。」
熱のこもった視線なんて向けてない、と呟くクラウド。
うん、ちゃんとわかってるから、そんな視線向けないで。
視線で穴が開きそうだよ。
私の言葉が信用出来なくなった様子を見せるクラウドに、溜息をつきながら言葉を吐く。
「全く…クラウド、これ本気で言うけどさ。」
「……なんだ?」
「…私は、クラウドを本当にイケメンだと思っているんだけど?」
「……は?」
「あ、ちょっとそんな痛い視線を向けないで。」
さっきとは違う意味で痛くなった視線を向けられる。
毛穴まで見つめられているんじゃないか…!と思うほど見つめられて、私恥ずかしい!照れちゃう!
「…そんな馬鹿な事を言うな。」
「はいよ。」
どうやら私が考えていた事は全部声にでも出ていたようだ。
これは本当に恥ずかしい。
照れるとかそんなレベルの話じゃないね。
社会人として、もうアウトだわ。
はぁーっと白い息を吐いて、寒さで真っ赤になってしまった手を温める。
「…まぁ、さっき言った事は本当にホントだから、信用してほしいなー。自信も持って欲しいし。」
「……ああ。」
ありがとう、と小さく呟くクラウドを横目に見てニヤリと笑う。
「だからさー…好きな人の相談とか受け付けたいんだけど。」
「それは蜜柑が聞きたいだけだろ。」
「いやいや!!私はクラウドの為を思って言っているんだよ!!」
私の理由を全てクラウドに押し付けて、私は根掘り葉掘り聞こうとする。
「でさー、まず相手は誰?どんな人?どこを好きになったの??」
「質問が多いな…」
はぁ…と溜息をつきながら、遠い星を見るように彼は呟き始める。
「相手の名前は言わないが…」
「言えよ。」
「少し黙って聞いてろ。
…そいつは馬鹿で、煩くて、鈍感で、勘違いばかりする奴で、どうしようもない馬鹿だ。」
「おい、馬鹿を2回も言うなんて相当な馬鹿じゃないか。よくそんな人を好きになったもんだな。」
「俺もそう思う。だけど…」
ふぅーと息を吐いて、寒さのせいなのか、それともこの話のせいか赤くなった頬を緩めるように、クラウドは話す。
「そいつが居れば空気が温かくなって和やかになる。そいつは自分の見える範囲の人を必ず一人にしない。なんだかんだ言って優しかったりする…かもしれない。長所より短所を見つける方が絶対早い奴だけど…」
クラウドの目が、誰かを見つめる瞳が、柔らかい。
とても甘くて、溶けそうだ。
「そんなあいつの事が、好き、なのかもしれないな。」
「……う、っわ。」
ぶわっと肌が熱くなる。
冬なのに、雪が降っているのに、暑くてしょうがない。
え!?今冬だよね!?クリスマスだもんね!?
「…なんだ?」
「い、いやぁ…クラウド、よっぽど愛してるんだなぁと思って…」
「なっ、何言って…!」
クラウドの顔もみるみるうちに赤く染まっていく。
私も何故か分からないけどほっぺが暑いから赤いもの同士だ。
暗い夜道に赤い頬をした2人が並んで歩いているとか、すごくシュールなんだけどね。
「すごいなぁ…私そんなに本気になった人いないからなぁ…」
「…好きな奴もいないのか?」
「居ないねぇ。てか好きな人いたら猛アタックしてるよ。わかるでしょ?」
「確かに相手が負傷しそうな位やりそうだな。」
「怪我させる程アタックしないわ。」
あーもう、何で恋バナしてんのにこんなに色気のない話になるんだろ。
不思議すぎるんだけど。
「……うん、じゃあクラウド、頑張ってね。応援してるよ。今からその子の所へ行ってみない?」
「……行かないね。」
「えー、その子のこと見てみたいー!」
「…………鏡でも見とけ。」
ん?最後にクラウドがボソリといった言葉、何だった?
私には聞き取れなかったようだ…難聴の始まりだな。
「……なあ、蜜柑。とにかく帰らないか?」
「…そうだね、本格的に寒いもん。」
ぶるりと身体を震わせながら両肩を抱きしめる。
さみーと言いながら縮こまる私に、クラウドがため息をついた。
「……ほら、手を貸せ。」
「…え、あ。」
私の手を握りしめたかと思うと、そのまま彼のポケットに私の手ごと突っ込んだ。
寒気に直接当たってないせいか、地味に暖かい。
…てか、体が熱くなる。
「え、何コレクラウドくん、君ってそんな奴だったのか。」
「…雰囲気だけでもな、と思って。」
「ちょっとそこ、真面目に返さないでよ。私が馬鹿みたいじゃないか。」
「みたい、じゃなくて馬鹿だ。」
「なんてことを。」
仮にも女子だぞ、と言えば、仮だなと言い返される。
もう私達は末期だ。
「…来年は、」
「ん?」
クラウドがボソリと何かを呟く。
その言葉の続きを待っていると、クラウドも空気を呼んでか話し始めた。
「来年は、来年のクリスマスは、こうじゃないといいな。」
「そうだね、私は頑張って相手を探さなきゃ。クラウドは片思い頑張れ。」
「…こんな状況、頑張って変えてみせるさ。」
「さっすが頼れるヒーロー!」
「……せめて、意識だけはして貰わないとな。」
意識?と聞き返そうとすると、クラウドに握られた手が、強く握りしめられた。
痛いくらいに、強く、優しく、温かく。
矛盾しているけれど、本当にそのように握られたんだ。
思わずクラウドの顔を見つめれば、その横顔が笑ったようだった。
「…まぁ、今はまだいいかな。」
「えー、頑張らないとー。」
「…今が、楽しいんだ。」
「ふーん…」
よく分からないけど嬉しそうなので敢えてツッコまないこととする。
私達には甘い雰囲気など必要ないらしい。
ちらほらと雪の積もり始めた道を、私達は手を握りしめ合いながら帰り始めた。
甘い雪など溶けてしまえ
私達は甘い雪とは無縁なのだから、と考えていた翌年のクリスマスにて、昨年とは違った様子の私達が見られたというのはまた別の話にて教えることとしよう。
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