「クラウドー、構ってー。」
「……。」
「ねぇってばー。」
「……。」
聞いてますかー?と呼びかけても、帰ってくるのは吐息だけ。それをただじっと部屋の端から呼びかける私はとても間抜けだ。
クラウドは私よりも本に夢中らしい。確かに本を読むのは大事だと思う。だけど、久しぶりの休日くらい彼女に構ってくれてもいいじゃないか!
「ねぇー、クラウド君ー?」
あ、ため息ついた。結局戻ってくることのない返事には悲しくなるよ、もう。
私達はセフィロスを追う途中だったんだけど、たまには休憩するのもいいよね!って事でコスタ・デル・ソルにて今日1日休暇となったのだった。
つい最近、私はクラウドに告白した。そして、見事成功してクラウドの彼女となった私は、クラウドが買った別荘にて泊まることとなった。
なのに、だ!イチャイチャするどころか、会話さえしてくれない!もうこれは怒ったぞ!…だなんて、考えていたんだけどなあ。あまりにも構ってくれないせいか、なんだか悲しくなって騒ぐ気力もなくなっちゃった。クラウドは何故か別荘に入った途端にソファーに座って本を読み始めるしさ。私なんか眼中にも入ってないって言われているみたい。
そういえば、私が勇気を出して告白した時も、クラウドはただ頷いただけで何にも言わなかった。私からはクラウドに話しかけるけど、クラウドからは話しかけてくれたことはない。
…待てよ。私は、本当にクラウドに愛されているのか?いや、それ以前に付き合っているのか?
ぐるぐると周り続ける思考に、完全に疲れ果てた私は、フラフラとした足取りでソファーから離れた所にあるベッドにダイブした。ちょっとギシッと音が部屋に響くが、まあ気にしないこととしよう。
私は、クラウドが大好きだ。愛してる。もう結婚してもいいくらい、本当に好きなんだ。異常かもしれないけど、それでもこの愛に嘘偽りはない。
だけど、クラウドは?私はクラウドの気持ちを聞いたことがない。本当に私を好きで付き合ってくれたのか。それとも、そんな気持ちを抱いていないのに付き合ったのか。前者は問題ないとして、仮に後者だったらどうしよう?
こんなに好きなのに。
こんなに大好きなのに。
愛しているのに。
…あれ?何だか視界がぼやけてクラウドのカッコイイ顔が良く見えないや。
胸の奥がじわりと滲んで染まっていく。それは止まることを知らず、どんどん広がっていく。それがどうしようもなく悲しくて、私はそれを覆い隠すかのように静かに目を閉じた。
────そんな時、
「……何やっているんだ。」
パタン、と静かになった部屋に本の閉じる音がよく響く。返事なんかする気力はもうない。私にあるのはクラウドと一緒にいられないという悲しい現実だけ。私が出来るのは、ただ布団にしょっぱい染みを作らないように頑張って我慢することだ。あ、鼻水も。
死んだ魚のように動かなくなった私を見て、何を思ったのか再びため息をつくクラウド。やっぱり私に呆れたのかな?それとも元々興味なんかなかった?もうこれ以上悲しい思いなんかさせないでよ。そうするくらいなら、いっそ貴方の手で、この関係を断ち切ってくれればいいのに。
そんな事を思い、ギュッと閉じた瞼の上から、
大きな、暖かさが降ってきた。
「……え?」
「…黙ってろ。」
耳元で呟かれるのが、いつも聞いているよりも低い声で、若干掠れていて不覚にも胸が高まる。だけどこの行為でさえも、もしかしたら私を慰めるだけのクラウドの優しさから来るものなのかもしれない。
そんな不安を抱きつつ、黙って抱きしめられていると、業を煮やしたのか、クラウドが怒ったように呟いた。
「別に無視しているわけじゃない。」
首元にナイフを当てられたかのようなヒヤリとしたものが身体を伝って流れた。ま、まさか…クラウド、私が変な事考えていたの、わかってたり…しない、よね?聞こうとして口を開くも、彼が再び話し始めた事で閉じるしかなかった。
「我慢しているわけでもないし、あんたを、そ、その…好き、じゃない訳でもない。」
何が言いたいんだろう。それがイマイチわからずに思わず聞き返した。
「…私、馬鹿だからさ。クラウドが言いたい事わかんないや。」
ほんのちょっぴり涙ぐんで、それを見られないように彼の胸元に顔を預ける。このくらい許されてもいいよね。そんなことを思いながら。
頭の上の方で彼の小さな呼吸を聞きながら、静かに目を閉じたその時。
「…俺は、あんたが好きだ。」
「……え。」
小さいながらも、確かに言い切ったその言葉に動揺を隠せずに勢いよく顔を上げようとする。だが、残念ながらクラウドの動きの方が速かったようで、私の頭は上がらないようにガッシリと抑えられている。動かない事を悟った私は、暴れてクラウドの顔を見ようとするのを止め、クラウドの話を再び聞こうとした。
「…俺は口下手だ。だから分からなかったかもしれないが……ずっと好きだった。今だって緊張しているし、こんなに好きになった人は他にいない。きっとあんたに会った時から好きだったんだ。いつか告白、しようとも思ってた。」
だけど、まさか告白されるとは思わなかった、と自嘲めいたように笑う彼に、とうとう私の力がリミットゲージを突き破った。押さえつけられていたクラウドの腕を振りほどくスピードと強さで、思いっきりクラウドの顔を見る。その顔が、私が予想していたとおりに皮肉めいたものだったのを確認して、私は叫ぶように言った。
「本当に好きなの!クラウドが大好きなの!だけど、クラウドは好きって言ってくれないし、私だけがクラウドを好きなんじゃないかって不安になるし…」
だんだんと語尾が小さくなっていくが、そんな事で挫けていたらセフィロスは倒せない!と自分に言い聞かせて、最後まで言い切ろうとする。
「私だけが好きなんじゃないって思ってもいい?私達は、本当に両思いだって思っていいの?」
じっと見つめられる視線がちょっとだけ痛いけど確かに言い切った私を見て、ふっとクラウドは笑った。
「あぁ。」
たった一言に、全ての思いを込めて。向日葵の花が咲くような、そんな眩しい笑顔で。クラウドは、確かに笑った。
それを見ながら、私も最上級と思われる笑顔で、今度こそ彼に問いかける。
ねぇ、構ってよ。
もちろん、と。
そう言った彼の腕の中にて、ふわりと包まれる。