捧げ物キリリク333番


お花畑にて戯れる美しき少女とそれを観察する長髪の男性。
これだけ聞くと「少女!逃げて!!」と言いたくなるだろう。
他ない私もそうだからだ。


「いや、蜜柑先輩。流石にそれはツォンさんに失礼ですよ。」

「いいんだよ、ツォンさんだから。」


良くないですよ…とため息をつきながら私の隣にいる青年は、神羅兵のクラウド君。
ヘルメットを外す事はなかなか無いけど、前に見せて貰った時は、美しい金髪と吸い込まれるような綺麗な瞳を持つ「可愛い」に入るジャンルの青年だ。

彼との出会いはつい最近。
タークスの仕事で神羅兵と一緒にやる事があったんだけど、モンスターの登場によって戦闘が始まってしまった。
その時に戦闘での相性がピッタリだったんだよね。
援護欲しいなって思った時に援護射撃が来たり、私が倒しにくいタイプの敵を倒してくれてたり。
こんなに思い通りになった戦闘は初めてだったから、猛烈なアプローチの末、神羅兵くんの名前を聞き出した、と言うわけだ!
まぁ、その後クラウド君は心無しかげっそりしていたけどね。

話はさっきに戻って、私の上司であるツォンさんと、古代種と言われるエアリスと言われる凄く可愛い女の子を観察する私たち。
元々この任務は極秘で、上司であるツォンさんにしか知らされてなかった。
だけど、私が盗み聞きしてしまったのがツォンさんの運の尽き。
こうして危うい事がないか心配して観察しに行こうとしたら、途中でクラウド君に遭遇してしまって、一緒に秘密を共有した、という過程となった。
バレたら殺されそう、マジで。


「あー、またツォンさん近づき過ぎだよ。あんなのロリコ…ゲフン、可愛い少女を愛でる人みたいだよ。」

「…ロリコンと同じ意味ですよ。」


仮にも上司ですよ、と言うクラウド君。
いや、仮じゃないよ本当に私の上司だよ。
どうせ私が本当にタークスなのか疑っているんだろう。
私は本当にタークスの一人なのに!
クラウド君は最初はかしこまっていたのに、今となっては塩対応が多くなってきましたよ。
切ないねぇ。
そんなことを思いながらツォンさんたちを見ていると。


「あー!ちょっと待って!!ツォンさんダメ!それ以上近づくのは禁止です!!」

「蜜柑先輩、流石にツォンさんもそんなことは…って、あの子に叩かれてるじゃないですか。」


やっぱり我らがツォンさんは期待を裏切らない。
近づき過ぎたのか、お花を踏んでしまったのか知らないけど思いっきりビンタされていた。
ま、たまにはそういう事があってもいいよね。
上司だし。


「どれだけツォンさんに恨みがあるんですか…」


あれ、思っていたことが口に出ていたようだ。
ため息をつきながら眉間の辺をグリグリするクラウド君。
あー、もうイケメンっていうのは本当にいいね。
目の保養になるよ。


「クラウド君、めっちゃ色っぽい。」

「はいはいそうですか…って、何を言って!」


私の言葉がどこかおかしかったのか、クラウド君は真っ赤になってあたふたしてる。
あー、本当にクラウド君可愛すぎだよ。
愛でたい、うん。
私が一人うんうんと頷いていると、クラウド君は絞り出すように小さく言った。


「蜜柑先輩だって…」

「お、私が何!?」


聞き耳を立てて静かに待つ。
私にしては珍しい行動だと自分で思う。
彼もそれに驚いたのか、クラウド君は目を丸くして黙ってしまった。


「どうしたのさー。」


近づいて顔をのぞき込むも、クラウド君は顔を反らせるばかり。
そうなると、言わせたくなるもんだよね!


「クラウド君!」

「…はい。」

「言いなさい!言わないと…悲しいでしょ!」

「…あー、そうですね。」


はあ…とため息ついて、彼は言った。


「俺は…蜜柑先輩が、可愛いと思います。」

「……え?」


予想外の言葉に身体がフリーズする。
どうせひねくれた事を言うんだろうな、なんて思っていたら、まさかの予想を裏切られた。
で、でもお世辞だよね!多分そうだよね!?


「え、えっと……ありがと、う?」


お世話だってわかってる筈なのにどんどん火照っていく顔を何とか収めつつ、きっと不細工なんだろうな、そんな顔で笑った。
これはお世辞だ、と言い聞かせながら。
ちょっとだけザワつく胸なんか無視して。
それを見たクラウド君は、ちょっとだけ悲しげに微笑むと、小さく呟いた。


「…俺、ソルジャーにもなれなかった男ですけど、お世辞とか嘘とかは言いませんよ。」

「うっ…」


まさかの心を読んだかのような展開に、ぐうの音も出ない。
しかも前に話してくれた過去の話を出してくるとなると、もう何も話せない。
それが伝わったのか、クラウド君はポツリ、と声に出した。


「俺は思った事しか話さないし、特別な言葉は特別な人にしか話しません。」

「……え?」


確かに前者はクラウド君らしい。
冗談を言った事はないと思うし、事実しか話さないのは確実だ。
だけど…後者は?
特別な人?

訳の分からない展開に、頭がショートしてついて行かない。
今なら頭から電気が発生しそう。
ぼーっとしてしまって、ツォンさんの偵察どころじゃなくなってしまった。
はあ、とため息をついて、呆れたように彼は言う。


「…まだ、気づきませんか?」

「な、何に?」


もう私の理解範囲を超えてしまったようだ。
頭はパニック、真っ白。
クラウド君の綺麗な蒼色から目が、離せない。


「俺は……蜜柑さんが好きです。」


いつもは先輩、と言っているのに。
呆れたように、笑っているのに。
こんなに真剣なクラウド君を、私は知らない。


「こんな俺にも、いつも笑顔でいてくれて。優しい言葉を掛けてくれて。俺は、きっと貴女に出会った時から惹かれてたんです。」


「後輩」のクラウド君が、後輩じゃない姿を見せるなんて、といった思考が邪魔して、上手く物事を考えられない。
いつもの私なら仕事の都合で…だなんて断っていただろうに、それが出来ないのは何故だろう。


「……蜜柑、何やっているんだ。」

「…え、つ、ツォンさん!?」


どうやら、ぼーっとして言葉を噛み締めているうちにツォンさんに見つかってしまったようだ。
クラウド君は気配を感じてヘルメットを被っているし…
え、待って、私殺されるんじゃない?

目の前にはツォンさん。
背後には心無しか般若が見え隠れしていて血管が浮き出ていて何が言いたいかって言うとつまりヤバイ。


「……ズラかるよ。」

「そう言うと思ってました。」


悪党がいうようなセリフをクラウド君に言った後、私は大きく息を吸い…


「逃げろー!!!」


同時に走り出す私たちに、驚いたようなツォンさんの声。
そして、可愛らしい少女の声に戸惑う姿を遠目に見ながら、私達は逃げる。
それが何だかとても面白くて、いつしか私達は笑っていた。
横目で見ると、クラウド君はヘルメットを脱ぎ捨てて、汗をかきながら笑っていた。
何だかクラウド君を見ているうちに、さっきの事が、ふいに頭に蘇った。

後輩君が、後輩君でいなくなる。
それに困っていたんじゃない。
私自身の心のあり方に戸惑っていたんだろう。
こんなにもときめくなんて、こんなにも心が「歓喜」に満ちるなんて。
そんな心が、私自身を困らせていたんだ。

そんな事を走りながら考えているうちに、何だか悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった。
だからさ。
私は叫んだんだ。


「クラウド君!」

「何ですか?」

「私は!返事をします!」


小さく息を飲む音が聞こえる。
きっと緊張しているんだろうな、流石のクラウド君とはいえ。
くすり、と笑って私は呟く。

勿論、返事は────



始まりは貴女の慌ただしい声



「ねえ、そこの神羅兵君!私と(戦闘の)相性ピッタリだったよね!?名前教えてよ!!!」

「え、嫌です。」

毎日続いていくであろう日常に、祝福を────





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この作品は、リズム様のみお持ち帰りください。


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