「…起きたか。」

「あー…うん、おはよ。」

「…ああ。」


寝ぼけ眼の私に優しく微笑むクラウド。くすりと経験しなかった日常を微笑むかのように優しく、甘く。溶けちゃいそうだな、と思いながら私も微笑み返す。窓から入り込む暖かな光が、向日葵色の髪をキラキラと反射させ陰影をも美しく描き出す。
あぁ、綺麗だ。

こんなに当たり前のような朝を、幸せに思うのは罪だろうか。これからも思っていたいと思うのは、罪だろうか。…だなんて、ちょっとシリアスめいた気分になってみたり。
目尻に残った小さな雫をさっと拭き取り、大きく体を伸ばす。


「んー!よく寝た!」

「寝過ぎだ。」

「いや、クラウドが早すぎるんだよ!」


いつものやり取り、いつもの光景。こんなに幸せな時間が信じられないほどに、以前が殺伐とし過ぎていたのを実感して。過去を振りほどくかのように、私はベッドから飛び降りる。


「…さて、私より早く起きたクラウドくんには、コーヒーを入れて差し上げよう!」

「……毒とか入れないよな?」

「入れないよ!!」


全く…こういう所は記憶を取り戻す前と変わらないんだから!

記憶を取り戻し、セフィロスを倒したクラウドは前よりも頼もしく思えた。あんなに傷ついて、沢山の気持ちの重さを実感して…それでも、壊れなかったのは、やっぱりクラウドがすごいからだ、と思う。きっと自分をちゃんと見つけられたからだね。だから、きっと君は強いんだ。

…だけど、そう思うと同時に、少しだけ儚くて。
前のクラウドとはやっぱり違うということもある。そりゃあ、親友の記憶とクラウドは違うもんね。だけどそれとは別に、「クラウド」自身の危うさを感じるんだ。どうしてもフラリ、と消えてしまいそうな、そんな儚い危うさを。隠し事をしてるの?と直球に聞いてみたけど、はぐらかされて駄目だった。
どんなに聞いても答えてくれなかった。
そんな時、ふと消えてしまいそうな感覚を受けてしまうんだ。

私はなんにも出来ない。私から行動したところで、きっとクラウドは拒否してしまうのだろう。それならとクラウドが話してくれるのを静かに待っていても、彼は決して話さない。信用はされているだろうが、それ以上に彼の心は堅いのだ。良くも悪くも彼は強い。私なんかよりも、ずっと。
だから、私は独り、張り裂けそうなこの意味のわからない感情を押し殺すんだ。いつか、彼が話してくれることを信じて。

────ピーッとヤカンが鳴り出す。
おっと、どうやらお湯が湧いたようだ。
ゆっくりとコーヒーを注いだ私はクラウドの所に持っていく。


「…ん、どーぞ。」

「…ありがとう。」


お礼を言うクラウドを見ていると、私の心配など些細なものだ。そう、信じたい。
私はコーヒーと一緒に持ってきた角砂糖を一つ、手に持った。


「お砂糖はいかがー?」

「いや、大丈夫だ。」

「ふーん、そっか。大人だねぇー。」

「そうでもない。あんたが子供なだけだ。」

「あーもう、ひどいなぁ!」


こんな日常が毎日続けばいいのに。そんな事を思いながら私は一つ、カップの中に角砂糖を沈めた。




静かに溶けてく苦い心




次の日の朝のこと。
そんな日常は嘘だったかのようにキミは突然消え去った。






────────────
AC前、2人は友達以上恋人未満の設定です。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -